ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第119回 書籍紹介
「生きることは食べる喜び 口から食べる幸せを守る」
はじめに
小山珠美先生の著書「生きることは食べる喜び 口から食べる幸せを守る」が主婦の友社より発売されています。
総合出版社から、一般の方も含め多くの人へ「食べることをあきらめない」「食べることに挑める」を伝える書籍が出たことは、現在、食支援に携わる専門職の方々には大きな喜びではないでしょうか。皆さんの真摯なケアの意義が、一般のマスコミからも注目されている証です。
一方、多くのメディアで昨今、食支援が取り上げられるようになったのは、それだけ「食べられない」や「低栄養」の問題が一般化し、ケアを必要とする人が増えているのだと思われます。
しかし、まだまだ「食べる」で困ったとき、ケアが受けられることは知られていません。必要とする人に情報やケアが届いていません。
食支援のトップランナーである小山珠美先生の意気を感じることができ、食のケアの留意点を学べる1冊として、これから食支援に当たる専門職の方々や介護に携わるご家族にもぜひお読みいただきたく、本書をご紹介します。
NPO法人「口から食べる幸せを守る会」理事長 小山珠美著、
主婦の友社刊
食支援トップランナーから
断固としたメッセージ
本のカバーの折り返しの部分(ソデの部分)に「食べることをあきらめてはいけない」と朱筆で刷ってあります。
この一語に、小山珠美先生の思いは凝縮されているのでしょう。本書には、食べることをあきらめないために誰もが知っておくべきこと、食事介助の心得、食支援を広げるためにできることがまとめられています。
筆者がとくに感銘を受けたのは、食事介助のスキルを磨き続けることに対する心構えでした。本書でそれはプロのアスリートを例に述べられていて、基本技術を自分の体に覚えこませ、進化させることの大切さが説かれています。
専門の勉強をしても「知っている」と「できる」は違うこと、その違いを埋める精進を続けなければ、患者の「食べられる可能性」を摘み取る危険があるとする厳しい態度が、小山先生の食事介助です。
昨今は高齢化と、介護の重度化などにより問題となるケースが増えたため、専門職向けに「食環境整備と食事介助」「高齢者の低栄養」「経管栄養と摂食嚥下機能維持」「リハビリと栄養管理」など、食べることに関するケアをテーマとした勉強会が多数開催されていて、活況です。
ただし小山先生は専門性を磨くことの必要性を説きながら、「手段と目的をはき違える」危険を指摘し、患者を置き去りにしないことを強調して、目的は、患者や家族が喜びや幸せを感じられるということ、と諭します。
現在、食支援に携わる人には励みとなり、これから食支援に携わることを考えている人には羅針盤となる書です。
また、一般の人に向けて食支援を伝える重要性を理解し、伝えるツールにもなります。
多くの人は、現代医療で「食べることが軽視されている」とは知りません。
健康であれば「食べられない」ということがないので、「食べられない」はイメージしにくく、病気などで「食べられない」があってもやむを得ないものと思います。
まさか「食べられる」のに、医療によって「食べられない」が引き起こされ、放置されるとは思いません。その「食べられない」が生きる力を奪い、ときにいのちに関わるとも考えにくいでしょう。
当然、患者や、患者の家族になったとき、治療の一環で食のケアを受けたいと自ら希望することがどれだけ大切かも知られていません。医療や介護に携わっていない人には、医療のヒエラルキーと横断的ではない仕組みは見えていないのです。
一般の方に、食べることを支えるケアがあること、その必要がある人は多い(他人事ではない)ことを知っていただける良書です。直接、自ら支援ができない患者や家族に、このような本があると伝え、ケアにつなぐこともひとつの食支援になります!