ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第61回 互助を引っ張る市民活動
ローカル支え合い拠点での食支援(後編)
はじめに
前回に引き続き、「家族介護者支援センター てとりんハウス」(愛知県春日井市)を運営するNPO法人てとりん代表理事の岩月万季代さんにうかがったお話を掲載します。
「家族介護者支援センター てとりんハウス」の事業は食べることを支える取り組みが中心ではありません。しかし、介護負担が大きい介護者にとって、事情を理解してくれていて、介護に関する情報収集や相談も可能なカフェで安くて、ヘルシーな食事がとれることは食支援になっています。また、イベント的に介護食料理教室なども行なっているため、ご紹介することとしました。
「家族介護者支援センター てとりんハウス」ではほかにも、文末の表のような事業が行われています。
不退転の決意でのぞむ介護者支援
集まる人が場を作り、ドラマを生む
NPO法人てとりんが常設のカフェという介護者支援の場を設けて2年目に入りました(開設は2014年6月)。年間の来所者数は約8300名、相談件数は約300件(初年度実績)。来所者の多くは常連で、毎日通う人も少なくありません。
さらに介護者が支援者(ボランティア)にもなっており、また、NPO法人てとりんの会員(介護者と介護体験者)発案の催事を開催して「介護者自身が必要なことを事業化し、他の介護者と共に学ぶ」といった機会も設けています。
しかし、「そうした素晴らしい取り組みはあるものの、事業全体を通して完成度が高い取り組みができているとは思っていない」と岩月万季代さんは現状分析します。
「どんな方法がいいんでしょうね。正直なところ悩みながら活動して、反省して……。その繰り返しをやっています。
カフェは人が人に寄ってくる場所です。とはいえ飲食メニューがなければこれほど人が集まることはないでしょう。モーニングサービスやランチサービスの常連のお客さまを見ていると、このメニューがなければ日常的に関われることもないのではないか、と思います。
けれど仕入れや調理に時間をとられてしまい、相談や事務作業に当てる時間が削られます。朝食を出すので7時半から営業し、16時までですが、閉店後は仕入れや仕込みがあるので、外出が難しくなっています。
現状、ボランティアと助成や寄付に支えられていて、事業収入のほとんどはカフェの運転資金で消え、人件費は出ておらず、カフェ専従者を雇うことは考えられません。決して経営が安定しているとはいえない状況です。唯一の収入源が飲食ではダメですね。このスタイルは『息抜き(飲食)』『傾聴』『相談』『情報提供』『健康管理』『交流』等々、複数兼ねてサポートを継続できることが利点ですから、飲食も、相談も、どちらもいい加減にはできません。それで、ずっと四苦八苦してます(苦笑)」(岩月さん)。
それでも、けあらーずサークルを始めたときから「どんな形でも絶対に“やめない”」と決めていると岩月さん。
「こういう場があると、介護者も支援を受けるべき存在だと、もっと知ってもらうことが最大の課題です。
地域には、場があることを知っていても来ていない人、来られない人もいると思われ、その多くは自分が支援や医療を受ける必要があると気づいていません。周知のために何ができるか、次の手をいつも考えています」(岩月さん)。
また介護者以外、行政機関などにも広く認知されることが必要で、現状は「喫茶店でしょ!?」の誤解もあると話します。
「家族介護者支援センター てとりんハウスは、
- ・ 介護者の健康を心配し、ケアを受け、息抜きする場
- ・ 介護者と要介護者が社会参加する場
- ・ 介護者が、要介護者に必要な制度やサービスを知り、各々ふさわしい介護サービスを選ぶ場
- ・ 介護者に必要な介護技術を学ぶ場
- ・ 介護者支援を通じて介護者の問題やニーズを、行政や介護事業者、並びに社会に発信する場
となります。
市民による、市民のための手作りの活動だからできることがあると思っていますが、行政や医療・看護・介護・福祉の専門職と連携し、サポートし合う関係でなければ存続できません。誰も孤立させないために、支え合いの循環をつくりたいです」(岩月さん)。