ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第97回 食支援・排泄支援の相談窓口設置
京都府医師会の取り組み(後編)
はじめに
前回(第96回)より、京都府医師会が在宅医療・地域包括ケアサポートセンター内に設置した食支援・排泄支援の相談窓口について、その背景と展望をうかがっています。
健康寿命延伸・介護予防に
地域丸ごと食支援へ前進
前回の記事でご紹介した食支援Partのブレーントラスト会議と同様に、排泄支援Partのブレーントラスト会議も開催され、食支援と併行して必要な排泄支援について在宅療養に関わる多職種が理解を深め、技能を学ぶ研修会を開催すること、ブレーントラスト会議参加団体が協力して相談事業に当たることについて協議が重ねられています(2015年9月から、当初2ヶ月に1度、現在は3、4ヶ月に1度)。
排泄支援Part ブレーントラスト会議参加団体 |
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京都府介護支援専門員会、京都府介護福祉士会、京都府看護協会、京都府作業療法士会、京都社会福祉士会、京都泌尿器科医会、京都府薬剤師会、京都府理学療法士会、NPO快適な排尿をめざす全国ネットの会、はいせつ総合研究所 むつき庵、中京西部医師会、京都府医師会 |
そして「生活機能向上研修排泄支援Part」を開催。2016年2月6日は17名(北部会場)、同20日は14名(南部会場)の多職種が集いました。
内容は講演「排泄ケアのイロハ」(泌尿器科上田クリニック院長、NPO快適な排泄をめざす全国ネットの会理事長 上田朋宏先生)のほか、受講者がおむつを試着して不快感やトラブルを体験する実習などもありました。
排泄についてはデリケートな問題で、本人や介護者(家族)からトラブルを相談しにくい面もあるからこそ、在宅療養を支える医療・介護の専門職が理解を深め、トラブルに気づく力と対応力を向上し、介護者(家族)にはたらきかける必要性を認識したとのことです。
また、センターで継続的に開催している医師向けの研修「在宅医療塾」でも「摂食・嚥下」や「栄養管理」をテーマにした回もあり、食支援・排泄支援対応力の向上が図られています。
「センターはかかりつけ医が悩まず、臆さず在宅医療に取り組めることをめざして、在宅医療を始めて困ったとき、さらにステップアップしたいときのことを念頭に、今、何をすべきかを模索しながら前進しています。
生活を支える在宅医療において『食べること』と『排泄』の問題について対応力向上は重要課題です。患者さんやご家族、連携する他の職種の信頼を得て、楽しく、朗らかに援助者としての務めを果たしていくために、在宅医に不可欠なものです」(京都府医師会理事・角水正道先生)。
「在宅医療の広がりが阻害されている要因の一つに『医者の準備不足』もあるのではないかと考えています。
食支援、排泄支援では、医師が看護師や介護の専門職に学ぶところも大きく、ブレーントラスト会議によって研修の内容が精査されることに大きな意味があると思います。職域を越えて、多職種混ざって学び合う中で、良好な関係性をつくっていきたいですね」(京都府医師会理事・關透先生)。
そうした経緯を経て、4月より府民に対して食支援・排泄支援について相談できる電話番号が公開されました。地域医療介護総合確保基金の活用で設けたセンターの窓口で相談を受け付け、電話で済まない内容についてはブレーントラスト会議参加の団体へつなげます。
とはいえまだ府民へ特別に広報を行ってはおらず、今後、府民向けに「食べること」と「排泄」の問題についてポピュレーションアプローチの機会を設け、電話相談を広報し、相談窓口を増やしていくことが企画されています。行政各機関との連携も検討課題だということです。
まず、2016年10月30日に医師会主催で開催予定の「暮らしと健康展」において食と排泄の相談コーナーを設置し、このようなイベントを年1回以上定期開催していきたい考えです。
「府民のみなさんの健康寿命延伸、介護予防、在宅療養における生活の質を支える上で欠かす事ができないこととして、『食べること』と『排泄』の問題を受け止めていきます」(京都府医師会副会長・北川靖先生)
「相談コーナーはプライバシーに配慮して、どのようなスタイルで設置するか現在検討中です。
どのような相談がくるか予測できず、初回は十分な対応ができないかもしれませんが、北川靖副会長は始まったばかりの取り組みについて『いっぱい失敗し、経験を蓄えよう。多団体・多職種の力を借りて相談に対応し、問題解決につなげる窓口になっていこう』とおっしゃったので、経験に学びながら相談業務を育てていきたいです。
府民のみなさんに、在宅へ多職種によるチームケアが提供されることを伝え、安心して希望する場所で療養していただきたいです」(京都府医師会地域医療1課、在宅医療・地域包括ケアサポートセンター担当 秋葉秀美さん)
この記事ではまだ、具体的な相談案件などについてご紹介できません。時期尚早かもしれないと思いながらも取材をさせていただいたのは、この取り組みが先駆的で、同様の試みが各地に広がる期待をもって継続的に取材したいと考えたためです。
生活を支える医療が広がることを志向し、その要になることとして食支援(排泄支援)や栄養管理について活発に勉強会や事例検討、技能実習が行われていますが、加えて次の段階、地域に食支援(排泄支援)や栄養管理を広げる取り組みも起こっています。
多職種連携の在り様や異業種とのコラボによるユニークなプロジェクトなど、先駆例の特長は、後に続く地域の手本になると期待されている中、京都の食支援の進展に関心を寄せている専門職の方は多いと思いますので、いずれまた続報を記事にしたいです。