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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第53回 最期まで食べられる街づくり 
新宿食支援研究会NOW(前編)

 生活としての食を支援するというのは、
「本人・家族の口から食べたいと言う希望がある、もしくは身体的に栄養ケアの必要がある人に対して

  • (1)適切な栄養摂取
  • (2)経口摂取の維持
  • (3)食を楽しむこと を目的として

リスクマネジメントの視点を持ち、適切な支援を行っていくこと。
 チームで支援を行う場合には、対象者の個別性に基づいた目標設定を行い、チームで目標を共有し、達成に向けて行動する」(新宿食支援研究会「そしお」設定)
と定義しています。

「おせっかいをされるのはキライ」と言う五島先生は、まず「困ったとき、振り向いたら支えてくれる人が居た」という基盤をつくり、医療・介護従事者の中に限らず、いずれ街全体に広げることを志したと話します。
「新宿という地域に合う作戦を展開し、地域のムーブメントを起こす」と決め、6年間はムーブメントの布石を打つ活動を続けてきました。これまでは「(食支援を必要とする人を)見つける、つなぐ、結果を出す」のテーマを掲げ活動してきて、7年目を迎えて「広げる」を追加したのです(詳しくは次回)。
 ちなみに、新食研は完全なプライベートチームで、メンバーが情報交換や勉強会などの活動に参加する、しないは個々の判断に任されています。現在21職種71名のメンバーがいますが、多忙な仕事の合間に集まる場なので、結果的に学びがあるとはいえ、純粋な学びの場ではなく、結果に結びつくことを目標にしていることが特徴だそうです。

「それぞれが自分の仕事で『食べることを支える取り組み』をもち、成果を出しています。さらにその技術や理論を進化させ、例えば汎用性があるツールにする、ロジックやエビデンスを固める、用具開発につなげるなどして、より多くの結果を出すために集まっている。他職種とも関わる中でノウハウを熟しつつ、自分自身の専門性をより高めます。そうした具体的なメリットがなければ、忙しいメンバーが集まり続けられません。
 僕は、多職種連携というのはプロがプロの仕事を完遂するために必要なものだと考えています。現場で協働するだけが連携ではないのです」(五島先生)。

 新食研には「見つける」「つなぐ」「結果を出す」「広げる」のテーマ別に15のワーキンググループがあり、それぞれの活動についても詳しくウェブサイトに掲載されています。
 一例として「結果を出す」をテーマにした地域での食支援を実践するワーキンググループには、

  • ・ 地域食支援グループ「ハッピーリーブス」
     地域の食支援に深く関わる歯科衛生士、管理栄養士、理学療法士のグループ。つまり口腔環境を整え、食べる機能回復→栄養ケア→食べる姿勢をつくるケアの相乗効果で食生活を変え、生活の質を高める(医師または歯科医師と契約し、介護保険の居宅療養管理指導で訪問)。在宅に関わる医科歯科連携をつなぐ役割、療養型病院がない地域で基幹病院と地域の連携をつなぐ役割も担う
  • ・ 食姿勢改善グループ「ファンタジスタ!」
     地域の食支援に深く関わる理学療法士と福祉用具専門相談員のグループ。食事姿勢が崩れることで十分な食事がとれない人のケアを担う
  • ・ 訪問看護ステーション「結わい」
     地域の食支援に深く関わる新食研メンバーと密に連携できるスポット

のほか4つがあります。
 これらのワーキンググループは単独でプロジェクトやイベントを企画、実践するほか、いくつかのワーキンググループがコラボレーションして活動する場合もあります。先にも述べた通り、必ずしも「協働」が目的ではなく、地域のケアの基盤としてどのような在り方であることが「結果を出す」かを追求しています。
 やがて地域にプロジェクトの成果を出し、イベントが根づけば「新食研という枠は関係ない。いずれは枠を外しても良くて、そうしたら活動は地域で続き、何も新食研代表などという人は必要なくなるんです」と五島先生。

「小さいグループが地域の中でコラボレーションしつつ、活発に動いていくことが、地域の基盤になります。個々の専門職の能力は上がり、地域内の人間関係も豊かになっていきますからね。メンバーは地域内の多職種連携のハブにもなる人材で、支援を必要とする人を支える地域力が高まっています」(五島先生)。

 五島先生の取材の後、筆者は2015年に始動したワーキンググループの1つ、コラクリ(コラボレーションクリエイト)の会合にお邪魔しました。コラクリは「結果が出せる連携スタイルを検証し、実際に連携を促し、結果を出す」までを地域に生み出すチームということで、まず地域内のあらゆる食支援資源をピックアップすることから始めたとのこと。
 会合では、参加メンバーから今の新宿の「食支援を必要としている人」の実態と問題、問題解決に役立つと考えられる資源情報がピックアップされていました。
 約20名の参加メンバーの中心は30~40代で、日中はそれぞれの職場で仕事があるため、会合はその後。短時間ながら、活発に具体的なやりとりがあって、さすが専門職が忙しい合間に自発的に集う場だと感じました。
 高齢者が多く住む団地エリアでは、坂の下のスーパーよりコンビニの方がお年寄りの買い物客が多く、賑わっている。行商の八百屋さんが人気。同地域で給食サービスのあるサロン、カフェはこれこれ。サービス内容は……。区の配食サービスの実態は……。各配食サービス業者のサービス内容は……。ワーキンググループが取材してきた行きたライブ情報を基に、地域で食支援を行う医療・介護専門職との連携の可能性、スタイル、連携した場合の患者(利用者)と家族、関わるすべての人のメリットが検討されていました。

「専門職が、患者さんや利用者さんの食が犯された原因に気づき、専門職としてできる仕事をすることは大切なこと。個々の仕事での結果というのは目の前の人の問題を改善することだが、それだけでは『最期まで口から食べられる街』はつくれない。
『食支援を必要とする人が1~2万人いるとされる地域』で食支援をやるなら本気で街を変える意識で何をしなければならないか考え、実践する。コラクリは街の中の『食支援の資源や連携』を交通整理します。地域の基盤をつくる上で誰かがやらなければならない大事なことです」(五島先生)。

 五島先生は「食支援にホームランはない」と言い、あの手この手をじわじわやってきた6年間だったと話します。けれど結果を出さなければ集う意味はなく、食支援を必要とする人が1~2万人いるとされる地域で、プロ集団がめざす結果はニーズに見合った規模であるべきで、

「数の問題ではないが、何人という単位ではなく何百人、何千人の生活が変わり、街全体に『見つける→つなぐ→結果を出す』仕組みが広がった、というものでなければ。やることはいっぱいあるし、いくらでも手はあります」(五島先生)。

 6年の活動で「見つける」「つなぐ」「結果を出す」に取り組んだ結果、次の「広げる」に取り組む時期と判断して、活動を開始した新食研。新たなワーキンググループやプロジェクトもいくつか立ち上がりました。次回はどのように「広げる」のか、うかがったお話を紹介します。