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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第49回 2年目のはじまりに
「食べる」に向き合う人の広がりを願う(前編)

はじめに

 連載をもう1年続けられることになりました。大変お忙しい中、取材に応じて時間を割いてくださる方々に、そしてこの場を与えていただけることに心より感謝します。節目なので、取材による雑感と、連載31〜48回に掲載した記事を整理して、想定読者別にとくに読んでいただきたい回を選んだ「読者別・推奨回リスト」を掲載します。
* 初回から27回までの「読者別・推奨回リスト」は29回30回に掲載しました。

食を支える人たちに聞いた大切なこと
元患者家族が取材記者になって

 取材を通じて、食べることに困っている人が少なくないこと、それを支える取り組みが多様にあることを知り、抱いた感想は連載28回にも書いて、今も変わっていません。併せてお読みいただければ幸いですが、ポイントは

  • 加齢や病気、障害などによって「食べる」に困ることは誰にでも起こる
  • 加齢や病気、障害などによって「食べる」に困っても、栄養失調など問題が起こるまで、そのようなことが自分や家族に起こると考える人は少ない
  • 一般の人に、食べられないことからどのようなことが起こるか知られていない。そして、食べることに困ったら「相談する、ケアを受ける」問題だという認識は低い。しかし早急に食生活を見直すか、自力で対処が難しければサポートを受けるべき(介護認定を受けていなくても、ほかの病気がなくても、「食べられない」を相談し、ケアしてくれる人を捜すべき)
  • 相談できる場、高いケア技術をもつ専門職は増えている
  • 医療や看護、介護に携わる人の中にも、「食べる」に困っている状態を問題だと認識しない人もいる。また、「低栄養」や「急激に痩せている」を察知し、問題だと認識しても、自分の専門外のことでどうしたらいいか分からない人もいる
  • 栄養失調の人が病気やケガをすると、健康を取り戻すのが難しく、命の危険は高くなる。栄養は健康、介護予防の基礎として元気なときに見直す必要があること。セルフケアも重要

 などで、こう書きながらいくつかは「当たり前のこと」のようで、しかし自分自身も患者家族になるまで改めて考えなかったことだと振り返っています。
 しかし、この連載で取材した方々からたくさんのことを教えていただいて、今は患者家族だったとき以上にこういったことを思慮するようになりました。
 幸いなことに取材した方からの助言で取材すべき取り組みを知るようになり、そのおかげで素晴らしい取り組みや人に会え、取材が叶っています。そして結局、最先端で「食べることを支える取り組み」に当たる人は、言葉は違っても同じようなことを憂い、メッセージを発信、行動していると感じるようになりました。
 一方、残念ながらこの場の読者がどのような立場にある方か特定できないため、通常の記事では介護に携わる一般の方と、食べることを支える専門職、これから医療・介護の仕事をめざす方など読者を分けて書いていません。そこで今回は「読者別・推奨回リスト」の想定読者別に、取材を通じて知り得た要点と、雑感をまとめます。

「食べる」が難しくなってきたと感じている方、またその家族へ

 食べることが難しくなってきたとしても、なかなか自覚するのは難しいようですから、自覚されている、または家族の様子から心配されているのは貴重な気づきです。ぜひその気づきを活かして、現在の食べる機能を維持・向上しましょう。
「食べにくい食べ物が増え、それらを避けるようになった」「家族が留守をしている昼の食事は食べないことが多い」などがあっても、「食べられていない」とまでは思わない人も多いのです。食べる回数や量が減っていないか、それはなぜか、原因に応じて早めの対処が必要な問題です。

 食べられないのが「噛む・飲み込む」など機能の問題なら「摂食嚥下(せっしょくえんげ)障害」の治療・ケアをしてくれる病院か歯科医院を探しましょう。専門医や機能障害のケアに詳しい管理栄養士の著書などを参考に自助努力で食生活を見直し、改善を試みて、それでも状態が変わらなければ専門医を訪ねるという方法もあります。
 食べるのを控えていると機能障害は改善せず、わるくなってしまいます。栄養不良も心配。食べられる食形態のものをしっかり食べることが機能のリハビリテーションにもなるということなので、専門医にかかり、唾液や入れ歯のこと、食べやすい食べ物の形態、食べやすい姿勢、機能低下予防などについてもアドバイスを受け、食生活を見直しましょう。

 一方、機能の問題ではなく、食べられない場合もあるということです。
 体調の問題(抑うつ、食欲低下、消化吸収がわるい<便秘や下痢>)ならかかりつけの医者にまず相談を。病気が隠れていないかも含めて診てもらい、十分な食事がとれる体調に戻さなければなりません。
 さらに、食べ物を調達したり、食事を用意するのが大変になって食べられなくなることもあるようです(★)。行政のサービス、一般の宅配・配食サービスなど、何か改善する手はないでしょうか。買い物や料理を手伝ってもらえるご近所さんはいませんか。「痩せたんじゃない?」などと心配してくれている人はいませんか。かかりつけの病院にソーシャルワーカーはいませんか。どうか誰かに相談してください。相談すべき問題です。
 偏食や、食事の回数や量が極端に減った生活が続くと、栄養状態がわるくなり、健康が保てません。栄養が大切だと皆、頭では分かっていると思うのですが、「低栄養」が一見、元気に見える人でも起きている場合があるなどとは考えにくいです。しかし、それは起こり、増えています。健やかであることを望むなら誰かの手を借りてでも十分な食事がとれる生活に戻れますように。
 なお、1度に食べる量が減った方については、過日の取材で国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科医長・藤谷順子先生が、
「『食べるとすぐお腹がいっぱいになる』方は背中が曲がっている人、あるいは、慢性閉塞性肺疾患などで呼吸機能が低下している人、胃の手術をした人などでみられます。そのようなときには、1日3回にこだわらず、1日5回でも、6回でも、分けて栄養をとりましょう。便秘の解消にも『ちゃんと食べる』は重要です」
とおっしゃっていました。主治医に食べられないことも相談し、栄養ケアも受けられるとよいのではないでしょうか。

 介護認定を受けている方はケアマネジャー、病気がある人は主治医にまず相談ですが、それ以外の方についてはここで『困ったら誰に相談を』とは書けません。食べられない原因がさまざまであると考えられる上、病気や介護予防の段階での個別食支援の窓口・受け皿は地域によってさまざまだからです。
 いずれにせよ「食べる」が難しくなってきたと感じたときから問題は始まっていて、重症化するスピードは案外速いこともあります。気がついた時点で、改善のための行動が必要です。
 とはいえ★のケースでは、独居高齢者など問題が家庭の外に出づらいことも少なくないと思われます。そもそも相談する元気があったら、相談できる人がいたら問題にならないよ、という問題。どうしたら、そうした存在に「問題」を知ってもらえるでしょうか。この点に関しては既に取り組みを始めている医療・介護者を引き続き取材すると共に、一生活者としても考えていきます。