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現場のソーシャルワーカーからのメッセージ

第3回 医療機関で働く

医療法人社団輝生会本部人財育成局部長 取出涼子

医療機関で働く社会福祉士の仕事

 医療機関で働くソーシャルワーカーは「保健医療の場において、社会福祉の立場から、患者の抱える経済的、心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る」ことが役割です(医療ソーシャルワーカー業務指針 厚生労働省健康局長通知 平成14年)。近年、診療報酬に社会福祉士・精神保健福祉士が位置付けられてきたことから、ほとんどの医療機関では社会福祉士、精神保健福祉士の資格を応募要件にしています。
 医療ソーシャルワーカーは「地域医療連携室」「医療福祉相談室」「患者支援センター」といった、さまざまな名称の部署に所属しています。病気や障害を抱える患者さまやご家族からさまざまな相談を受けて、その解決のための支援を行っていくのですが、医療機関は、急性期病院、回復期を担う病院、慢性期を対象とする療養病床、診療所、などの機能に分かれていますので、所属病院の機能によって、担当する患者さまの病気の段階(病期)が異なり、担う仕事の比重が変わってくるなど、仕事の特徴が違うこともあります。
 入院・受診される患者さまはさまざまな悩みを抱えています。入院費や生活費などの経済的な不安、仕事や子育て、介護などの生活に生じる支障、転院や退院の準備や戸惑いなど、人によって抱えている事情はそれぞれですが、治療が中心の病院の中にあって社会福祉的な視点で患者さまの権利を守り、自己決定を支援する重要な役割です。最近は、誰にとっても住みやすい地域づくりのための連携業務を期待されることも増えています。

新人さんに期待すること

 新人さん期待したいことを3つ伝えさせていただきます。
 1つ目は、『基本的なコミュニケーション力とマナー』です。私たちは人(患者さま)との対話を通して仕事をする職種ですから、礼儀正しく挨拶ができる、身だしなみを整える、誰に対しても丁寧な言葉遣いで話すことは、最低限、必須能力です。とりわけ今は、マスクをしているうえに、ゴーグルなども装着する場合があり、患者さまはソーシャルワーカーの表情が読み取りづらく、コミュニケーションが難しくなっていますので、特に基本を大事にしてほしいです。
 2つ目は、『自分の価値観を一度脇に置く』ことです。若いうちは特に自分の価値観が前に出てしまい、患者さまやご家族にうまく共感できない人がいます。そうすると傾聴が苦手になってしまい、この仕事が向いてないと思ってしまいがちですが、価値観がはっきりあるということは、強みでもあります。価値観を脇に置くことが苦手な人は信頼できるスーパーバイザーを見つけて、指導を受けるとよいでしょう。この時期を乗り越えるときっと良いソーシャルワーカーになれると思います。
 最後に、『新人のうちは役に立たないことを覚悟して、観察力を磨く』ことです。仕事に慣れないうちは、自分がそこで役に立っているのかどうかばかりが気になってしまいがちです。正直なところ、対応に不慣れなうちは患者さまを怒らせてしまうなど、マイナスなこともあるかと思います。これはどの職業も一緒だと思うので、一定の覚悟をしていただきたいと思います。
「悩むくらいなら、観察しなさい」
 私が新人の頃、言われた言葉です。目の前の患者さまの表情、どんな話をしているのか、服装やしぐさ、相手が怒ってしまったのであれば、なぜ怒ったのか、その前後の話の流れは? 自分自身の言葉や態度は? など、注意深く観察してみてください。「観察をする」ことがあなたの力量を高めてくれますので、職場で役に立ちたいと思うのであれば、ぜひ、1秒でも多く観察に費やしてほしいと思います。

今、読んでおくとよい書籍

 「就職前に何か準備しておくことは」と聞かれるとき、私は、学生のうちにできること、例えば、今は難しいですが海外旅行等に時間を費やしたり、教養を深めてほしい、と答えています。が、あえて読んでおくと役に立つ本を挙げるのであれば、『医療ソーシャルワーカーのストレスマネジメント―やりがいをもって仕事をするために』(中央法規、2020年)です。本書の第1章を読むと、病院で働くということがどういうことか、心の準備ができます。
 それから、患者さまの本音が詰まった闘病記もお勧めです。私が読んだ本ですが、『日々コウジ中―高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック』(主婦の友社、2010年)や『ツレがウツになりまして』(幻冬舎、2015年)『乳癌日記 胸の小さな痛みから始まった乳癌闘病記』(廣済堂出版、2020年)などは、通常の面談では聞けない、患者さまとご家族の生活の中での悩みなど、奥深い話が詰まっています。私たちはついつい患者さまはソーシャルワーカーにすべてを話してくれていると思いがちですが、まったくそんなことはないことに気づかせてくれます。

 思ってもいなかった病気やケガで人生の岐路に立たされながら、現状を受けとめ、生活を再開していく患者さまやご家族から教えられることは多く、また、一職種では決してできないことを一緒に取り組んでくれる多職種と出会える職業です。ぜひ保健医療の場のソーシャルワークの魅力を知るためにも、興味を持っていただきたいと思います。

医療ソーシャルワーカーのストレスマネジメント―やりがいをもって仕事をするために践