ほじょ犬って、なあに?
身体障がい者の生活を支える、「盲導犬」「介助犬」「聴導犬」。そんな補助犬たちにまつわる話を紹介するコーナーです。
- プロフィール橋爪 智子 (はしづめ ともこ)
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NPO法人日本補助犬情報センター専務理事 兼 事務局長。
OL時代にAAT(Animal Assisted Therapy:動物介在療法)に関心を持ち、ボランティアをしながら国内外で勉強を始める。1998年、米国DELTA協会(現・米国Pet Partners協会)の「Pet Partners® program」修了。2002年より現職。身体障害者補助犬法には、法律の準備段階からかかわっている。
著書
『よくわかる 補助犬同伴受け入れマニュアル』共著
(中央法規出版)
第123回 人と動物の関係学会シンポジウム報告「補助犬からアシスタンス・ドッグへ:普及と発展に向けた課題と社会の意識」
幼稚園の制服とスーツ姿のご両親を何組か見かけました。卒園式のシーズンですね。4月から小学生! 頑張って♪と思わず声をかけたくなります。すっかり、日差しも春の陽気です。今年度も残りわずか、ラストスパート頑張りましょう!
深~い関係があるのです……♪
さて、3月5日(土)、人と動物の関係学会学術大会のシンポジウムにて、シンポジストとして登壇させていただきました。初めての東京大学弥生講堂!というだけで緊張してしまいましたが(笑)、シンポジウム自体は和やかに進み、非常に有意義な時間となりました。素晴らしいチャンスをくださいました学会関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
テーマは、「補助犬からアシスタンス・ドッグへ:普及と発展に向けた課題と社会の意識」。まずは、各シンポジストの発表を簡単にご紹介しましょう。
『補助犬とアシスタンス・ドッグ:わが国と欧米諸国における動きと相違』
山本真理子氏(帝京科学大学)
日米において、補助犬やアシスタンス・ドッグの調査研究を行ってこられた山本氏。貴重なデータの数々をお示しいただきながら、改めて日米の補助犬の違いを見つめ直すことで、日本社会における普及啓発の課題を考える素晴らしいきっかけをいただきました。やはり、日本という歴史的文化的にも独特の観念を持つ国だからこその補助犬の在り方、普及の仕方について、他国の成功事例をしっかりと踏まえた上で考えることの重要性を教えていただきました。
特に興味深かったのは、米国のアシスタンス・ドッグの役割変遷の調査でした。15年前は【身体障害】を補助するアシスタンス・ドッグが73.7%だったものが、5年前には36.9%に減少し、残りが精神疾患(自閉症含む)や他の疾病(てんかん、糖尿病等)となっていたとのこと。米国のアシスタンス・ドッグの役割が急速に変化していることがわかると同時に、それに伴うトラブルも増えているとのご報告もありました。
わが国には独自の補助犬法があります。法に照らしながらも、法律には網羅されていないアシスタンス・ドッグに関して、調査や議論を継続していく必要があると感じました。
『犬の可能性は使用者さんが引き出す:
希望と絆が育む、人と動物の新たな共生社会の形』
鉾山佐恵氏(一般財団法人ヒューマニン財団)
米国でこれまで長年にわたり、補助犬やアシスタンス・ドッグ等のトレーニングに携わってこられた鉾山氏。そのご経験から、米国における訓練者が、いかに障害当事者に対してチームでかかわり、そして障害当事者が中心となって、最終的に障害当事者の独立した自立心のもと、いかにQOLを上げてきたか、の事例を多数ご紹介いただきました。迫力あるプレゼンには感動しました。
レジュメの最後の言葉、「必要なのは、血統の良い犬でも、カリスマ訓練士でもない。犬の可能性を引き出し、より良い犬との共生社会を作っていくのは、使用者さん自身の強い希望と犬との絆、その二つなのだ」という言葉は、まさに現場で格闘してきた鉾山氏だから言える言葉だと感じ、とても印象的でした。鉾山氏が現在取り組んでおられる、ヒューマニンペッツの活動に対しても、ぜひとも応援していきたく思いました。
『身体障害者補助犬法施行後の国内補助犬をめぐる環境と課題』
橋爪智子(特定非営利活動法人日本補助犬情報センター)
私からは、現状の日本が抱える課題やその環境について、事例に基づきお話しさせていただきました。
法施行から14年、様々な方面からの法整備や制度面での整理はされているにもかかわらず、未だに社会一般的に、補助犬同伴拒否の事例がなくならない現状について、当会に寄せられる相談・苦情内容を紹介しながら、ご説明しました。あまりにも酷い相談・苦情内容に、会場からは驚きの声と失笑も起こっておりましたが、それがまだまだわが国の現状なのです。
私からは、「補助犬ユーザーは、社会におけるマイノリティである【障害者】の中のさらにマイノリティであるため、UD(ユニバーサルデザイン)社会への展望なしには、その福祉を達成することは困難である」ということを、何度もお伝えしました。
『リスク回避としての排除:日本における障害差別の諸相』
星加良司氏(東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター)
星加先生の社会学の観点からのご指摘は、非常に示唆に富んでおり、多くのヒントをいただくことができました!
