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【リーダーシップ】以前は上手くできていたのに、リーダーシップが発揮できなくなりました。どうすればいいのでしょうか?

Q,【リーダーシップ】以前は上手くできていたのに、リーダーシップが発揮できなくなりました。どうすればいいのでしょうか?

もっと詳しい状況は?

 障害者の入所施設で働いている原田といいます。入職5年目で、ユニットで支援にあたっています。

 昨年、地域の子ども向けプログラムにかかわりました。毎月20名程度の子ども達が、食事づくり、工作、ゲーム、合唱などを楽しみました。入所の利用者さんも参加し、施設への理解も深まり、プログラムは予定どおり半年で終了しました。
 企画運営を担ったのは様々なユニットから立候補した若手職員3名と私の4名です。年長という理由でリーダーに任命されました。人間関係は良好でした。毎月の会議でプログラムを決め、協力して準備し、当日を迎えました。ユニットと同時進行なので大変でしたが、4人で達成感を分かち合いました。リーダーシップをうまく発揮できたと思います。
 上司は、そんな私を評価してくれました。それもあって、今春、ユニットリーダーに抜擢されました。でも、うまくいきません。リーダーシップが発揮できないのです。
 私自身は率先して支援はしてますが、以前と比べて、ユニットの人間関係がギスギスしています。二人のベテラン職員の指摘や指示に、異動してきた若手が不満をもっています。記録の詳細、支援のやり方、その日のメンバーの仕事の割り振りなどです。ベテラン職員に注意したいのですが、できていません。最近では、若手職員からもベテラン職員からも、信頼を失っているような気がします。
 どうしたら、以前のようにリーダーシップを発揮することができるのでしょうか?

A、リーダーシップは学べます!背景にある理論を学び、状況に合わせてリーダーシップ行動を意識的に調整できるようになりましょう。

【ポイント】
●リーダーシップは本人特性×部下特性×仕事特性という3つの変数できまる
●仕事特性と部下特性を見極めよう
●率先垂範・同僚支援・目標共有の3点から、自分のリーダーシップ行動を点検しよう

【先生の解説】

 介護や福祉の現場では、チーム運営やリーダーシップの理論を学ぶことなく、リーダーを任されることが少なくありません。原田さんもそうだったようです。地域の子ども向けプログラムではリーダーシップを上手く発揮できましたが、ユニットでは苦戦しているようです。その理由はどこにあると思いますか?


 リーダーシップは、メンバーの意欲や能力、チームの人間関係、仕事の内容、これらによって調整する必要があるのですが、原田さんはそのことを知りませんでした。この点を学ぶと、とるべきリーダーシップ行動がわかるようになります。確認していきましょう。

リーダーシップは本人特性×部下特性×仕事特性

 リーダーシップは本人特性、部下特性、仕事特性という3つの変数で決まります。


・本人特性
 リーダーとしての行動特性を指します。「状況にあわせてリーダーシップ行動を調整する」ためには、自分自身の特性を理解することが出発点となります。
 メンバーの人間関係を優先しがちなリーダー、目標達成を優先しがちなリーダー、あなたはどちらですか?
 指示命令を自ら出すリーダー、周囲の意見を尊重するリーダー、あなたはどちらですか?
 これらについての自己理解を深め、自分の素の特性を理解しておくことが大事です。

・仕事特性
 対象となる仕事の特性を指します。開設から20年が経過したグループホームのマネジメント、新規に立ち上げた就労移行支援事業所のマネジメント、この二つでは違いがあります。
 前者は変化が少ないように見える日々の暮らしを丁寧に粘り強く改善していくことが求められ、後者はトライアンドエラーを積み重ねながらスピード感をもって期間内に就労に結び付けることが求められます。仕事の内容、期限、成果の見えやすさによって、リーダーに求められる行動は異なります。

・部下特性
 メンバーの職務の熟達度をしっかり把握する必要があります。
 例えば、入職したての新人は、手順や技術に不安を覚えながら仕事をしています。できたことを褒め、足りない部分を具体的に示すことが大切です。
 同じような態度でベテラン職員に接したら、どうなりますか?たぶん、反発を買ってしまうでしょう。状況を把握しながら委任する姿勢を示すのが基本です。
 新しいことへの挑戦を好む職員とそうでない職員、緻密な職員と大雑把な職員。部下同士の人間関係がどの程度良好か。そういった部下特性を踏まえた対応が求められます。

仕事特性:目標は明瞭で共有されていますか?

