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第37回介護福祉士国家試験 問題の講評

第37回介護福祉士国家試験を振り返って
[前半:午前科目]

石岡周平

町田福祉保育専門学校 副校長
石岡周平(いしおか・しゅうへい)

 町田福祉保育専門学校の石岡です。第37回介護福祉士国家試験を受験されたみなさん、本当にお疲れさまでした。日々学習を重ねられて、そのご苦労は大変なものだったと思いますし、試験を終えた当日は、緊張から精神的にも身体的にも疲労を感じたのではないでしょうか。
 結果発表の3月24日(予定)を迎えるまで気が気ではない心境だと思います。「けあサポ」の解答速報で自己採点をしつつ、今回の試験を一緒に振り返ってみましょう。

 午前は、制度系や医療系など知識を問う出題の多い科目が集まっています。いかに午前の8科目で得点を稼げるかが合格のためのポイントになるでしょう。午後は、生活支援技術やコミュニケーションなど、普段の実務につながる分野の科目が多く、比較的得点が稼ぎやすいので、「勝負の午前中!」という科目編成ととらえています。
 全体の印象として、医療系科目の難易度が高めで、それ以外の科目は過去に出題された問題も多く、取り組みやすかったと感じています。午後の総合問題では、過去に見られなかったような出題形式に驚いた受験者もいたかもしれません。さらに近年、総合問題の事例とは別に、各科目に「短文事例問題」が多く出題されていて(午前:14問、午後:11問)、得点するためには事例の読解力も大きなポイントとなっています。

 今回と次回の2回にわたって、第37回の試験を振り返ります。今回受験した方、これから受験する方、各々の立場で参考にしてください。今回は、「午前」の問題です。
 なお、解答案については、こちらをご覧ください。

人間の尊厳と自立[2問]

 実務経験ルートの受験者は、科目名の「人間」の文字を見るとビックリするのではないでしょうか。介護とは「人間が人間を」相手にするものです。そのため、まず「人間」というものを理解しようというのが、この科目の目的です。人権や権利擁護、尊厳、自立支援、利用者主体の考え方などについて学びます。例年この科目からの出題は2問で、今回は「アドボカシー」と「自立支援」を考える短文事例問題でした。近年、アドボカシーやストレングス、エンパワメントなど、介護や福祉にかかわるこのような用語に関する出題が多いので学習が必要です。介護現場では利用者の重度化が現実になっていると思いますが、そのなかでもいかに「自立支援」を意識できるかは重要な視点です。学習を現場でいかしていきましょう。

人間関係とコミュニケーション[4問]

 この科目はタイトルにあるとおり、「人間関係」を中心としたコミュニケーションを学びます。「自分を知り、相手を知る」―介護にとって必要な「人間と人間の関係」を基本とした方向性からのコミュニケーションを学びます。加えて、2年前から「リーダーシップ」「スーパービジョン」など介護チームを“組織”ととらえて組織や個人の成長、マネジメントにつながる部分の学びが組み込まれました。以前の出題は2問だったのが、第35回から4問に増えました。
 傾向としては、前半はコミュニケーションにかかわる分野、後半はチームマネジメントからの出題となっています。やはり今回も前半2問は「人間関係の基本」を問う出題で、後半2問は「キャリアパス」と「フォロワーシップ」に関する出題でした。次回(第38回)受験する方は、特に後半2問は今回を合わせて過去問が3回分しかありませんので過去問を押さえつつ、出題がまだない「集団討議」「スーパービジョン」あたりを学習してみてはいかがでしょうか。

社会の理解[12問]

 介護福祉の基本(介護保険法、障害者総合支援法など)であり、土台となる社会保障制度(社会保険、公的扶助、公衆衛生、医療制度など)について出題されます。全科目のなかでも多くの受験生が苦手と感じ、学習を避けたくなる科目かもしれません。ですが、12問と問題数が多いことから、この科目を攻略することが合否を左右するといっても過言ではありません。ほとんどの問題で、法律や制度、理念などの「知識の有無」が問われます。
 問題文の流れや勘では解くことができず、コツコツと学習の積み重ねが必要です。しかし、今回の傾向は、過去に出題されたことがある法律・分野から基礎的な問題が多く、コツコツと学習を重ねていれば正解できたのではないでしょうか。
 「障害者雇用の法定雇用率」はしっかりと準備をしていないと難しかったと思います。「社会福祉法人」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「生活保護」「地域包括支援センター」「第一号通所事業(通所型サービス)」などの問題は、見た瞬間は難しそうに見えますが、正答は基本中の基本レベルに設定されています。前回(第36回)も今回(第37回)も同じような出題傾向であるのが特徴で、近年この科目は難易度が以前より下がっている印象です。

こころとからだのしくみ[12問]

