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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第48回 「おはよう21」で介護食レシピの連載 
「加工食品でできる 簡単やわらか食」スタート

はじめに

 本サイトを運営している中央法規出版が発行する介護専門職のための総合情報誌「おはよう21」に6月号より介護食レシピを紹介するページが誕生しました。
 介護食レシピといっても、嚥下調整食の作り方が載っているだけではないそう。そこで、新連載開始の意図を編集部に取材し、監修の牧野日和先生と、レシピと食材提案を行なう株式会社ふくなお代表取締役・西野美穂さん(大阪市東住吉区)にこの新連載で読者に伝えたいことなどをうかがいました。

食べる機能維持・アップになる食事
安全に提供するための知識とレシピ

 「おはよう21」は5月号からカラーページを拡充するなど全面リニューアルを行い、6月号から「加工食品でできる 簡単やわらか食 ~食べる人にも 作る人にも やさしいレシピ~」を巻頭カラーページに掲載しています。
 紹介されているレシピは以前、本連載(第37回38回)でも取材した食品メーカー・ふくなおが開発したもの。主に同社製のやわらか食材を使って簡単、手軽に作れ、見た目にもおいしそうで、おいしい料理の紹介を通じて、摂食嚥下障害の状態に応じてどのような食事をとることがふさわしく、それがどのように食べる人の健康を養うか、理論や摂食嚥下ケア技術の基礎を分かりやすく紹介していく、とのこと。編集部は次のように話します。

「食事は日に3度のことで、食べることができる口作りなど、食べることの周辺も含めると、介護の中では多様なケアが必要とされる場面です。そのため施設にお勤めの介護専門職や栄養士、また、家族介護者など読者は嚥下調整食の提供、摂食嚥下ケアなどでさまざまな悩みを抱えておられるようです。
 そうした悩みを解消するために、現在行なわれている食事の提供やケアを見直すきっかけになる情報ページを作りたく、始まった企画です」(「おはよう21」編集部 郡啓一さん)。

 編集部には、以前同誌で読者に好評だった牧野日和先生の「『口から食べる』を支えるケア」を発展的にリスタートしたい考えもあり、まずはページ構成について牧野先生に相談しました。そこで牧野先生より嚥下調整食について研究を重ね、商品開発を行なっているふくなおとのコラボレーションが提案され、掲載するレシピ案の試食会などを経て、企画が練られたそうです。
 ふくなおのものづくりについては第37回でもご紹介しましたが、特長は、

  • ・「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」の嚥下調整食3、4に当たる人に適した物性の食材を中心に商品開発している(味のついた完全調理品は少ない)
  • ・食材ごとに違う本来の栄養、食感、香り、素材感が煮炊き・調味しても残るよう、原材料比率を高めるなどの技術革新をしている

 という点で、それは固いものや口の中にはりつくもの、バラけるもの、離水するものなどが食べにくいといった初期の摂食障害をもつ人の重症化予防(機能維持)に「おいしく食べること」がリハビリテーションとしても大切であるためで、取材の折には「食べる人にとって食べ慣れている味がいちばんおいしく、食が進むと考えるので、煮炊き・調味する『食べやすい食材』を主に製造している」と聞きました。
 さらに西野社長は「まだまだ介護食は変わる余地があります。そしてもっと知られる必要がある。摂食障害があってもおいしく食べられるものがたくさんあることが知られていない」とも話していました。
 牧野先生がふくなおとのコラボレーションを提案したのは、まさにその「知られていない」を変える必要を感じてのことのようです。
 牧野先生曰く、「知られていないというのは、安全に食べられる嚥下調整食があることだけではなく、そもそも食べる機能、食べられない障害とはどのようなことなのかも十分に知られていない。そのため適切・安全な食事のケアができていない介護現場は少なくない」とのこと。以下、牧野先生が記事構成を考えた背景についてコメントをくださいましたので、ご紹介します。

