第35回社会福祉士国家試験 問題の講評
特別編① 第35回社会福祉士国家試験 午前<共通科目>問題の講評
障害者に対する支援と障害者自立支援制度(7問)
本科目の問題は、昨年同様に、基礎的な内容を問うものが多く出題され、そういった意味では、標準レベルの難易度でした(やや易しかったかもしれません)。具体的に見ていくと、障害者福祉制度の発展過程(問題56)からはじまり、障害者総合支援法に関する給付内容や専門職、相談支援(事例問題)などが出題されています。こちらは、やや踏み込んだ内容です。また、精神保健福祉法の入院(問題62)や身体障害者福祉法(問題61)についても出題されています。
例年出題されている「障害者の実態調査(出典:生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」については出題されていませんが、障害者の生活実態を理解する上で重要なので一読しておいてください。この他、国家試験に関わらず、「虐待防止法」や「差別解消法」については、整理しておきましょう。
低所得者に対する支援と生活保護制度(7問)
本科目は、出題基準から万遍なく出題されており、例年通りの内容、例年通りの難易度でした。生活保護の実態を問う問題(問題63)から始まり、生活保護の原理原則(問題64)や生活保護の種類(扶助)とその内容(問題65)、生活保護の基準の算定方法(問題66)などの基本的な内容が出題されています。
この他、生活保護制度以外の制度についても出題されています。例えば、生活困窮者自立支援法(問題67)や生活福祉資金貸付制度(問題68)です。出題されなかった内容としては、被保護者の権利及び義務や、生活保護法に定める不服申し立てについてです。こちらは重要項目ですので整理、一読しておきましょう。
不服申し立ては、科目「権利擁護と成年後見制度」でも取り扱われる知識ですが、国民は行政の判断(行政処分)に不服がある場合は、(1)不服申し立て(行政不服審査法)と、(2)直ちに出訴(行政事件訴訟法)することができます。ちなみに、2014年に不服申し立ての手続きは「審査請求」に一元化され、「異議申し立て」は廃止となっています。それに伴い、不服申し立ては、処分庁以外の行政庁に3か月以内に行うこととなりました。また、(2)の直ちに出訴(行政事件訴訟法)ですが、全てのものではなく、(1)の不服申し立ての決済を得た後でなければ出訴できないものもあり、これを「不服申立て前置」といいます。生活保護の決定はこの「前置」の対象となります。これを前提に、生活保護の不服申し立てに話を戻すと、不服申し立て(審査請求)を行った後(決済後)でなければ、(2)の出訴をすることができません。審査請求は、都道府県知事に3か月以内に行うこと、再審査請求は厚生労働大臣に(都道府県知事の)裁決があったことを知った日の翌日から1か月以内に行うことになっています(第33回試験参照)。
保健医療サービス(7問)
本科目は、出題基準からやや偏りがありますが、基本的な内容が問われました。例年出題されている「国民医療費の概況」ついても出題されています(問題71)。国民医療費については、「現在の医療」を把握するために重要な指標・統計ですので、必ず整理しておいてください。このほか、例年出題されている「医療保険制度(問題70)」「診療報酬制度(問題72)」「後期高齢者医療制度(問題74)」などが出題されました。
また、事例問題では、「トランスディシプリナリモデル」を基にしたチーム医療(ケア)に関する連携事例が出題されました。出題されなかった内容としては、患者の権利や他職種の役割です。こちらは非常に重要な項目ですので、例えば、アドバンスディレクティブ(アドバンスケアプランニング含む)や医師・看護師の役割について整理しておきましょう。
権利擁護と成年後見制度(7問)
本科目は、(1)憲法・民法・行政法、(2)成年後見制度、(3)権利擁護といった構成で出題されました。まず、(1)憲法・民法・行政法では、問題77で憲法(基本的人権に関する最高裁判断)、問題83で民法(消費者被害)に関する事例問題が出題されています。また、成年後見制度については、2問の事例問題と、成年後見制度の「補助」に関する問題が出題されています。基本的な内容ですが、成年後見制度の内容を整理した上で、それを活用できる応用力が必要となります。
この他、出題が予測されていた日常生活自立支援事業について問われました(問題81)。最後に、昨年同様、権利擁護に関する問題は出題されませんでしたが、権利擁護=虐待や暴力・搾取については、ソーシャルワーク定義(グローバル定義)や社会福祉士の倫理綱領等でも、「人権」の理念を重視していますので、それを根拠とする各種の虐待防止法については、必ず整理しておきましょう。私のバランス感覚として、今年度の試験も、「人権」や「権利擁護」に関する問題がそれほど多くはない印象を受けています。ただ、近年、益々注目されている項目ですので、ソーシャルワーカーにとって必須の知識と言えます。