ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第114回 食支援につなげる
「栄養・食べる力」ケアの視点2
はじめに
前回より管理栄養士の安田淑子さん(地域食支援グループ・ハッピーリーブス副代表)に食支援が必要な人を早期発見し、適切なケアにつなぐために、ベースとして必要になるケアの視点について、参考となるお話をうかがっています(全4回)。
前回は「低栄養とその健康被害」「低栄養の兆しの見つけ方」についてうかがいました。
今回は、飽食の時代と言われて久しいいま、なぜ低栄養が起こるのかをうかがいます。
なぜ栄養状態が悪化?
多様な原因
高齢の方は「若い頃のように活動しないから食事は少なくていい」「太るのは病気の原因になるから肉類や油物は控え、粗食にする」など、誤った考えから徐々に栄養不足になることが少なくないようです。
また、食事の回数や量は十分でも、食べている内容が問題で栄養が偏ることもあるようです。
「私が昼食のケアで関わっているデイサービスの利用者さんで、年始に体重が5kgも減っていた方がいました。
聞けば、単身でお住いのその方は、年末年始は配食サービスもデイサービスもお休み。食事は十分に食べていたけれど、食べていたのはお餅ばかり。お腹がふくれていても、栄養は足りていない状態だったのです。
筋肉が落ちて、痩せてしまっていましたが、『お餅があったから、お餅を食べた』と話し、ご本人は問題のある体重減少とは思っていなかったようでした」(安田淑子さん)
例えば18歳も75歳も、例えば同じ量の「たんぱく質」が必要で、脂質を極端に控えるのも間違い、とのこと。
確かに、日本人の食事摂取基準(2015 年版)によると18歳以上のすべての人の「たんぱく質」の推奨量は1日男性60g、女性50g。
総エネルギーに占める「脂質」の割合の目標値は男女共20~30%です。
「多くの栄養素で、望ましい摂取量を示した『栄養摂取基準』の必要量や推奨量は、高齢者も若者も差はありません。ですから『高齢だから控える』『粗食』は間違いです。
むしろ高齢になると栄養素を消化吸収する機能も低下することも加味して、十分に食べなければなりません。持病などがあるとさらに機能低下が起こる場合もあるため、栄養になるものを食べていても、栄養が十分にとれない場合もあります。
しかし家族がいて、食事をしている姿を見ていても、食事内容が偏っていることや、栄養不良に気づきにくいです。少し痩せても、元気そうなら“太るより健康的”と考えがちですが、中高年と高齢者を同じように考えてしまうと、リスクを見逃す危険があります。
ましてや単身の方や、高齢者世帯の場合はより問題が表面化しにくく、大幅な体重減少や、低栄養によって健康被害が出るまで問題視されず、気づかれないことが少なくありません。ヘルパーさんや、高齢者の周囲にいる人が意識的になり、低栄養の兆しを見つけることが大切です。
次のような場合も食事の質や量が偏り、低栄養などにつながる場合が多いので、注意が必要です」(安田さん)
- 歯や義歯、口の中のトラブル
- 食べ物を飲み込む機能低下
- 味覚や嗅覚の衰え
- 心配事やストレス
- 生活能力の低下
- 何らかの理由で外出が困難になる
- いつも独りで食事をとる、食事が楽しくない
- 排せつのトラブル
- 多種類の薬の服薬
- 睡眠のトラブル
- 経済的な問題
その他の原因として筆頭にあげられたことのひとつ「義歯」について、安田さんが所属している新宿食支援研究会のワーキンググループ「エイヨ新宿♡」が貴重な取り組みをしています。
分科会「口腔環境から食支援を考える会」を設け、病院や在宅で高齢者の食支援に携わる管理栄養士のメンバーが「義歯の類似体験をし、高齢者の食事づくりに反映させる」を目的に、歯科技工士の協力で口蓋床をつくり、さまざまな食品を試食して、何もつけていないときと食感や味がどう変わるかを調べているのです。
「口蓋床をつけて食事をして、予想以上に食感や味が変わり、食事量や食事をとる意欲に影響が大きいことがイメージできました。
普段、私たちは義歯を“歯の代用品”と思いがちですが、食事をするために必要な道具として見直す必要を感じました。さらに義歯をつけてもおいしく感じることができる味や香り、温度などを研究していく予定です」(安田さん)
低栄養となる原因が多様なだけに、その食支援のアプローチも多様である必要があり、さらに、十分なケアのためにはさまざまな専門職の協働や共同研究が欠かせない、ということです。
次回に続きます。
- プロフィール
- ●安田淑子(やすだとしこ) 管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。
- 食支援最前線の人・実践法・情報・ケア製品が集まる
「新宿」と「京都」から学べる!
この記事でお話をうかがっている安田淑子さんも所属している新宿食支援研究会主催のイベントのご案内です。 - 第1回 最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会
<タベマチフォーラム> - 日時:9月3日(日)
(開場)9:15、(開演)10:00
会場:東京富士大学 二上講堂 -
- プログラム:基調講演 京滋摂食・嚥下を考える会 代表 荒金英樹先生
講演 新宿食支援研究会 代表 五島朋幸先生
多職種フォーラム
パネルディスカッション など
- プログラム:基調講演 京滋摂食・嚥下を考える会 代表 荒金英樹先生
- 定員:500名 申し込み受付中!
詳細:http://shinnshokukenn.org/mysite2/forum.html - 主催:新宿食支援研究会