ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第49回 2年目のはじまりに
「食べる」に向き合う人の広がりを願う(前編)
入院中の方、 またその家族(介護に関わる方)へ
病院には食べることを支える技術をもったさまざまな職種の専門家がいます。何か困ったことがあったら、担当の看護師など言いやすい人に伝えて、納得がいく状態に改善するまで話し合いましょう。自分と自分の家族に真剣に向き合って、結果を出してくれる医療・看護を選びたいではありませんか。結果とは、嚥下機能の回復でも、病気の治癒でもなく、安心して治療を任せられること、入院生活の居心地がいいことではないかと思います。それがあって回復があるのではないでしょうか。
これまで取材した医療・看護・介護の専門職の方々がとても熱心に患者とその家族に向き合っていることを知り、病気や障害ではなく、患者の人生全般を見渡してケアしてくれる医療を選ぶことができると、病気や障害と共に生きる時間も豊かに過ごせるのではないかと感じています。そういう意味で、毎日の食事や生命エネルギーである栄養に関心が薄く、食べることに困っている人に対して無理解な医療があるなら、私は選びたくありません。睡眠や排泄などについても同じで、困っている日常のことを大事に考えてケアしてくれる医療を選びたいです。
在宅で闘病中の方、家庭介護を受けている方、またその家族(介護に関わる方)へ
病院に入院していたら、揃っている多職種がそれぞれの専門性を発揮して毎日サポートしてくれますが、家庭に帰るとそれが途切れる場合もあります。地域包括ケアの仕組みの中で、食べることを支える取り組みが進んでいる地域もありますが、そうでない地域もあります。医療や看護、介護の専門職や、一般の介護経験者、がんサバイバーが独自に事業所やサロンを開くなどして、食べることを支える取り組みを行なっていることもあります。増えているとはいえ、方々にあるというわけではまだありません。
まずは住まいのある地域にどのようなケア体制があるか、調べてみませんか。主治医に相談する、担当ケアマネジャーに聞く、訪問歯科診療や訪問栄養指導を探すことから始め、食べることのサポートで関わってくれる人とつながれないでしょうか。
在宅で「食べる」ことについていえば、家族やヘルパーが担うことは多いので、その介護力を加味してケアを進め、フォローしてくれる医療・看護とつながっているのが安心です(「『食べる』が難しくなってきたと感じている人、またその家族」への部分も参考にしてください)。
自分や家族に、加齢によって起こりやすいことを知りたい方へ
多くの人は、自分や家族が重い病気にかかったときや終末期に「食べる」ことに困るという事態に出会うようです。本当は、問題は困る随分前から始まっている場合も多いけれど、かなり重態になるまで食の問題は表面にでてきません。
私もそれを経験しました。家族の病気に目が向いていて、食の問題に目がいきませんでした。そのうち明らかに痩せて、食の問題に目がいっても、病気のせいでしょうがないと思いました。
治療の副作用で食べられないのは「治療最優先だから今は仕方がない」と思いましたし、そうでない時期は「闘病生活のイライラでわがままを言っている」などと勝手な解釈をしました。しかし連載を始め、いろいろな知識を得た今では、もっと食に注意すべきだった、闘病中の家族と共にできることがあったと分かりました。自分自身に、分からないことに寄り添う余裕がないなら、ただ病人の訴えを聞き、それと向き合ってくれる医療・看護・介護の専門職とつなぐだけでよかったとも思います。
とくに食の問題が大きかった3人の終末期を振り返ると、少しでも口から食べられるうちは生きるエネルギーがあったけれど、口から食べられなくなった後はそれが萎えていったと思います。命のエネルギーは永遠ではないからこそ、できることをしないまま、「食べられない」ことで生きる希望を失わせたことが残念です。
だから、誰にでも起こり得ることとして、「食べる」ことの問題を知ってほしく、できれば元気なうちに家族間で話し合い、食生活を見直すと共に、自分や家族の大切な命を預けるものとして医療を選ぶ知識をもってほしいと思います。
私は、今後の自分と家族、身近な大切な人のために藤田保健衛生大学医学部外科緩和医療学講座教授・東口髙志先生の言葉、
「『栄養管理を受けることができない』状態は、人として最悪な状態といえ、『本来、人の幸せに寄与する医療の基盤には“栄養管理”があるべき』」
は忘れたくない、と思っています。
また、超高齢社会であり、加齢によって食に困る人が増えることを思えば、介護認定がなくても、ほかの病気がなくても、求めれば「健康づくり・介護予防」のための食のケア、栄養管理が受けられる社会になるのが望ましいです。
それは行政の仕組みなどを待たなくても、私も含めて一般生活者1人ひとりが、家族や近所の人が「必要としたらサポートする」ことで第1歩を踏み出せます。まずは「大したことではないサポート」ぐらいが、それぞれ自立していたい日常生活圏の中では互いに遠慮がいらなくて、ちょうどいいかもしれません。
自分や自分の家族以外にも、周囲に食べることで困っている人がいるかもしれない。とくにお年寄りは元気なように見えても、痩せたり、顔を見る機会が少なくなってきたら要注意。食事がとれているか、なぜ食べられないのか聞いてみる。それは健康のためによくないことらしいと伝えてみる。誰かに相談できるか、相談して変わったかを聞いてみる。買い物など、できることの中で手伝えることはないか聞いてみる。それ以上、困ったら専門職につなぐ努力をする、まで。医療・介護者でない一般生活者から始めたっていいのだと思うようになりました。
なお、医療や介護を選ぶと同様に、本連載も含め健康づくり、介護予防に関する情報も取捨選択が必要です。自分や家族の暮らし方に合うものを選び、そうでないものに流されず、選んだ後に違うと思ったら選び直してください。記事を作る上ではできる限りの注意をしていますが、取材で知り得たこと、集めた情報、私の経験に拠ってしか書けず、それは偏りがあります。それでも主体的に自分や家族の健康づくりをする方の選択肢の一つになるよう、よいと信じる取り組みを今後もご紹介していきます。
想定読者 | 推奨回 | 準推奨回 | ||||
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「食べる」が難しくなってきたと感じている人、またその家族 | 32 | 37 | 41 | 35、39、42 | ||
入院中の人、またその家族(介護に関わる人) | 31 | 33 | 40 | 37、39、44 | ||
在宅で闘病中の人、またその家族(介護に関わる人) | 33 | 39 | 41 | 38、44、48 | ||
家庭介護を受けている人、またその家族(介護に関わる人) | 36 | 38 | 39 | 33、42、44、 46、48 | ||
自分や家族に、加齢によって起こりやすいことを知りたい人 | 35 | 37 | 42 | 32、41、43、 45 | ||
医療や介護の職にあり、摂食嚥下障害&ケアについて知りたい人 | 31 | 34 | 45 | 47 | 48 | 33、36、37、 40、43、44、 46 |
これから「食べる」を支える勉強・仕事をしたい人 | 31 | 34 | 43 | 46 | 47 | 32、35、38、 40、45、48 |
次回、「医療や介護の職にあり、摂食嚥下障害&ケアについて知りたい方」と「これから『食べる』を支える勉強・仕事をしたい方」へ、取材を通じて知り得た要点と雑感、「読者別・推奨回リスト」を掲載します。