ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第108回 “しっかり食べて、出す”を支えるために
知っておきたい高齢者の排せつの悩み(Vol.4最終回)
はじめに
連載105回より、全4回で訪問看護師の長川清子さんに、在宅療養する人や家族から相談を受けることが多い排せつの悩み、問題についてお話をうかがいっています。長川さんは、一般社団法人東京都北区医師会在宅療養相談窓口で専門職からの相談にのる傍、在宅への訪問看護を行っています。
初回は主に排せつケアにおけるコミュニケーションの基本と、尿失禁対応についてうかがい、Vol.2では便秘について基本的なことをうかがい、Vol.3では高齢者に多い便秘についてうかがったことをまとめました。最終回は、家庭で可能な予防法をお伝えします。介護する方が便秘に悩んでいるようなら、ぜひご本人やご家族に情報提供しましょう。
腸のはたらきを高める
便秘予防のセルフケア
自然な排便周期を取り戻すために「その人自身の排便の習慣を思い出してもらい、活用するのがコツ」と長川さん。
「新聞のインクの匂いやコーヒーの香りなどで便意をもよおす、朝窓を開けてフレッシュな空気を吸うとトイレに行きたくなるなど、何か習慣がある人が多いです。
また、多くの人が“自分の習慣はこれ”と言うことを試すのも一手です。
私が利用者さんの便秘解消のための温罨法(おんあんぽう)に使っているのはハッカの匂い。蒸しタオルをつくるときの湯に1、2滴たらしています。
お風呂の後、朝食後すぐなど排便のタイミングが大事という人も多いでしょう。
そして食事や活動を見直すことも大切です。便秘の高齢者の場合は食事量、活動量が非常に少ないことが影響していることが多いので、その点はとくに注意しましょう」(長川さん)。
- * 温罨法の方法は後述
食事と活動の注意点は以下のとおり。
食事
- ・ 食事を楽しめる工夫をする(好物や旬のものなどで、食欲を高め、適切な摂取量を確保)
- ・ 食物繊維を多く含むものを食べる(とくに野菜、果物、芋類、豆類、雑穀)
- ・ 多品種多品目を食べる(肉や魚など嗜好で偏らないようにする)
- ・ 食事以外1日1~1.5リットルの水分をとる
* 水分摂取制限のある人は主治医の指示通り - ・ 口腔ケア、義歯の手入れでしっかり咀嚼できる「口」を保つ(よく噛むと消化に負担がかからない上、腸の蠕動運動自体もよくなる)
活動
- ・ 体を動かす機会を増やす
- ・ トイレへ行くタイミングや時間を決め、排便日誌を記録する
- ・ 腸の蠕動運動を助ける「運動(1)-a」や「指圧、温罨法(2)」を行う
- ・ 排便するときに使う筋肉を鍛える「キュッキュ体操(1)-b」も
(1)自分で予防に取り組める人におすすめの運動
- a. 腸の蠕動運動を助ける運動 猫のポーズ
自然に呼吸しながら、なるべくゆっくり1~3を繰り返す。
- 1. 四つん這いになって、余計な力を抜く(視線は床を見る)
- 2. ゆっくりと尻を後方に突き出し、背骨を反らす(視線は徐々に上へ)。しばらく姿勢を保つ
- 3. 背骨を丸め、尻を引く(視線は徐々にへそへ)。しばらく姿勢を保ち、繰り返す
- b. 肛門括約筋や肛門挙筋などの筋肉を鍛える キュッキュ体操
肛門を閉めたり、緩めたりを意識的に繰り返す。
(2)自分で行うか、家族がケアする場合におすすめの指圧&温罨法
- a. 「の」の字指圧
へその下から、腹の上に「の」の字を描くように指圧するとちょうど消化・吸収から排便に至るルート上を刺激することができる。あまり力を入れず、優しく指圧する。 - b. 温罨法
水を含ませ、絞ったタオルを適当な大きさに折り、ビニール袋に入れ、レンジで温める。冷めにくく、やけど予防になるので、ビニール袋のままタオルで包んで腹を覆うか、腰の下に敷く。
「温罨法の温度はケアを受ける人が心地いいと感じる温度でよいですが、一般的には42℃程度を約10分間です。
急激に血行がよくなるため、高血圧や出血している人など施術を控える必要があるので、初めて行う前には主治医か訪問看護師に確認する必要があります。
自然な排便周期を取り戻すことは活動意欲や食欲の改善にもつながり、ご家族の介護負担軽減にもつながるので、排泄ケアについて正しい知識と方法を啓発してください」(長川さん)。
- プロフィール
- ●長川清子(おさがわせいこ) 訪問看護ステーション所長、東京都立北療育医療センター勤務などを経て現職。仕事の傍、東京都訪問看護ステーション協議会「訪問看護の質向上の為の体系的教育プロジェクト」のワーキンググループメンバーとして未来の在宅医療を担う人材を育てるための訪問看護士のキャリアラダー開発に取り組んでいる。
- イベント案内 一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会
- 4月22日(土曜日) 13:00-17:00(12:30開場)
- 総合司会として長尾和宏先生(同協会理事、長尾クリニック院長)が登壇し、小澤竹俊先生(同協会理事、めぐみ在宅クリニック院長)の活動報告のほか、小野沢滋先生(同協会理事、みその生活支援クリニック院長)、西川満則先生(同協会相談役、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 医師)、戸松義晴氏(増上寺塔頭 心光院住職)、金子稚子氏(ライフ・ターミナル・ネットワーク 代表)の講演が予定されています。
超高齢少子化多死時代において、途切れているさまざまな“つながり”について考える機会としたい、とのこと。介護職の方々が地域づくりを推める中で、大いに参考になるテーマと考えられます。終了後は、会場にて1時間ほど情報交換の時間も設けられるそう。ぜひ足をお運びになり、貴重なディスカッションに参加すると共に、登壇される先生方と直接お話しする機会をもっていただきたく、ご紹介しました。 -
- ◆場所:笹川平和財団ビル11階国際会議場
〒105-8524 東京都港区虎ノ門1-15-16 - ◆費用:一般:3,000円/会員:2,000円
- ◆場所:笹川平和財団ビル11階国際会議場
設立2周年シンポジウム
ここからはじまるエンドオブライフ・ケア
~超高齢少子化多死時代における”つながり”を考える~
Beginning of End-of-Life Care
- * この連載では第89回に設立1周年記念シンポジウムについてお伝えし、第100回に同協会が運営するエンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座についてご紹介しました。ご興味がある方は併せてご一読ください。