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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第95回 「食」と「老い」のケアはどこを見て? 
羅針盤となる2冊の書籍

はじめに

 2014年3月に出版された書籍『食べることの意味を問い直す—物語としての摂食嚥下』(新田國夫・戸原玄・矢澤正人編著)の続編とも言える書籍『老いることの意味を問い直す—フレイルに立ち向かう』(新田國夫監修、飯島勝矢・戸原玄・矢澤正人編著)が出版されました(両書ともクリエイツかもがわ刊)。
 食支援にかかわる方には前著を読み、続編の刊行を待ち望んでいて、早速読んだ方も多いのではないかと思います。筆者もその1人です。食支援に直接かかわるわけではないですが、取材のために前著を繰り返し読み、学んでいたのです。
 そこで、これから食支援の担い手として“介護職の方々”に大きな期待を抱き、まだお読みでない方へ、本コーナーでぜひこれらの書籍をご紹介したく、取り上げました。

なぜ「食」「老い」を支援するのか
早期ケアが高齢者の生活、社会を変える

 介護の仕事をしていると「食べることを支える必要」を感じる場面に出くわすことが多いのではないかと思います。“食支援”はとても幅が広く、もともと個別性が高いもの。そう考えると高齢者のほとんどに何らかの“食支援”が必要と言えるのかもしれません。
 介護職の方々は、介護サービスの利用者である高齢者の身近にいて、利用者本位の立場で見ると見過ごせない問題を感じる、などということが多いのではないでしょうか。
 そんなとき職場の同僚や、同じ利用者さんとかかわる多職種とケアについて対話でき、職場以外にも話せる仲間がいればよいですが、そういう環境の人ばかりでもないでしょう。さらに同じ問題意識で話し、食支援の実践につなげるのは難しいのではないでしょうか。
 そんなとき、ひとまずひもといてみるとよいと思い、ご紹介するのがこの2冊です。

『食べることの意味を問い直す—物語としての摂食嚥下』(以下文中、『食べることの意味を問い直す』)
『老いることの意味を問い直す—フレイルに立ち向かう』(以下文中、『老いることの意味を問い直す』)

クリエイツかもがわ刊

 この2冊を読めば、どこを見て食支援を考え、行っていけばいいかが分かります。
 どんな考え・行動の人と交流し、仲間になるべきか読み取れます。
 問題を感じたときに開けば、食べることを支えるモチベーションが上がり、超高齢社会における食支援の課題やチャレンジすべきことを自分ごととして問い、知識と技術、倫理観を要すると理解を深めることができます。
 また、食べることを支える取り組みの最前線にいる諸先輩も悩み、考えながら、トライを続けていると知ることもできます。著者である先輩は現場に立ちながら、講演や勉強会の講師を務めるなど精力的に活動しておられるので、どのような場所へ出かけ、学ぶべきかも分かります。

 今後、食支援を必要とする人は急激に増えることが見通されています。そのためでしょうか、短い期間に「食べることを支える」はより広義な意味をもち、変化しているようです。
 変化というより、見直されているというべきなのかもしれません。
 食支援の先駆者達が、訴え、実践を続けてきたことが、実は高齢者本位の医療・介護、生活支援の要になることとして見直され、また新たな課題も見出されているのです。
 『食べることの意味を問い直す』からわずか2年数ヶ月後に『老いることの意味を問い直す』が上梓されたことも、それだけ動きがある“食支援の今”を示しているとも考えられます。
 それはともかく、食べることを支えるケアは尊く、利用者さん(ご家族)の生活、生命にとって大切で、社会の医療・福祉施策においても重要で、しかも介護職のみなさん個々の仕事のモチベーションやステイタスを上げる可能性も大きい取り組みです。

『食べることの意味を問い直す』の中で新田國夫先生は、
「多職種連携システムをつくるのは摂食・嚥下というテーマを通じてこそできる(中略)一人の高齢者が摂食・嚥下障害になれば、それに多職種が必ずかかわる。歯科も含めてこれほどの機会はない」
と述べておられます。食べるという日常の営みのケアが、多職種による地域丸ごとケアを叶える要になるのです。
 また、『老いることの意味を問い直す』では多様なフレイルの姿が示され、プレフレイルの時期のケア介入が大事であると語られています。戸原玄先生は、
「オーラルフレイルは(中略)歯や口の機能の“ささいな”低下を軽視せずに対応するということが大切である」
と述べておられます。水野三千代先生は和光市での事例から介護職が食支援で担う役割について具体的な示唆をされています。
 ほかにも本書を読むと、利用者本位の立場で、身近で、高齢者が自立・継続できる生活支援、実践的な啓発が“食支援”であり、それが可能な担い手は誰か? と考えれば、介護職の方々が思い浮かびます。
 多職種連携による医療・歯科医療・介護の専門性をベースに、介護職が食支援を必要とする人を見つけ、“日常を支える”を担う存在として期待されていると読むことができます。
 食を支え、多様なフレイルを防ぐことで健康寿命の延伸や介護予防の成果を上げれば、超高齢社会の明朗さは変わる、介護職が変える。本書を読んで、そんな風にモチベーションをアップしていただけたら、それは介護職の方ご自身のため、大切な人のため、社会のためになり、三方よしの未来につながります!