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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第127回 栃木保健医療生活協同組合宇都宮協立診療所 
栄養科のこつこつ改革! Vol.1

はじめに

 昨年秋に東京で開催された「2017年度医療福祉生協連 口腔リハビリテーション研修会」(主催:日本医療福祉生活協同組合連合会)にて、宇都宮協立診療所栄養科が行っているさまざまな改革について、発表を聞きました。
 「地域のかかりつけ医」として内科・小児科を中心に総合診療を行う病床数19床の診療所の栄養科メンバーは管理栄養士2名、調理員3名の所帯。患者の栄養ケアに当たる中で感じた“もやもや”を、周囲の協力を得ながら解消し、栄養以上の支援をめざしています。“もやもや”とは、気づいてしまった課題です。
 気づかなかったことにはできない。けれど、毎日の仕事をこなす中ではなかなか向き合い、変化を起こせない。職種は違っても、誰でも、そのような経験はあるのではないでしょうか。
 発表を聞いて、課題と向き合い、工夫を重ねた経過を素晴らしいと感じました。途上にある取り組みだということですが、プラスの循環をご紹介します。

喫食率が上がらない患者の栄養アップ
初めの1歩は「リハビリおやつ」

 宇都宮協立診療所の入院患者の多くは、訪問診療を受けながら療養している患者が軽症の急変を起こした場合や、近隣の急性期病院での治療を終え、転院してくるケースなど、ほとんどが高齢者です。  転院の場合も、急性期医療を受ける前から外来通院や訪問診療で診ていた患者であることが多く、希望通りに自宅へ帰って生活できる状態まで、回復を支える医療の中で「食べることのケア」は欠かせません。
 ほとんどの患者が摂食嚥下機能の低下や廃用、低栄養、サルコペニアといった食べることに関係する問題を抱えています。急性期では食事が止められていた患者も多いため、転院後は、医師による摂食嚥下機能観察の後、食事の様子を病棟看護師と管理栄養士で確認し、本人の希望も聞いて、食事と、食べたい気持ちを支えます。
 経口摂取できる患者の食形態はキザミ・軟菜キザミ・キザミとろみ・軟菜キザミとろみ・ミキサー・ミキサーとろみの方がほとんど、とのこと()。

  • 低栄養改善に取り組んだ当時。現在の食形態は軟菜キザミ・軟菜キザミとろみ・ミキサー・ミキサーとろみ

 常食を食べられる患者は少ないということですが、このようなケースは急性期から在宅復帰の間を支える診療所の在りようからいえば決してめずらしくないことかと思います。だからこそ、こうした医療機関での食支援、フレイル・廃用予防&ケアは患者の予後の生活を左右する、といえるでしょう。
 そこで、診療所全体で入院患者のリハビリを重視していて、その一端で栄養科は低栄養の改善に目を向けたと話すのは、管理栄養士の鈴木美喜さんです。

「ちょうど『リハ栄養』の大切さを学ぶ機会もあり、低栄養の患者さんがリハビリする様子を見るにつけ、栄養補給の方法を見直す必要を感じました。
 とはいえ、加療や入院によって喫食率が落ちてしまったというより、入院前から十分に食べられていない患者さんも多いのです。
 折しも、提供する食事の2、3割程度を食べると、むせや疲れが出て、箸を置く患者さんがいらして、うかがうと、ご家庭でも『単品を召し上がるだけで済ますことが多い』といった食生活でした。
 ご家族と相談し、嚥下調整食に等しい食形態の副菜やおやつを持ち込んでいただくことができていましたが、それで総体的な摂取量を増やすのは困難でした。
 その患者さんはリハビリや食前の『あいうべ体操』などに取り組み、積極的に食べ物の好き嫌いについて私たちに伝え、意欲、食欲を見せてくれていましたので、持ち込みに頼らずエネルギー補給をすることを考えたきっかけになった事例でした」(鈴木さん)

 リハ栄養の観点から、なるべくならリハビリの後、2時間以内にたんぱく質を含む栄養補給が望ましいこと、食材は“あるもの”または“保存性の高いもの”で用意できることが望ましいこと、食事に影響しないで出せることなどを勘案して、「リハビリおやつ」の提供を企画し、診療所の管理会議の承認を得て、2016年11月から提供が始まりました。
 リハビリが行われる火曜、金曜()にココアバナナシェイクやグリーンスムージー(バナナ入り)、きな粉プリンなどのおやつを出すようになったのです。

  • 当時。現在はリハビリが週3日となり、月水金に提供されている

「新たな食材を発注することもなくリハビリおやつを提供するプランを立てることができたのですが、目標としていたエネルギー補給量を満たそうとすると量が多くなり、食事に影響が出てしまうので、量を加減せざるを得ませんでした。
 その結果、当時、火曜日に提供するおやつは平均81 kcal/たんぱく質2.8g摂取、金曜日平均72 kcal/たんぱく質3.5g摂取してもらえるメニューで、改良の必要がありました。
 たとえばミキサー食を食べている方ですと、食事で摂取できるカロリーは完食できても1000kcalですから、常食(1600kcal)と比べて600 kcal低いです。
 これをなるべく補いたい考えでしたので、実現可能なアイデアを模索しました」(鈴木さん)

 次回に続きます。

いいご近所づくり大会議 2018
“食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1日 開催!
食支援のフロントランナーが集い、摂食嚥下リハ・リハ栄養・多職種連携&まちづくりの視点で、食べることを支える在宅ケアの理論と実践を語るシンポジウムが開催されます。

「食支援」に興味・意欲がある人は見逃せない、またとない講師布陣。ケアの現場で悩みがある人は、胸の中のもやもやを講師や参加者との対話で革新のきっかけに変えませんか? この際、食支援の大切さにピンときていない上司や同僚を連れて行っちゃう、というのも開眼・協働のチャンスになるかも!
  • 登壇者:戸原 玄先生(歯科医師・歯学博士)
    若林秀隆先生(医師・医学博士)
    河瀬聡一朗先生(歯科医師・歯学博士)
  • 日 時:2018年4月22日(日) 13:00~18:00
  • 会 場:ビジョンセンター永田町 6階 ビジョンホール
  • 参加費:5000円(早割4000円、3月末まで)
なお、このシンポジウムの主催は、今年2月、「ケアクリ会議Vol.4」を開催したグッドネイバーズカンパニー。「つながり」と「健康格差」をテーマにこれからのケアの在り方が熱心に語られた会議については、こちらに公開レポートがあります。