メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第61回 互助を引っ張る市民活動 
ローカル支え合い拠点での食支援(後編)

 取材当日は、市の市民活動支援センター(ささえ愛センター)と春日井市社会福祉協議会のボランティア体験で小中学生が店を手伝っていました。加藤星来さんはダンスが好きで、頑張っている小学6年生。幼馴染みの永草妃乃さん(中学1年生)に誘われて、共に初ボランティアに参加しました。永草さんはピアノやフルートが得意と、趣味が合って、仲のよい2人は、ささえ愛センターで事前学習を受けてやって来ました。
「何をしたらいいか、まだ分からないけれど、なるべく積極的に頑張りたい」(加藤さん)
「お店の人に頼まれたことを、責任もってしっかりやりたい」(永草さん)
 緊張しつつも、やる気満々。タマネギの皮むきや新聞記事の切り抜きなど、てきぱきとこなしていて、小さいながら立派な支援者でした。年輩のお客さんからはとくに大人気の様子です。


「初ボランティアの2人には貴重な体験になるとうれしい。お客さんも大喜びで、話が弾んでいますね(笑)。ここでは介護者も、一般のお客さまも支援者になります。私も含め、支援者も支えられていて、支え合いの中にいます」(岩月さん)。

 岩月さんは、自身の介護体験から「介護者支援」に立ち上がりました。
「介護をしている間も、介護が終わった後も、介護者が自分の人生をしっかりと歩んで行けるように支えたい」。岩月さん自身が「介護が終わった後も、介護者が自分の人生をしっかりと歩く」をやっています。それをやらずにはおられない。自身の介護・看取り体験と共に生きていく姿勢に、筆者は共感します。かけがえのない人の介護や看取り、別れはそれだけ貴重な体験になり得ると思うからです。
 互助を牽引する場をどう変え、広げていくか、試行錯誤を重ねている岩月さんですが、「実のところ『来る人、拒まず』でやっていると、来る人が“場”を作ってくれる」とも。

「スペースの都合上、どうしても相席をお願いすることが多いので、その場合はマッチングというか、気遣いはします。でも、それはさほど難しいことではありません。
 むしろ、この場を始めて人の出会いの妙というか、ドラマチックに驚かされることが多いです。
 ドラマを生み出す人の力を感じます。
 皆さん、大変な状況でも“なんとかしていこう”とする力を持っているんです。それを見せてもらい、愉しませてもらっているから、続けていけるのだと思います(笑)」(岩月さん)。

 一地域の小さな取り組みの中に、岩月さんは普遍的なことを見て、人の支え合いの力を信じています。小さくても大変な取り組みを、「どんな形でも絶対に“やめない”」という言葉を聞いて、よく変わっていくエネルギーが螺旋を描くように広がっていくことを信じたいと感じました。
 介護者支援の広がりと共に、NPO法人てとりんの発展も取材を続けさせていただきたいと思っています。

 次回は9月20日に開催されたWAVES@Cafe 第3弾“元気に食べていますか?“キャンペーンのレポート記事を掲載予定です。

常設カフェ介護者の居場所づくり事業 兼 相談事業火曜~日曜、7時半~16時(月曜、第3土曜定休)。誰でも気軽に入れるカフェだが、傾聴の研修を受けたボランティアスタッフに介護の悩みや愚痴を聞いてもらえ、困りごと相談もできる(アセスメント結果により地域各機関と連携も)。岩月さんは“ママ”と呼ばれ、エプロン姿のまま相談を受け付けている。モーニング(300円)、ヘルシー日替わりランチ(500円)もある(本文中写真は取材当日のランチ)
常設「介護と暮らしの情報コーナー」情報収集提供事業近隣の介護関連事業所やサービスの情報(制度外のサービスも含む)、医療・看護・介護・福祉関連記事のスクラップや介護関連図書が閲覧できる(一部、貸出も)。パンフレットやチラシは電子データ化
認知症カフェ介護者の居場所づくり事業 兼 相談事業平素から認知症の本人・家族のカフェ利用はあるが、認知症の介護者が来やすいようあえて毎週日曜日を「認知症カフェ」と表示している(誰でもカフェ利用可能)。認知症の人にはスタッフが付き添い、話し相手になる(一般のカフェ利用者も、顔を合わせる回を重ねるごとに自ずと認知症への理解を深め、顔なじみとして打ち解けるなども)。介護者は束の間、別のスタッフとおしゃべりで息抜き(困りごと相談も)。第1、2、3、4日曜日は「歌声カフェ」も開かれ、ボランティア演奏家の伴奏で歌うのが恒例に
家族介護者のつどい介護者の居場所づくり事業 兼 相談事業家族介護者同士で、日々の介護について語り合い、聞き合う。参加者を介護者に限定することで、打ち明けにくい話題も話しやすい。毎月第2火曜日午後と第3土曜日午前に開催
専門相談相談事業認知症専門医や薬剤師、看護師など近隣の専門職などが定期的にカフェで開催(すべてボランティア)。認知症医療相談(月1回)、お薬相談(月1回)、介護相談(月1回)、健康相談(月2回、介護者のストレスチェックや握力測定、普段の食事の塩分チェックなど)、介護・医療相談(月2回)、ケアプラン相談(月1回)など。個別面談や囲み座談など、相談スタイルはさまざま。病院では診療時間内等に聞けない生活上のアドバイスも受けやすく、リピーターも多い。介護者リフレッシュ企画としてアロマハンドマッサージ(セラピストが提供)、腰痛相談(整形外科医が対応)なども
認知症家庭介護サポーター養成講座人材育成事業基礎編では家庭介護者支援の意義と、介護者支援の基礎として「利用できる介護サービス」について学び、傾聴を学ぶ。ステップアップ編では介護者の心理と特性、認知症、家族介護者の健康リスクについて学ぶ等
各種セミナー、講座開催人材育成事業 または 介護者支援の啓発事業介護者向けには「介護食料理教室」「認知症講座」「脳卒中講座」など、一般向けには「介護保険制度学習」や「高齢者・介護者のための口腔ケア教室」なども。一方、ボランティア育成の場にもなっていて看護学部学生が傾聴実習を行なうほか、市の市民活動支援センター(ささえ愛センター)などからボランティア体験等も受け入れている(本文中写真は取材当日ボランティア体験の小中学生)
  • *これとは別に、家族介護者のストレス電話相談(社会福祉協議会委託事業)
    若年性認知症本人の就労・社会参加支援
    リサイクル介護用品バザー(福祉用具の使い方について、専門員が相談に対応)も行なう。