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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第128回 栃木保健医療生活協同組合宇都宮協立診療所 
栄養科のこつこつ改革! Vol.2

はじめに

 前回より、宇都宮協立診療所栄養科が行っている栄養ケアにおける地道な改革をご紹介しています。
 患者の食べる様子と、食べたい気持ちに向き合い、リハ栄養や低栄養予防・改善に役立つ工夫を重ねてきた経過をお伝えする2回目です。

「リハビリおやつ」の次の手
エネルギー摂取量の底上げを実現

 前回の記事では喫食率が上がらない患者との出会いをきっかけに、「リハビリおやつ」を導入したことをご紹介しました。
 ただし、リハビリおやつだけで目標としていたエネルギー補給量を満たそうとすると、量が多くなってしまい、食事に影響が出てしまうため、量を加減せざるを得ませんでした。対象となる患者は概ね500 kcal程度はエネルギー補給量を増やしたいところ。管理栄養士の鈴木美喜さんは、実現可能な対策を探して、栄養関連の勉強会などに参加し、情報を集めました。
 そんな中、足を運んだ勉強会でニュートリーコンク(第9091回)を知り、活用事例を聞く機会を得て、導入を検討したといいます。
 まず、エネルギー摂取量のもっとも低いミキサー食の患者に導入することとし、コスト的にも1人当たり1日1本(200ml/500kcal/たんぱく質16.2g)の導入が可能と算出でき、診療所の管理会議で承認が得られました。

「主に料理をのばす水や出汁の代わりに用い、リハビリおやつの材料にもしました。
 料理の見た目は並べて比べれば、ほんのり白っぽく見えますが、においも味も変わらず、エネルギーを大きくアップすることができる食材です。
 調理の手間や工程はほとんど変わりがありません。
 とろみがあるため、とろみ剤の節約にもなっています。
 その後は、キザミとろみ食を召し上がっている方でも、低栄養の方、喫食率が低い方などには加えるようにしました。
 現在は、高齢な患者さんの場合、栄養状態が良好ではない方が多いため、全員に加えることを検討しています()」(鈴木さん)

  • 取材時<2017年12月初旬>、2018年2月より、キザミとろみ食は、カロリー制限のない方、全員にニュートリーコンクを加えている

 ニュートリーコンクを導入する前は、ミキサー食の人に提供していた食事での1日のエネルギー量は1000 kcal/たんぱく質45g程度でしたが、導入後は1500 kcal/たんぱく質65g程度となり、目標としていた数値をほぼクリアすることができました。
 また、リハビリおやつに始まる一連の改革は、栄養以上の効果をもたらしています。
 それは、提供している食事と喫食率、患者の栄養状態などについて栄養科が課題を見出し、診療所全体で検討してもらう機会をつくることで、改めて栄養ケアの大切さを認識してもらう機会になったこと。
 さらに患者や家族と「食べること」について対話を繰り返す中では、患者や家族が「食べることをあきらめない」「食べるケアが受けられる」と認識し、食の意欲が引き出されたことも、大きな成果といえます。
「少しずつ食べられる量が増えることで、より食べられるようになっていくということは実際にあると思いますし、おかずの残滓が減り、食べてもらえる量が増えたかな……という気づきはあります。とはいえ、栄養改善ができたというデータはとれていません。
 ただし、管理栄養士2人が月ごと交互に病棟の担当となり、患者さんやご家族と直によく話していて、工夫に対してプラス評価のご意見をうかがうことができています。
 そんな中で『食べる喜び』や『食べさせる(一緒に食べる)喜び、期待』をうかがうとうれしく、これからも工夫を続けたいと思います」(鈴木さん)

 2017年度からは2名体制の管理栄養士がそれぞれより活躍できるよう、医師の発案で便宜的に「太らせる栄養士」(半田仁美さん)と「痩せさせる栄養士」(鈴木さん)という役割分担を行い、それぞれ専門的に情報収集をし、情報交換・シェアする体制になったということです。
 そして、「退院時に栄養相談をして、地域に帰った患者さんをそのままにしておきたくない!」という気持ちから訪問栄養指導もスタートさせています。

 次回に続きます。

いいご近所づくり大会議 2018
“食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1日 開催!
食支援のフロントランナーが集い、摂食嚥下リハ・リハ栄養・多職種連携&まちづくりの視点で、食べることを支える在宅ケアの理論と実践を語るシンポジウムが開催されます。

「食支援」に興味・意欲がある人は見逃せない、またとない講師布陣。ケアの現場で悩みがある人は、胸の中のもやもやを講師や参加者との対話で革新のきっかけに変えませんか? この際、食支援の大切さにピンときていない上司や同僚を連れて行っちゃう、というのも開眼・協働のチャンスになるかも!
  • 登壇者:戸原 玄先生(歯科医師・歯学博士)
    若林秀隆先生(医師・医学博士)
    河瀬聡一朗先生(歯科医師・歯学博士)
  • 日 時:2018年4月22日(日) 13:00~18:00
  • 会 場:ビジョンセンター永田町 6階 ビジョンホール
  • 参加費:5000円
なお、このシンポジウムの主催は、今年2月、「ケアクリ会議Vol.4」を開催したグッドネイバーズカンパニー。「つながり」と「健康格差」をテーマにこれからのケアの在り方が熱心に語られた会議については、こちらに公開レポートがあります。