【同僚・部下への伝え方】職場を代表して受けた介護技術の研修の内容を同僚にどうしたらうまく伝えられるでしょう?
Q,【同僚・部下への伝え方】職場を代表して受けた介護技術の研修の内容を同僚にどうしたらうまく伝えられるでしょう?
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もっと詳しい状況は?
デイサービスで生活相談員として働いている田中といいます。先日、職場を代表して、法人主催の「学んで楽になる介護」という技術研修を受けてきました。車いすといすを使ってリアルな場面設定をし、移乗介助についてグループで討議を重ねるスタイルでした。
実践的でとても刺激を受けたので、翌週、職場のミーティングで介護職達に報告をしました。でも、反応はいま一つ。それから二週間ほど立ちましたが、現場で取り入れている気配がありません。利用者さんの自立支援につながる技術だけに、とても残念です。理由は分からないのですが、介護リーダーとの関係も険悪になってしまいました。
私の教え方や伝え方に何か問題があるのでしょうか?A、介護リーダーと協力して、特定の利用者さんに焦点をあてながら、根拠も含めて技術を伝えましょう。
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【ポイント】
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- ●大人の学びは子供の学びと違う!
- ●特定の利用者さんに焦点をあてて取り組みましょう
- ●具体的な手順だけでなく、根拠や考え方も伝えましょう
【先生の解説】
研修は素晴らしかった!感銘した!でも、そこで終わり。瞬間的にモチベーションは上がったけれど、現場を変えるためのアクションはしなかった…。皆さんも思い当たることはありませんか。実はこれ、あるある、です。現場を変える行動に移すことは簡単ではありません。研修担当者の悩みもそこにあります。
でも、相談者の事例は違います。田中さんは行動に移しました。そこまでは拍手喝采です。ただ残念なことに、伝え方や配慮が足りなかったようです。
田中さんは、自分の教え方や伝え方に問題がありそうなことに薄々気がついています。どうすればよかったのか、一つひとつ確認していきましょう。大人の学びは子供の学びと違う! P-MARGEを活用しよう!
大人の学びは子どもの学びと違います。
田中さんは介護職達に講義形式で報告をしたそうです。研修資料をコピー配布して、30分程度で解説、最後に質問を受けつけたとのこと。
でも、田中さんが刺激を受けた研修は、車いすを使ったリアリティのあるものでしたし、グループで討議を重ねるものでした。
討議では「車いすと椅子の位置関係がよくないのでは?」とか、「この場面ではもっと介助者が腰を落としたほうがいいよね」とか、そんな会話が参加者の間で飛び交っていたのではないかと思います。
もうお分かりですね。研修は中身に加えて、伝え方がとても大事。
その時の基本原則がP-MARGEというものです。ピーマージと発音します。P(Practical 実用的)
大人は実用的じゃないと学びません。「学んで楽になる介護」は利用者さんの体重移動を適切に支援することで、その方の自立と介護職の腰痛負担を減らすものだそうです。「利用者さんが楽になりますし、私たちも腰痛から解放されます」と、職員と利用者にとってのメリットや実用性をしっかり打ち出しましょう。M(Motivation 動機)
大人の学びは自発的にやってこそ深まります。「Aさんの介助方法の課題を洗い出したいので、介護職のみなさんの状況を教えてください。介護リーダーいかがでしょか」と提案してみましょう。介護職の専門性が尊重される発言は素直に嬉しいものです。自然と意見が出てきて、活発な時間になること間違いなしです。R(Relevancy 関連性)
大人は仕事と関連があると学びます。支援が難しいAさんに焦点をあてることで、この点はクリアできます。G(Goal-oriented 目的指向性)
大人の学びは問題解決型です。リアルな目的とゴールがあることが大事です。「Aさんの介助方法の課題を洗い出したら、学んで楽になる介護に当てはめて、トライアルしてみてはどうでしょうか」と、その先のステップとゴールを具体的に伝えましょう。E(Experience 経験)
大人は自分の経験から学びます。Aさんの介助方法の課題を洗い出すなかで、自分達のやり方を振り返り、田中さんが学んできた研修の知識と突合します。
「なるほど、Aさんが足の裏に体重を乗せるようにすればいいのか~」としっかりと腹落ちする教訓を得て、次のステップに進めます。筆者はここまでのことを田中さんに伝えたところ、「来週のミーティングでもう一度、トライしてみます。介護リーダーは介護技術に熱心。でも、私、そのことを忘れていました。リーダーを飛び越えて発信したら不愉快ですよね。ちゃんと謝って、一緒に考えたいと伝えます」、との返事がありました。
大人の学びは子供の学びと違う! P-MARGEを活用しよう!
それから一か月、嬉しい報告が田中さんからありました。
介護リーダーから皆に話してもらい、Aさんに焦点を当てて取り組んだらうまくいきました!
利用者のAさんは一人で立ちあがることができず、体も大きいんです。それもあって、職員はついつい周囲にヘルプを求めて、二人で抱える介助をしていました。
研修で教わったポイント、「本人がおしりの体重を足の裏に乗せることができるか」をみんなでアセスメントしました。そこは大丈夫でした。じゃあ、やってみようとなり、デイ終了後に正規の介護職達で具体的に検討を重ねました。
ある職員にAさんの役を演じてもらい、車いすと椅子を設定して、順々に練習しました。みんな手応えを感じました。
翌週、実際のAさんで行うときには、介護リーダーが率先して見本をみせてくれました。模擬とは少し場面設定が違ったのですが、応用編という感じでうまくできました。みんなも順次できるようになりました。その後、他の利用者にも試すようになり、「移乗や移動の動作は生活のなかのリハビリ」という考えも浸透したそうです。目先の手間を惜しまず、本人の自立支援を優先した結果、職員たちも楽になるという好循環が生まれつつあります、と笑顔で報告してくれました。
具体的な手順だけでなく、根拠や考え方もつたえましょう
一方、田中さんによると、パートの介護職がマスターするのは大変だったとのこと。事情を聞いてみました。
研修では、車いすといすは90度の直角と教わりました。そのことは模擬の時にも繰り返し伝えました。でも、実際の場面は角度が狭かったり、車いすといすで高さが大きく違うこともあります。パートさんは環境が整っていないからできない、となってしまいました。工夫すればできるんだけど・・・と思いながら、うまく言葉がみつからなくて、モヤモヤしていたんです。
そんな時、介護リーダーが「Aさんの実際の場面、直角じゃなかったよね?その時の私の解説、覚えてる?」と投げかけてくれたんです。
で、みんなでハッとなりました。
「私たちがしっかり支持基底面をつくったうえで、Aさんのおしりにかかるすべての体重を前かがみになりながら、足の裏にどんどん移していく。そこがポイント。環境設定が標準とは違っても、ここを押さえておけば大丈夫」、リーダーはそう説明してました。根拠や考え方って大事なんですね。
そこをみんなで伝えるようになったら、パートさんもマスターできるようになりました。田中さんやその同僚達の確かな成長を感じた瞬間でした。
この記事は私が書きました
井上由起子(いのうえ ゆきこ)
日本社会事業大学専門職大学院教授
質問をしたのは私です
盛林 明子(もりばやし あきこ)
社会福祉法人横浜市福祉サービス協会
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著者:井上由起子、鶴岡浩樹、宮島渡、村田麻起子
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