介護で幸せになる―介護ストレスを減らすヒント―
介護ストレスを感じている人たちが、明日からの介護に希望がもてるようなヒントを渡辺先生が送ります。
- プロフィール渡辺 俊之 (わたなべ としゆき)
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1959年群馬県で生まれ、介護家族のなかで育つ。高校時代に町医者の祖父を認知症で亡くしたことをきっかけに医師を志す。1986年に東海大学医学部を卒業後、精神科学教室で精神分析的精神療法と家族療法を学ぶ。
介護家族体験が忘れられず、いつの間にか介護家族のこころの問題に没頭する。2000年介護家族の心理的問題に関する研究で医学博士。同年より東海大学医学部附属病院にて、介護者・介護家族のこころのケアを始める。
現在、介護におけるこころのケアに関する講演やTVコメントを行っている。
日本家族研究・家族療法学会会長。高崎健康福祉大学健康福祉学部社会福祉学科教授・同大学院専攻科長/学科長。東海大学医学部非常勤教授。精神分析学会認定精神療法医、同認定スーパーバイザー。
藤村邦名義で執筆した「Afterglow-最後の輝き-」(文芸社)で、第51回(平成25年)群馬県文学賞(小説部門)を受賞。
第19回 自分だけ損をしていると思っていませんか
あなたは自分だけが損をしていると思っていませんか。
「周囲が自分に冷たくしている」「周囲は自分に介護を押しつけている」「悪意をもって自分をいじめている」といった感情を被害感と言います。こうしたことを思っても、その一方で「そんなことはない」と訂正できるのが通常の精神状態ですが、ストレスの強い介護が続いていると被害感が確信になっていくことがあります。
私たちのこころは、過酷なストレスが加わると幼児的な心理段階に変化します。こうした現象を精神医学では心理的退行と呼んでいるのですが、退行した結果、思考や認知の仕方に歪みが生じてくることがあるのです。その結果、他人の言葉がいつもよりも心に残るようになります。
退行すると被害感を持ちやすくなります。他人の善意のアドバイスですら、マイナスに取ってしまい、「心の中で自分をバカにしているのに違いない」と考えてしまいます。こうした状態になっている時は、もうかなりストレスが溜まっている証拠です。
被害感が強まると現実を正確に理解する能力が低下してくることがあります。普段は考えたこともないようなことを空想したり、猜疑心に支配されたり、時には妄想的になったりもするから要注意です。
被害感から現実検討能力が低下している時には、周囲から「どうして、そんなふうに思うのだ」とか「思いこみすぎだよ」とか「悪い方に考えすぎだ」と言われるでしょう。こうした周囲の助言が、被害感に支配されている自分を客観的に見直すチャンスです。しかし、激しい被害感はそうした他人の助言を無視してしまい、訂正が困難になってしまうこともあります。
疲れから回復してくると、だんだんストレスが軽減します。そして誰かから優しい援助があると、こころは退行から回復し、被害感は軽減します。
- 幸せへのヒント18
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私はいま被害的になっているんだなあと気づきましょう