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養成施設の教員からのメッセージ

第4回 覚える勉強から理解する学びへ~道を照らす光としての本や映画~

日本福祉大学 保正友子

 国家試験の受験を終えた皆さんは、今、どのような状況でしょうか。長い受験勉強を山登りに例えると、今は山頂にたどり着いた達成感や開放感、一方で、結果を待つときの不安や落ち着きのなさを抱く人も多いのではないでしょうか。私にも、「高く険しい山」に登った経験があります。その山は、自分にとって最高峰だとばかり思っていましたが、登り終えた後に感じたのは、「自分が知らなかった高い山がたくさんある」ことでした。そして気づいたのです。その山頂は一つの通過点に過ぎず、これからも長い道のりが続いていくことを。

 とはいえ、皆さんが一つの山頂に到達したことに違いはありません。まずは少し休んでください。エネルギーがまた満ちてきたら、進むべき方向性を定めて一歩を踏み出しましょう。今回はそれにむけた提案をしたいと思います。

 これまで皆さんには、受験勉強のなかで覚えなければならない知識がたくさんあったでしょう。人名や概念、制度、歴史上の出来事など、さまざまな専門用語が頭のなかに詰まっているのではないでしょうか。それはこれまでの努力の証であり、そして、これからの知識のプラットフォームになるものだといえます。これから就職までの少し時間がある「春休み」の時期に、その専門用語に意味をもたせる取り組みをしてはいかがでしょうか。例えば、メアリー・リッチモンドとはどのような人で、どのような思いで慈善組織協会活動を行ってきたのか、セツルメントで行われてきた具体的な活動内容は何か、文脈のなかで深く掘り下げて学ぶのです。おすすめしたいのは、福祉に関連する映画や本(小説や漫画もOK)を読むことです。これまでのような“覚える”勉強ではなく、“理解する”学びといえるでしょう。

 そこで、私が紹介したい映画は『ドリーム』(2016年公開)です。実話に基づくこの映画は、1962年に米国人として初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士の功績を影で支えた、NASAの黒人系女性スタッフであるキャサリン、ドロシー、メアリーの3人の物語を描いています。1961年、NASAのラングレー研究所に、ロケットの打ち上げに必要不可欠な計算を行う黒人女性グループがいました。なかでも天才的な数学の才能をもつキャサリンは、宇宙特別研究本部の計算係に抜擢されます。しかしそこは、白人男性ばかりのオフィスであり、コーヒーポットも別、「有色人種」の彼女が使えるトイレも設置されていない、キャサリンにとって決して心地よい環境ではありませんでした。一方、ドロシーとメアリーも黒人であるというだけで理不尽な境遇に立たされます。そのようななか、3人は自らの才能を頼りに差別を乗り越えて、宇宙飛行という偉業に携わることとなるのです。

 この映画を観たときに、「エンパワメント」や「公民権運動」「人種差別」「多様性尊重」「社会変革」など、それまで記号に過ぎなかったこれらの用語が、私のなかで生き生きと躍動しはじめました。それまでも、これらの用語は自分の知識の一部だったかもしれないけれど、どこか地に足がついてない表面的な知識という感じでした。それが、映画によって感性を揺さぶられるなかで実態を知った後は、例えば何らかの差別について考えるときにも「ああ、あのような状態か」と想像の源になり、応用がきく深い知識に変わった気がします。

 そのため最後の春休みに、受験勉強のなかで関心をもった事柄に関する本や映画にふれることをおすすめします。きっと、覚える勉強から理解する学びへと誘ってくれることでしょう。そして、それらをどのように選んでよいかわからないときには、周りの人を頼ってみましょう。友人や先輩・後輩、学校の教員や家族など、有効な情報をもっている人がきっと周りにいるはずです。

 福祉に関する本や映画との出会いは、皆さんのこれからの道のりを豊かに照らしてくれることでしょう。