ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第52回 治療となる食事を追求
NSTとリンクした病院食「藤田食」(後編)
完成披露試食会(6月19日)に集まった来賓や報道陣に提供された普通食メニューは写真のとおり(写真f)。調理前の“天つゆ”や“うどんのつゆ”はジュレ状です(写真g)。
調理後の料理を試食させていただいて、とくに注目したのは十六穀ごはんやうどんの食感のよさでした。適度な水分を保って、ほかほかで、食器にこびりつきません(写真h,i,j)。
こうした料理の状態は、おいしさにつながるさまざまな工夫(ごはんなら水加減、浸水時間の調整など)を追求した結果だということです。調理に使用するとろみ剤などの素材は、新カートの導入に併せて選び直したとのことでした。
また咀嚼嚥下食には、イーエヌ大塚製薬と共同開発した「あいーと」を使用したメニューも起用し、その場合はカート内加熱だけで調理が完了するとのこと。今後、「あいーと」の新メニュー開発も行なっていくそうです。
「新カートは地元企業との産学協同で多くの人の健康に貢献する技術革新に取り組めた。今後、より多くの病院や施設でも活用されるのではないでしょうか。また、患者さんが喜ぶ地元の食材・食文化を反映させたメニューも考案中。その一環で、試験しているのがこちら」(東口先生)
そう言って出されたのは、愛知県らしさ満点の“小倉ロール”とコーヒーのセット(写真k,l)でした。東口先生は「入院生活中もなじんだ食を楽しんでもらいたい。愛知と言えば『喫茶店でモーニング』で、『小倉』も外せない。皆さんのご意見を聞いて改良したい」と披露。
「調理前のコーヒーはジュレ状です。このジュレに、例えばファイバーなどをプラスして“体をよくするモーニングセット”として出したら喜ばれるかも!?」(東口先生)
あの手、この手で患者の栄養管理と入院生活の彩りを創造する試みに、来賓からは拍手が起こっていました。
「十分な栄養をとることは病気の治療の一環で重要。口から食べ、消化器官をはたらかせることが免疫力を高めるので、病院食がおいしく、完食できることが患者さんを癒し、治す。結果的に、急性栄養障害、褥瘡の減少、輸液投与量の減少、院内感染予防、在院日数減にもつながる新しい病院食を開発できました。そして今後もまだまだ進化していく予定です」(写真m:東口先生)
なお、新カートの導入で、厨房で働くスタッフの労働時間を日中に集約、早朝出勤等の必要がなくなり、労働環境整備にもなったということでした。
この藤田食は第16回アジア静脈経腸栄養学会学術大会(PENSA2015:7月24~26日、名古屋国際会議場)でも25日に2度のバスツアーが企画されていて、大会参加者に披露されます(参加には事前申し込みが必要)。
次回は7月29日更新予定で、五島朋幸先生(ふれあい歯科ごとう代表)に食支援についてのお考えをうかがい、2010年より五島先生が率いてきた「新宿食支援研究会」の活動についてうかがったお話をまとめます。