◯介護食連載企画の背景:牧野日和先生のコメント
 現状、国内外で嚥下調整食についての基準がいろいろとあります。スタンダードとなりつつあるのは「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」ですが、基準は地域や施設によって採用されているものがまちまちで、とろみの状態を表す言葉1つにしても施設ごとの慣例で異なり、混在しています。
 病院で食事の提供に関わる人、また、退院後に受け入れる施設等のスタッフ、そして自宅に帰ってくる家族を迎える介護者、さらに噛み、飲み込む機能が弱ってしまった人自身も、基準が混在し、共通言語がないことで困っているケースが多い。
 昨今、嚥下調整食の開発が進み、製品は増えていて、どの製品にも摂食嚥下機能レベルによる段階付けはされていますが、実際には「障害の種類や程度」は多様で、適しているという製品の特性が「なぜ、どう適しているのか」は明確に示されておらず、選びにくい。
 「食べ物を食べる」という行為は唇、舌、頬、喉の筋肉、顎、そして脳を使って行なう複雑なものなので、その障害を「摂食嚥下障害」と一言で表しても、障害の種類や程度をひとくくりにはできません。適した食事を判断するのは容易ではないので、ケアの現場での機能評価や食形態の設定などが誤っていることも少なくないのです。
 ご高齢の方の場合、嚥下機能や摂食量の変化が著しいこともあり、適正を見誤ることは大きなリスクとなります。例えば、食事機能の過大評価は窒息や誤嚥、誤嚥性肺炎を招きますし、過小評価は摂食機能障害の重症化(廃用)や低栄養などの健康被害を招きます。

 牧野先生は、まずは基本として「障害の種類や程度」と「食品の物性と基準」の関係、食べる機能の維持・向上となる食事を実現するために必要な理論・技術を普及し、現状(上に述べた背景)を変えていく必要があると以前の連載(『口から食べる』を支えるケア)ほか、さまざまな機会で繰り返し啓発しているのです。

 新連載もテーマは、嚥下調整食の基準を明確にし、食べることの障害について理解を深め、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」に基づいてどのような食事がふさわしいか、また、適した食材、料理があることなどを知ってもらうと決まって、先述のようなものづくりを社是として、病院や施設の給食に関係するスタッフから情報集種をして製品開発を行い、レシピを公開して食べ方提案にも取り組むふくなおとのコラボレーションを考えたとのこと。牧野先生は抱負を次のように話してくださいました。

「噛み、飲み込む機能が弱ってしまった人が全国どこにいても、その人の状態に適した嚥下調整食が提供される社会をめざしたいですね。この度の連載では、嚥下調整食の統一化をめざして作成された『嚥下調整食分類 2013』に基づく食の意義を理解していただけるよう、レシピ紹介と合わせることによって、これまで以上にキャッチーでわかりやすい解説を試みます」。

 一方、ふくなおの西野社長は、在宅介護が増えているという背景もあり、連載への思いとして以下のコメントを寄せてくださいました。

◯介護食連載スタートに当たって:株式会社ふくなお西野美穂社長のコメント
 弊社は嚥下調整食用の食材や料理に特化した食品メーカーとして、自宅介護されている方々も含め、食のケアに携わる方々に向けて、介護を楽にするお手伝いとなる情報もお届けしたいと考え、レシピ開発など「食べ方提案」にも力を注いでいます。
 1日3回の食事、とくに嚥下障害や口腔内に問題を抱えておられる方々の食事は、料理する方々にとってとても負担のかかる仕事(家事)です。私や弊社のスタッフも介護経験等を通じて、痛感しています。食べやすい、安全な物性の料理を毎回、食材の下ごしらえから手作りするのは不可能ではないでしょうか。多くの家庭の食事の仕度に冷凍食品を使って手抜きをするように、介護の中で食事を準備する人にも手抜きをしてほしい。そして手抜きついでに、安全な物性というものを専門家の解説から読み取り、理解していただきたい。そうした思いでこの連載に取り組んでいます。

 初回6月号の記事では、チキンムースの「やわらかチキン」のから揚げレシピを通じて、嚥下調整食4とはどのような人に適した物性か、食形態の評価の注意点、摂食機能維持・向上のポイントが解説されました。7月号はレシピ2品と共に、食べる機能とその維持について解説されていて、連載は来年5月号まで、1年間を予定しています。
 食事が食べる機能の維持・向上のリハビリテーションになるには、食欲があって過不足なく食べること、食事が楽しいことも大切なので、行事食や季節食に適したレシピ等も紹介予定とのことです。
 また、「おはよう21」編集部では今後も本連載のほかにも読者の食のケアに関する悩み解消に役立つ情報を提供する考えで、直近では7月号の臨時増刊として書籍「食材別で献立がすぐ決まる! 介護に役立つかんたんレシピ」(大野紋矢子著)も発刊。さらに牧野日和先生の新連載も今秋スタートを予定しているとのことです。