ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第87回 医薬メーカー・キッセイ薬品工業の
ヘルスケア事業への取り組み(後編)
はじめに
前回より、キッセイ薬品工業株式会社ヘルスケア事業部(長野県塩尻市)にうかがったお話をお伝えしています。前回は、食事療法を継続する患者・家族、専門職の相談を電話等で受け付ける「キッセイ食事サポートサービス」についてご紹介しました。
今回は、新しく発売された「のみや水」について、うかがったお話をお伝えします。
「新食感」がほしい!
専門職の要求に応えて開発
前回、製品を開発するにあたって病院や施設の栄養管理部門の専門職の方々から利用者の食事療養の悩みを聞き、応えてきたこととも関連して「キッセイ食事サポートサービス」という取り組みが始まったことをご紹介しました。
製品開発では、製品コンセプトの設計から仕上がりまで、実際に疾患や摂食嚥下障害をもつ患者さんのケアに携わる専門職の意見、チェックは欠かせないもので、
「物をつくるだけでは扱っていただけない。『物+情報』が提供できる製品をつくることが求められます。専門職の方々の要望を聞き、応え、証を示す情報と共に製品としてお返しする必要があります」(同開発課、課長・布袋之彦さん)。
2年ほど前、キャッチした要望は「次世代の水分補給アイテム」でした。
一般的なゼリー飲料は離水があり、口の中で固形物と水分にばらけやすいため、嚥下困難な人には適しません。水分だけが速く喉をすべり、危険です。嚥下困難な人の飲料はとろみ調整食品(とろみ剤)を用いて、まとまりをよくすることになります。
とろみ調整食品は第1世代・でんぷん系をスタートに、第2世代・グアーガム系に続き、現在は第3世代・キサンタンガム系の製品が主流です。キサンタンガム系になって、従来の「味・臭い」が少なくなり、濁りも、付着性も改善されました。
キサンタンガム系の中でも、少量で強いとろみがつくパワー系、溶けやすく使いやすいマイルド系など、用途によって使い分けられていて、硬さ、凝集性、付着性が異なり、とろみの調整は工夫や技術、慣れを要する作業です。物性とその表現、学会分類に対する理解についても、日々各所で専門職向けの研修会や勉強会が開催されている最中でもあります。
要望は「手軽に水分補給できるアイテムがほしい」ということでした。
離水しない(ばらけない)が、凝集・付着しない。速すぎず、遅すぎなく喉を通過し、水分補給できるもの。従来のゼリーでもとろみでもない機能が求められていました。
そこで、とろみ調整食品の開発を先駆けた一社としての誇りと、専門職の声をもとに開発したのが特殊なペクチンをゲル化剤とする新製品「のみや水」だということです。
製品は「ゼリーととろみの中間くらいの食感」を実現し、「第4世代か?」と声も上がっているとのこと。嚥下ピラミッドでいうなら0j適応の患者さんでも飲める人がいるという物性で、離水が少なく、安全性は高いと強調します。
さらに専門職の方々より「水分補給に出せる金額は100円くらい」との声があり、価格も税込99円に抑えたとのこと。摂食嚥下機能のレベルを選ばず、幅広く、安全に利用してもらえる製品として、厳しい要望に応えて製品開発を実現した自負があり、布袋さんは「今後もよりよい製品を開発するためにも多くの専門職の方々に製品を知ってもらい、新食感を試していただきたく、広報活動に力を入れている」と話しました。
とはいえ前回も述べた通り、とくに保健所の管理栄養士ほか在宅に関わる専門職に向けて情報を伝える機会は少ないということで、全国で勉強会やシンポジウムを開催する折には製品紹介もしているので、そうした機会に多くの専門職の参加を期待している、とのことでした。
なお「のみや水」について詳しい情報は同社ウェブサイトに掲載されています。
次回はNPO法人キャンサーネットジャパンが4月9日に開催した「もっと知ってほしい胃がんのこと2016 in 立川」の模様を、大妻女子大学教授・川口美喜子先生のご講演「胃がん治療後の症状や食事について ~困った時のヒント~」を中心にご紹介します。