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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第29回 これまでの連載記事を振り返って
「食べる」を支える情報、タイプ分け(前編)

はじめに

 このウェブサイトは、医療・介護関係の仕事に従事している方、そうした仕事をめざしている方のほか、介護をしている一般の方もご覧になっていると聞いています。そこで、これまでの本連載の記事の中から、とくに想定読者別に読んでいただきたい回を選び、表にしました。

 本心は全回に目を通していただきたいですが、医療・介護に関わる人は忙しく、必要な情報と出会う機会が限られると思うので、推奨回を選びました。

 また、過去の取材記事(第2回~16回、連載開始案内の第1回を除く)の内容と取材の感想を簡単にまとめます(第17~27回については次回に掲載します)。ぜひ「食べること」に困っている方や、または「食べること」を支える仕事をしたいと考えている方は、推奨回をご覧ください。

 全回とも取材に登場していただいた方は「先駆的な、理想的な事例」を率いている方、または「食べること」を支える教育等に今現在深く関わっている方ですので、何か仕事や勉強、暮らしの参考になることをみつけていただければと思います。またご親戚やご友人で、同様の方がいらっしゃったら、ぜひご案内ください。

 現代では「食べない」という選択をして健康を保っている人もいますし、「食べ過ぎ」が病気を招いていると考えている人は少なくありません。とはいえ医療や介護に携わる人の多くが患者(利用者)、家族を見守る中で、すこしでも「食べられる」うちは表情も豊かで、笑顔も見られる。簡単に言えば「元気がある」と感じていることも事実です。

 どのように食べるのが健康(生命)によいかは一概に言えないと思います。そのため「食べたいのに、食べられない」人やその家族が、栄養管理だけではなく、患者(利用者)の人生全体を考え、尊重し、寄り添ってケアしてくれる医療者(介護者)と出会えるか否かは、生活の質に大きな差をもたらすと感じています。「食」は人任せにできないことですが、「食べる」が難しいケースでは専門家のケア(サポート)が不可欠です。

 なお、幸いな「食」は人それぞれ、ときどきで見直し、選んでいくべきものだと思えばこそ、今後も多様な取り組みを取材し、多くの選択肢をご紹介したいと考えています。連載第31回からは関西で取材した記事を掲載予定です。

読者別・推奨回リスト

 多様な「食べること」を支える取り組みがあります。ぜひ、こちらの記事をご一読ください。「食べる」に困っている方(または、その家族)は、記事を参考に生活を見直し、身近でケア(サポート)を探すなど、試みてみませんか。

 また今後、「食べる」を支える仕事をしたいと考えている方などは、どのような職域で支えたいか、ぜひ参考にしてください。

想定読者推奨回準推奨回
「食べる」が難しくなってきたと感じている人、またその家族
25
27
11
17
19
入院中の人、またその家族(介護に関わる人)

13
 
在宅で闘病中の人、またその家族(介護に関わる人)

25
17
19
27
家庭介護を受けている人、またその家族
(介護に関わる人)

10
24
12
17
19
22
27
自分や家族に、加齢によって起こりやすいことを知りたい人

 
医療や介護の職にあり、摂食嚥下障害&ケアについて知りたい人

10
24
26

12
15
18
これから「食べる」を支える勉強・仕事をしたい人
10
14
20
26

11
18
25

過去の掲載記事・まとめ

  • 第2~4回 大妻女子大学教授・川口美喜子先生インタビュー
     島根大学医学部附属病院で「患者さんに寄り添う食事の提供」を行なう臨床栄養部の病院栄養士達と、病院の栄養サポートチーム(NST)を率いた川口先生。食事は「患者さんにとって唯一、痛みを伴わない治療」の信念で、病院での食事提供においてさまざまな改革に取り組んだ経過をうかがいました。
    「営養管理について、(すべての医療スタッフは)職種の垣根を越えて誰でも発言できることが大切」の言葉が印象に残ります。

  • 第5~7回 医師(特養常勤医)・石飛幸三先生インタビュー
     このウェブサイトでも「特養で死ぬこと・看取ること」を連載されていた石飛先生に、高齢者に起こりやすい健康上の問題、体に合った栄養管理、食事介助などについてうかがいました。
    「高齢者自身が、自らの意思で営んでいた日常生活を失ってしまうのは、たとえそれが医療を受ける機会でも、その後の生活に大きく影響する」の言葉が印象に残ります。
     どう生きて(食べて)、死ぬことが幸せか、大変に考えさせられる取材でした。著書「家族と迎える『平穏死』」も併せてお読みいただきたいです。

  • 第8~10回 リハビリテーション科医師・藤谷順子先生インタビュー
     2014年の日本摂食嚥下リハ学会学術大会の副会長も務めた、国立国際医療研究センター病院リハビリテーション科医長・藤谷先生に、8、9回では加齢による摂食嚥下障害の予防、セルフケア法をうかがい、10回では患者(利用者)が望む食のサポートはどのようなものか教えられました。
    「(自分は食べられなくても、レストランへ行き)ときには『かわいい孫におごってあげたい』…食べることの喜びを感じるのは、そういった機会ではないかと思うから、私はそういうサポートを考えたい」に感銘を受けました。「食べる」をサポートするとき、「食べられる、食べられない」に限らずできることがあると考える医療者の存在は希望です。

  • 第11、12回 市販用介護食パイオニア、キユーピー株式会社取材
     同社が1999年に発売した市販介護食品シリーズは「やさしい献立」。いずれ家庭での介護において食事介助の負担が大きくなり、さらに高齢者の低栄養のリスクが叫ばれるようになると見越し、ユニバーサルデザインフードのシリーズ化を行なったそうです。
    「数年~数十年後にどのような栄養上の問題が起こるか、そして、飽食といわれる時代に『食事を楽しむ』ことから置き去りにされている方はいないか、食品メーカーとして考えた末の商品化だった」など、商品開発経緯をうかがいました。

  • 第13回 キユーピー株式会社製介護食「やさしい献立」シリーズ食レポ
     筆者が在宅介護で感じた食事の問題を思い出し、困っていたことの「対応になること」を考えつつ「やさしい献立」シリーズのいくつかの商品を食べてみたレポートです。
     製品はどれも温めたり、冷やすだけでおいしく食べられるものでしたが、介護食を含む家族全員の食事を充実させる工夫を考えるとき、食材の一つとしても使い勝手がよいものだと知りました。

  • 第14回 第20回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会レポ
     第8~10回にインタビューした藤谷先生が副会長を務めた2014年度の「日本摂食嚥下リハ学会学術大会 テーマ:食べる喜び支える楽しさ —広がるチーム—」を観覧したレポートです。
     ポスター展の充実が印象に残っています。あのポスターが一般の人の目にもふれているとよいですが、どうでしょうか。

  • 第15、16回 大妻女子大学教授・川口美喜子先生インタビュー
     第2~4回でもインタビューした川口先生に、15回では著書「がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ」を出版した経緯についてうかがい、16回では大妻女子大教授就任後の栄養士教育にかける思いと、「NPO法人白十字在宅ボランティアの会 暮らしの保健室」で開始した給食&栄養指導についてうかがいました。
     在宅介護に関わるようになり「『在宅』での食の支援は、病院栄養士がスライドしてできることではない。頭を切り換えなければ真に寄り添えない」と苦悩したというお話から、今後、地域の中で「食べること」を支援する上の課題を考えさせられました。

 次回は続編を掲載します。