ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第124回 介護レストラン~あの味をもう一度
在宅高齢者の願いを専門職と市民で叶える Vol.3
はじめに
122回でご紹介した「介護レストラン」(広島県廿日市市にて2017年10月3日開催)が実現した背景にあり、2014年から今も続いている取り組み「<暮らしの中の看取り>準備講座」について、前回よりご紹介しています。
「食べられないに挑む!」学びから実践へ
専門職&市民が動き出し、講座は進化する
2016年度からの「<暮らしの中の看取り>準備講座」には、2015年度の講座内容に「食べることを支える」、「聴く力を養う」を学ぶ機会が加わりました。
とくに食支援についての学びがヒートアップしたきっかけのひとつは、9月に開催された「第10回 <暮らしの中の看取り>準備講座 食べられないに挑む!」でした。
講座を主宰してきた大井裕子先生(社会福祉法人聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科医長)は自ら「がん患者の『食べられない』が『食を楽しむ』に変わるとき」「食事介助ミニ講座」を講義し、さらに自身もメンバーである新宿食支援研究会代表の五島朋幸先生(ふれあい歯科ごとう<東京都新宿区>代表)(第53、54、70回)を招いて「最期まで口から食べられる街づくり」と題した講演で、食べることを支える必要を啓発しました。
また、別の会では新食研のワーキンググループのひとつ、「ファンタジスタ!」を招いて、「食べられない」が起こる原因の多様性を伝えると共に、具体的な予防・対応策について参加者の理解を深めました。
「ファンタジスタ!」は食姿勢をつくり、食事環境を整えて、「食べられない」を防ぎ、改善する理学療法士・越後雅史先生と福祉用具専門相談員・山上智史先生(第101回)のチームです。
この年5月から、講座の運営にも参加する「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」も募っており、サポーターだけで自主的に食支援を実践するための勉強会も重ねられ、約1年を経て「介護レストラン」を実現させた、という流れでした。
前にも述べましたが、この「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」は現在50名を超え、メンバーの年齢や職種は幅広く、医療・介護の専門職に限らず、一般市民を広く受け入れているのが特徴です。“できることをできるときに”をモットーに、共に学びながら、看取りに関わることができる人材育成に参加していて、「介護レストラン」の実行部隊となりました。
「介護レストラン」が発案された当初は、介護食を提供するのか、口から食べること(だけ)が目的か、など、サポーターの思いや考えもまちまちで、その着地点を見つけるところからが、地域で望まれる食支援について考え、実践するプロジェクトでした。
結果として、利用者の希望(行きたいお店の、食べたい味)と楽しい食事を支えるスタイルに決まり、「介護食レストラン」ではなく「介護レストラン」となり、サポーターにとっては学んできたことを実践し、理解を深める場になったということです。
確かに、机上で「食べられない」を学んだだけでは、食べられる人には「どう食べられない」のか、理解しにくいということもあります。また一般の人はもとより、医療・介護の専門職であっても、実際にプロフェッショナルな食事介助や、ケアの様子を見る機会はほとんどない、という人もいるでしょう。
それが共に食卓を囲んで目で確かめられ、目にすればこそ疑問も浮かび、その場に参加したご家族や介護士などがプロの支援の仕方を学ぶ機会にもなって、実のある実践になったとのことでした。
さらに食事を提供した店や、ショッピングセンターからも、「食支援」に対する理解と共感が得られ、今後の活動にも期待する声が寄せられて、三方良し。
ただし、「はつかいち暮らしと看取りのサポーター」としては、食支援の実践のひとつの形ができたとはいえ、その後も学びを続け、これから地域でどのような食支援を実践していくのか、別の形も含めて模索を続けている、とのことです。
なお、「<暮らしの中の看取り>準備講座」で講義された「食べられないに挑む!」学びについては、大井先生の著書「<暮らしの中の看取り>準備講座」の第4章に基本部分がまとめられています。
「食べられない」と判断されてしまった患者、不本意ながら食べることを諦めている患者の中には、まだ食べられる時期、食を楽しむことができる時期であるにもかかわらず、その患者の希望や能力に合った食支援が提供されていないことが多くあります。
「食べられない」は誰にでも起こり得ることとはいえ、実際に「食べられない」事態となったときには原因や適切なケアの見極めが難しく、患者や家族の苦痛のひとつであることを感じながらも、「食べられないに挑む!」は容易ではないと思う専門職の方も多いでしょうか。
「<暮らしの中の看取り>準備講座」第4章には、「食べられない」場合の、さまざまな身体状況と変化に加え、多様なタイミングでの食支援の可能性と、患者や家族の食べることへの思いに対する望ましい援助のあり方がまとめられています。
「ひとことで『食べられない』といっても、食べたいけど食べられないのか、食べたくないのか、がんばって食べているけど食べられないのかによってアプローチが違ってきます。(中略)ここにあげた(1)~(10)の『食べられない』状態へのアプローチの中で、医学的な判断が必要になるのは(1)~(6)で、主治医が積極的にかかわることが求められます。
その他の(7)~(10)については、医師でなくても、一番そばにいる誰もが力になれます」(同書第4章より抜粋)
「『食べられない』原因を見極めるときにも、そばにいる誰かがじっくりとその人が食べられないことについて『聴くこと』が求められている、専門職でなくてもできることがある」と大井先生は話します。
往々にして、本人の気持ちを確認しないまま医学的な判断が優先されたり、専門職だけが対策を考えたりします。しかし、この「まだ食べられる」大切な時期だからこそ、その人の気持ちを確認し本当は食べたいならどうしたら良いかを考えるプロセスが大切なのだと。
「聴く力」はどんな場面でも必要とされており、これは「〈暮らしの中の看取り〉準備講座」第5章で詳しく解説されています。
「食べられない」で苦しむ人のそばに自信をもって立ち、援助するために身につけ、深めていきたい学びの核心を読むことができます。
次回に続きます。
準備講座 中外医学社刊
- ケアクリ会議 Vol.4 開催!
- 参加者募集中
2018年2月24日(土) 10:00~16:30 - 17:00~20:00 「うんコレ感謝祭」併催
場所:千駄ヶ谷 GOBLIN.
参加費:ケアクリ会議 ¥4,000 1日通し券 ¥6,000など - 「10年後、医療・介護・福祉の現場がケア系人材とクリエイティブ系人材のコラボレーションの場となり、創造的な健康課題の解決、価値創出の場に変えていけるように」(主催者発信)。
2014年から一般社団法人グッドネイバーズカンパニーが開催している『ケアクリ会議』、Vol.4が2月24日(土)、東京・千駄ケ谷にて開催されます。
テーマは「つながり」と「健康格差」。
いま医療・介護・福祉の現場で地域の課題に挑んでいる人、「人生100年時代」をハッピーに生き抜きたい人、「人生100年時代」だからこそのワークやビジネスを生み出したい人などなど、見逃せないテーマと1日がっつり向き合える、とのこと。
現在、参加者を募集しています。
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