 原田さんのケースで仕事特性をみてみましょう。
 地域の子ども向けプログラムは、長期にわたって支援が継続するユニットチームとは異なる点があります。例えば、期間は半年でした。目標は入所者と地域の子ども達との交流を通じて入所施設への理解を広めることでした。そのために月一回で活動を行うことも決まっていました。
 限定された期間、明瞭な目標、具体的な活動、こういった状況下において、人は頑張れますし、やる気も出ます。事実、メンバーは達成感を味わっています。

 これに比べてユニットでの支援はどうでしょうか? 日々の暮らしは単調で、成果が見えにくいものです。暮らしには期限やゴールもありません。利用者一人ひとりの支援目標はありますが、チームとしての目標が明瞭とはいえない状況です。
 目標を意図的に掲げて、メンバーと共有することが大事です。例えば、今月は排泄のリズムをモニタリングして支援のタイミングを微調整するとか、希望する利用者の外出支援を行うとか、そういった具体的な目標がよいでしょう。原田さんが目標を意図的に掲げた形跡はありません。

部下特性:部下や同僚の仕事に対する意欲や能力は把握していますか?

 原田さんのケースで部下特性をみてみましょう。
 地域の子ども向けプログラムは自ら立候補したメンバーで構成されていました。メンバーの意欲は高く、協力して準備するなど人間関係も良好でした。

 ユニットでの支援についてはどうでしょうか?
 ベテランがルールの遵守を若手に求めていました。ただ、原田さんの語りからは、遵守を求める理由は不明です。若手の支援力が不足しているからなのか、単にベテランのやり方に合わせることを求めているのか、そのあたりが判然としません。メンバーの意欲もわかりません。

原田さんへの投げかけと気づき

 これらのことを投げかけたところ、原田さんは職員との話し合いが不足していることに気がつきました。メンバー全員で話し合い、原田さんは次のように報告してきました。

 「ベテラン職員達、ユニットで整えてきた記録方法や観察ポイントを若手に覚えてほしかったそうです。理由を伝えていなくて申し訳なかったと言ってくれ、若手の誤解は解けました。ユニットの人間関係が悪くなってしまったのは、部下や同僚の意見にきちんと耳を傾けていない自分自身にあったんですね。皆さんに謝罪しました。」

 「子ども向けプログラムでは目標は自然と共有されていました。互いに助け合うなど、皆がメンバーシップを発揮していたと思います。私、周囲に助けられて、リーダーシップを発揮できていたのだと分かりました。」

 「仕事特性と部下特性を踏まえて自分の行動を調整すればいいことはわかりましたけれど、自分のリーダーシップを振り返るための指標になるようなものはありますか?」

率先垂範、同僚支援、目標共有で、リーダーシップ行動を高めやすくなる

 指標にはPM理論、状況適合理論など有名なものがありますが、今回は、より実践的な指標を紹介します。率先垂範、同僚支援、目標共有です。早稲田大学教授の日向野幹也先生がリーダーシップ初学者向けに提唱したものです。


①率先垂範
 自ら率先して動いて、メンバーの模範となること。原田さん、リーダーとしての率先垂範はこれからですが、一支援員として率先垂範はできています。

②同僚支援
 メンバーの話を聞くこと、彼らが仕事をしやすいように環境を整備すること。原田さん、職員との対話の場をもつことができましたので、コツはつかめたようです。

③目標共有
 ユニットのビジョンや目標を設定して、メンバーと共有すること。子ども向けプログラムではこれは予め示されていました。それと比較すると、日常の暮らしでの目標設定とその共有は簡単ではありません。
 福祉の仕事は、成果や結界がわかりにくいため、ビジョンや目標を共有することがとても大切です。原田さんの課題もここにありそうです。

 率先垂範、同僚支援、目標共有、この三点を意識しながら、自らのリーダーシップ行動を振り返ってみてはいかがでしょうか。足りないものが明確になり、リーダーシップ行動を意識的に変化させ、高めることができます。

この記事は私が書きました

井上由起子(いのうえ ゆきこ)

日本社会事業大学専門職大学院教授

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