『日本特有の「転ばぬ先の杖」が重視され、トラブルを未然に防ぐことが好まれる日本社会では、リスクを過大に評価してリスク要因を過剰に排除しようとした結果、障害者が社会的な活動に参加する機会が大きく奪われてきた歴史がある』というお話に、ハッとさせられました。まさに、私自身の発表の中でも、社会が補助犬同伴を拒否する理由として、「リスク回避意識」と「前例がないことに対する過剰な恐怖」を示していたので、歴史的観点からも言い示せるのだと確認ができました。
また、『補助犬に対する社会的な受容性を高めるために必要なアプローチとして、第一に、排除を伴わずにリスクを最小化するための方法を粘り強く探究する態度の形成、第二に、ある程度のリスクと共存することを可能性にする耐性の醸成、第三に、リスクが具現化してしまった後にトラブルを処理するための技法や仕組みの普及である』(レジュメより抜粋)という言葉に、非常に大きなヒントをいただいたともに、大きな宿題でもあると感じました!
これからの障害者の受容の重要ポイントは、今まで欠けていた「他者問題意識」を、いかに「我々のなかにある問題」として気づいてもらえるか、ということにあります。自らの学びにより克服するような仕掛け作りが必要になってくるとのことです。
先生のご研究で開発されている教育プログラムでは、「個々の障害者の具体的な事例紹介はしない」とのこと。具体的に知れば知るほど(=知ったつもりになるほど)、「自分」と「他者」の違いを明確に、無意識のうちに意識してしまうのだそうです……う~む、奥が深いですね。
引き続き、星加先生のご著書などで勉強しながら、今後の補助犬啓発をスパイラルアップしていきたいと思っております。
その後の会場との質疑応答セッションも非常に盛り上がり、時間が足りない状況で、主催側の学会関係者も非常に喜んでくださいました。「人と動物の関係学」はまさに、補助犬のベースに必要不可欠な理念です。
私自身、そこから始まり補助犬業界に来た人間ですので、非常に貴重な経験となりました。また、新たな分野の方々とのつながりもでき、当会業務に一層の厚みが増す機会となりました。あらためて、素晴らしい機会をいただいたことに、心より感謝申し上げます。
お知らせ
身体障害者補助犬を推進する議員の会
第4回『ほじょ犬の日啓発シンポジウム2016』
防災と補助犬~障害者インクルーシブな防災~
- ◆ 日時:2016年5月20日(金)
- ◆ 会場:衆議院議員会館
1万8000人を越える人たちが犠牲になった3.11東日本大震災から5年。国際的な新たな防災の考え方である『障害者インクルーシブな防災』について、日本障害フォーラムの藤井克徳幹事会議長より学びます。
- ご寄付のお願い「日本補助犬情報センター」より
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当会のビジョンは、全国民が正しく補助犬法を理解することで、すべての人が安心して活躍できる社会を実現することです。補助犬ユーザーの社会参加推進活動、普及活動、最新情報収集、資料等作成配布、講演会・イベント等、当会の活動はすべて無償で行われております。
皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。