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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第113回 食支援につなげる 
「栄養・食べる力」ケアの視点1

はじめに

 介護を受ける人の最も身近にいるご家族や介護職の皆さんは「食べることを支える必要」を最初にキャッチできる可能性が高い存在です。
 介護を受ける人に「口から食べ続けたい」という希望があるなら、それを叶え、元気に、楽しい生活を続けてもらえるように、食支援につなぎましょう!
 まずは支援を必要とする人を見つけること、ご自身がサポートできること、専門職につなぐべきこと、それぞれを知り、ぜひ意識的になっていただきたいと願います。
 新宿を拠点に、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体「地域食支援グループ・ハッピーリーブス」副代表の安田淑子さん(管理栄養士)にうかがった、参考となるケアの視点について、お話を全4回でまとめます。

なぜ食支援?
高齢者の2割は低栄養傾向

 飽食の時代と言われて久しい日本ですから、ご家族には「低栄養」と聞いてもピンとこない方が多いかもしれません。
 しかし、介護職の皆さんは多数の高齢者と接する中で、毎日ご飯を食べていても、栄養に問題があるケースは少なくないと気がついているのではないでしょうか。介護職の皆さんには“おさらい”になるかもしれませんが、まず、高齢者の栄養状態の統計を見てみましょう。

 最新の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省、平成27年)によると、65歳以上で16.7%、80歳以上では2~3割が低栄養傾向とされています。
 また、自宅で訪問診療、訪問介護、訪問リハビリテーションなどを受けている65歳以上の在宅療養者の場合はもっと多いことが調査でわかっていて、全体の7割を超える人が、栄養状態が悪いといえる結果です。

 栄養状態良好(%)低栄養のおそれあり(%)低栄養(%)
全体27.335.237.4
男性29.336.634.1
女性26.134.439.5

(独立行政法人国立長寿医療研究センター、平成24年)

 そもそも低栄養とはどのような状態なのでしょうか。

「低栄養は健康なからだを維持するための栄養が足りない状態で、高齢者が低栄養になると体重減少のほか、脱水、貧血、気力低下などを伴って『フレイル』という状態を進行させる要因になってしまいます。

 フレイルとは、年齢を重ねることによってからだの恒常性を保つはたらきが低下して、ストレス耐性や免疫力が低下し、病気にかかりやすくなることです。
 とくにフレイルの一端で起こる『サルコペニア』という進行性の筋肉量減少や筋力低下に低栄養が大きく関係します。フレイルもサルコペニアも、全身の健康や生活に影響が大きい問題です。

 また、高齢者には『ロコモティブシンドローム』という運動器の障害を起こす人も多いです。これは外出や家事をするなどの生活能力を低下させ、要介護度が上がる原因になる障害で、このロコモティブシンドロームにも栄養不足は悪影響を与えます」(安田淑子さん)

 こうしたことから低栄養は肺炎、骨折、認知症など、さまざまな病気のリスクを高め、病気になった場合の予後(治療効果の出方や回復までの経過)を悪くする原因と考えられます。
 そのため昨今、高齢者を対象にした栄養管理は以前に増して重要視されているとのことです。一方、

「痩せていなくても、体重減少がなくても、体脂肪が多く、筋肉量が減っていれば、低栄養やフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームが隠れている可能性があります。
 太っている人も、脂肪がついているため体重は重いけれど、筋肉や骨、内臓は十分な栄養がとれていないケースもあるのです。
 そして、それは高齢者に限ったことではなく、若い人や、中高年にも起こり得ます。
 実は、介護をしているご家族も、家事や仕事と介護の両立などで余裕がなく、自身の食事がおろそかになり、低栄養を起こすことが少なくありません。
 例えばカップ麺やおにぎりなど、手軽に食べられるものばかりの食生活が続いて低栄養になり、心身の疲労と併せて介護をしているご家族の健康を蝕む原因になってしまうことがあるので、注意が必要です」(安田さん)

 低栄養が身近なこと、そして健康被害が大きいことがわかりました。では健康被害が起こる前に低栄養を見つけるには、どのようなポイントがあるでしょうか。

「骨折や肺炎など健康上の問題が起これば、さらに栄養障害が悪化し、別の健康被害につがなることも多いので、そのような負の連鎖を招かないために、低栄養は早期発見・対応が大切です。
 病院などでは、低栄養は血液生化学検査による血清アルブミン値(3.5未満)や体格指数であるBMI(18.5未満)などいくつかのデータから判断しますが、家庭や介護の現場で兆しを見つけるなら、次のポイントをチェックしましょう。
 2つ以上当てはまる場合、主治医に栄養状態を診てもらい、原因を突き止め、栄養を補うケアにつなげるように行動しましょう。それが食支援の第1歩です」(安田さん)

低栄養のチェックポイント
  • 体格指数であるBMIが18.5未満
    BMIの計算式
    体重< >kg ÷ (身長< >m )² = BMI< >
  • 半年より短い期間に2~3kg以上の体重減があったか
  • 歩く速度が低下していないか
    (外出が少なくなっていないか、青信号の間に横断歩道を渡りきれるか)
  • ふくらはぎの筋肉量の低下(ふくらはぎが細くなる)[
  • 握力の低下
    (家事ができているか、ビンやペットボトルのふたが開けられるか、握手で力を入れられるか)

[*]^ ふくらはぎの筋肉量チェック
両手の親指と人さし指で輪っかをつくり、ふくらはぎの最も太い部分を囲んでみる
「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」の順に、低栄養と関係が大きいサルコペニア(進行性の筋肉量減少や筋力低下)の可能性が高い

 次回に続きます。

プロフィール
●安田淑子(やすだとしこ) 管理栄養士。地域食支援グループ・ハッピーリーブス(東京都新宿区)副代表。1993年より高齢者の栄養管理・食支援に携わる。ハッピーリーブスは、歯科衛生士・管理栄養士・理学療法士が協働で、在宅で療養する高齢者の食支援を行う任意団体。安田さんは主治医の指示書にもとづいて介護保険で行う「居宅療養管理指導」の訪問栄養ケアを担当。ほかに新宿ヒロクリニック外来での栄養相談などのほか、デイサービスでの昼食の栄養ケア、専門職向け食支援教育の講演、執筆など。著書に「介護スタッフのための 安心『食』のケア 口腔・嚥下・栄養」(共著、秀和システム刊)。

食支援最前線の人・実践法・情報・ケア製品が集まる
「新宿」と「京都」から学べる!
この記事でお話をうかがっている安田淑子さんも所属している新宿食支援研究会主催のイベントのご案内です。
第1回 最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会
<タベマチフォーラム>
日時:9月3日(日)
   (開場)9:15、(開演)10:00

会場:東京富士大学 二上講堂
  • プログラム:基調講演 京滋摂食・嚥下を考える会 代表 荒金英樹先生
    講演   新宿食支援研究会 代表 五島朋幸先生
    多職種フォーラム
    パネルディスカッション など
定員:500名 申し込み受付中!
詳細:http://shinnshokukenn.org/mysite2/forum.html
主催:新宿食支援研究会