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精神保健福祉士として働く

精神保健福祉士の職場は多様です。業務の内容も多岐にわたります。
ここでは、さまざまな現場で活躍する精神保健福祉士の「職場と仕事の内容」をご紹介します。
「精神保健福祉士」という仕事の特性とその奥深さ、可能性を感じ取ってみてください。


第2回 精神科病院

佐賀良太さん Saga Ryota
医療法人五風会さっぽろ香雪病院 地域連携支援室

小学校から高校卒業まで転校が6回、父親の転勤から幾つもの町に移り住み、そのたびに新しい人間関係を一からつくるということを経験した。新しい関係づくりは年齢が上がるほど緊張や気疲れを伴うようになり、やがて人との距離や周りに与える自らの雰囲気を大事に考えるようになった。この感じ方を働くことに活かせないかと思い、その一つが「精神保健福祉士」だった。資格取得後、精神障害者生活訓練施設(現自立訓練施設)に入職し、精神障害者の社会復帰・社会参加支援に8年携わる。その後、医療法人五風会に転職し、リワークデイケア勤務を経て現職。

私の職場

 さっぽろ香雪病院は、450の病床を持つ精神科単科の病院です。精神科救急病棟(スーパー救急病棟)を有し、夜間・休日を問わず緊急での受診や入院を受け入れていることが大きな特徴です。また、認知症、思春期、心療内科等の各種専門外来や医療観察法の指定通院医療機関として、対象者の通院治療や鑑定入院等も受け入れており、多様化する精神疾患や精神障害に対応した医療体制が整えられています。
 私が所属する地域連携支援室には、12名の精神保健福祉士、1名の事務員が配置され、多岐にわたる相談に応じています。

仕事の内容

 地域連携支援室は、すべての新規受診、入院の相談窓口になります。電話相談や来院相談のみならずメール相談にも応じています。窓口を訪れる方は、初めて精神科に相談することへの不安やこれまでのつらい症状、それに伴う生活上の悩み、苦労を口にされます。
 これらの声を傾聴しつつ、緊急の受診や入院が必要な状態か、医療や福祉と適切につながっていくために関係機関の支援が必要かどうかなどを丁寧にアセスメントしていきます。速やかな受診や入院の調整が必要と判断したときは、医師への打診や病棟との協議をふまえたベッド調整などに進んでいきます。
 私たちが担っているこれらの業務のなかで、中核的な位置にあるのが「退院支援」です。当院の精神保健福祉士は、1人当たり40~60名程度の入院患者さんを担当し、退院支援や入院中の療養にかかわる環境調整を他職種や他機関と協働して行っています。退院先や支援者の確保、経済面の整理、福祉サービスを含めた社会資源の調整などは、治療の開始と同時に動き出します。また、1年以上入院している長期入院者の退院支援にも力を入れ、長期入院が原因で「退院したい」という意欲が低下してしまっている方々を対象としたグループワークも行っています。事情があって強制的な入院を強いられている方もいますが、必ず本人の希望や思いに寄り添い、退院後の生活のイメージを一緒に形作っていくことを意識してかかわっています。
 また、当院では精神保健福祉士を目指す道内の実習生を年間10名ほど受け入れており、後進の育成も重要な業務に位置づけています。
 院外の活動としては、札幌市の(自立支援)協議会や地域の連絡会への参画、自己研鑽のための院内外の研修参加などに取り組んでいます。また、私は精神保健福祉士の職能団体である「日本精神保健福祉士協会」に加入しており、地元の「北海道精神保健福祉士協会」では理事を務めています。このように、さまざまな形で幅広く精神保健医療福祉活動に積極的に携わるようにしています。

業務と思いを分かち合う精神保健福祉士12名。
自分が頑張れる源泉がここにあります。

「ある日」の勤務から

 勤務の一日をご紹介します。情報共有と協議のための院内会議・ミーティングがこまめに設定されていることに気づかれると思います。部署内外の連携が支援の質を左右する病院における業務体制の一つの特質です。

8:30 出勤

前日からの入退院状況など当直帯の動向確認を行う。精神保健福祉士がベッドコントロールの中心的役割を担っており重要な作業。そして報告資料を作成。

8:50 連絡会議

毎朝定刻に行われる連絡会議に出席。院内全体で前日の法人の動きを共有する。

9:00 朝の支援室ミーティング

地域連携支援室で、その日の予定や伝達事項を職員(精神保健福祉士)同士で確認、共有する。

9:15 クライエント対応

電話相談、外来・入院患者対応などこの日の相談業務が始動。書類をため込まないため、併行できる書類作成は進めておく。

10:15 地域連携会議

この会議では、患者の入退院の調整について協議することが多い。病院長、副院長、医師、看護師、精神保健福祉士、医事課のスタッフが参加。この日は患者の受け入れや関連事業所との連携がテーマになった。

11:00 クライエント対応

病棟でクライエントと面談を行う。その後、看護師と面談内容を共有する。その流れで病棟のカンファレンスに移動し参加。

12:30 昼休憩

休憩中は同僚とリラックスした時間を過ごすようにしている。新規の相談にも柔軟に応じていく。

13:20 昼の支援室ミーティング

午前中にあった電話相談や外来・入院患者への対応など、支援室で共有すべき内容の伝達と午後の予定の確認を行う。

13:30 クライエント対応

電話相談と外来・入院患者への対応。この日は退院前訪問指導として、ある患者さんと自宅へ外出。その後、病院に戻り面接記録を作成。

16:45 夕方の支援室ミーティング

本日対応した個々のケースについて現状を共有し、他部署への必要な連絡事項があれば整理する。最後に明日の予定を確認。

17:10 退勤

当直者に業務の引き継ぎを行い業務終了。おつかれさまでした。

「働きがい」について

 精神科病院で働いていて感じるのは、「病院」という機関がもつ独特の「権威性」です。その病院が良質の医療や支援を提供しているか否かではなく、白衣に代表される医療機関の特性がそのまま権威の象徴になっているということです。その権威性は、クライエント(患者さん)との対等な関係を築きにくくさせます。医療機関の側も、いつしか感覚が麻痺して気づかないうちに権威を振るっていることが起こるかもしれません。だからこそ、病院で働く職員は常にクライエントとの「対等性」を意識し、誰のために支援を行っているのかという自己点検が必要になると感じています。
 そのような特性をおのずと持った環境だからということもあります。不安や疑念、不満、怒り、迷い、悲しみ、苦しみなどの思いを抱いた患者さんが少しずつ心を開き、少しずつ信頼関係ができて、やがて本心や希望を語る、お互いに語り合えるようになった瞬間はうれしいです。この仕事に就いて、いちばんやりがいを感じる瞬間です。

「精神保健福祉士」の醍醐味

 精神障害者はさまざまな偏見や差別、権利侵害を受けやすい立場にあります。精神保健福祉士は、そのような人々の権利擁護や社会的復権のために実践を続ける専門職です。私たちの仕事に知識だけで通用するものはありません。一つひとつの経験を次へ活かしながら、時には自分自身のキャラクターも使いながら、日々の研鑽によってのみ磨かれていく職人のような存在、それが「精神保健福祉士」だと思っています。
 これから精神保健福祉士として働く皆さんが大きな希望と可能性を持って活躍されることを心から願っています。そして、離れてはいても同じ「現場」でともに切磋琢磨できることを心から楽しみにしています。

力を尽くしたニセコマラソンのゴールイン。
仕事にもこの感動を!