 この科目は、人間の身体構造や疾患、障害などの種類や特徴を学習するため、介護を学んでいくうえでは欠かせない科目です。午前中は、この科目以降を総称すると「医療系」科目といえる分野で、これらも同様に「知識の有無」が問われます。
 1問目は例年「こころのしくみ」から、2問目が「からだのしくみ」から出題される傾向でしたが、今回は前半3問目と後半(問題29)でも「からだのしくみ」から出題されたことが大きな特徴でした。続けて、移動、身じたく、食事、入浴、排泄、睡眠、終末期に関して、例年順番に出題されていますが、今回は移動と排泄に関する出題がありませんでした。生活支援技術と分野は重なるのですが、内容は「技術(方法)」ではなく、関連する医療的な知識が問われます。なかでも「睡眠」や「終末期」に関しては必ず出題され、多くは似通っているため、絞って学習することができそうです。今回の特徴は、「からだのしくみ」が多かったことだけでなく、介護現場での経験から解ける問題がほとんどなかったことです。それぞれの分野を深く学習しなければ得点できないため、難易度が高いという印象です。過去問の類似が少なかったことも難しく感じる要因かもしれません。
 問題28の短文事例を読んで「周期性四肢運動障害」を「レストレスレッグス症候群」と早とちりしませんでしたか? 後者は国試や模試などで出題される傾向が高いですが、「むずむず脚症候群」といわれる症状や下肢を動かしたい強い衝動などの記述はなかったですね。このように落ち着いて、しっかりと事例を読み解くことが大切です。

発達と老化の理解[8問]

 介護福祉の仕事を大きく分けると、高齢者系と障害者系に分けることができます。障害者系には児童の分野も含まれますので、前半はその「発達」、後半が高齢者の「老化」について学ぶ科目となります。国試の傾向では、「乳幼児期の発達段階の理論」から、児童期に特徴がある障害などが出題されています。老化では、老年期の心身の特徴から、高齢者に多い疾患などが多く出題されます。
 今回は、第35回に「こころとからだのしくみ」で出題された「ライチャード老齢期の性格5分類」や「サクセスフル・エイジング」(第36回では「エイジズム」)など、過去問と類似した問題があったことも特徴です。「神経性無食欲症」は、一般的には「拒食症」が耳になじんでいる名称かもしれません。専門職としての国家試験になりますので、専門的な用語や病名などが使われるということにも注意が必要です。この科目の第37回の難易度としては、「こころとからだのしくみ」ほど高くはなく、例年並みといった印象でした。

認知症の理解[10問]

 この科目は、高齢者介護を学ぶうえで必須となる「認知症」に関する科目です。要介護・要支援者における認知症者の数は、年々増え続けています。高齢者系の事業所で業務を経験して受験された皆さんにとっては身近な科目といえるのではないでしょうか。
 学習内容としては、認知症に関する基礎(原因疾患や周辺症状、BPSDなど)や認知症ケアの方法、家族への支援などが中心で、ここから出題が多くあります。覚える内容は難しいですが、高齢化社会を生きる我々にとって、資格としての学習や業務にいかすといった視点以外の日常生活でも役立つ分野ともいえます。
 今回の傾向としては「認知症施策推進大綱」「認知症(dementia)の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(2018年)」などの認知症に関する行政の方針と施策や「認知症疾患医療センター」「認知症初期集中支援チーム」と、地域におけるサポート体制に関する出題がありました。他にも「認知症の原因疾患」(アルツハイマー型認知症)「認知機能評価尺度」「回想法」など過去に出題された問題と類似するものも多かった印象です。行政の施策やサポート体制などの出題が多くあり制度系科目のような知識を問われるため、難しく感じた人もいたのではないでしょうか。一方で、前述の過去の類似するような基礎的な出題もあったため、この科目を通してみると難易度は例年並みといったところだと思います。

障害の理解[10問]

 この科目は障害者介護を学ぶうえで必須となる科目です。「社会の理解」での出題もありますが、障害者総合支援法などの障害者福祉や介護の実践にかかわる法律や制度から、他にも障害の種類、難病、疾患などの基礎と、障害を抱えた人の心理や家族の支援までと学習の範囲は多岐にわたります。
 第37回は「ICF」「遂行機能障害」「視覚障害者の特徴と生活支援」「聴覚障害者の特徴と生活支援」「注意欠陥多動性障害」「障害者差別解消法」などが出題され、例年の傾向と変化はないように思われます。そのなかで印象に残ったのは「白杖」に関する問題です。制度上での正式な名称は「盲人安全つえ」といいます。視覚障害者が歩行時に障害物を避けたり、周囲の様子を探ったりするために白杖を使いますが、見ただけでは視覚に障害があるとわからないこともあるため、白い杖によって「周りの人に教える役目」があります。白杖には白色と黄色の2色が規定されています。
 一部では知識を問われる難易度の高い問題がありますが、正答は基本中の基本レベルに設定されており、基礎を押さえていれば得点できる問題が多い印象です。今回の医療系科目のなかでは難易度は低めだったと感じています。

医療的ケア[5問]

 科目名からイメージとして「難しそう……」と学習を敬遠しがちな科目かもしれません。全科目のなかでも最小の「5問」(※)となっていますが、イメージの割には困ってしまうような問題は少ない印象です。それと同時に介護福祉士資格の取得において、この科目の規定が後押ししてくれていると思っています。それは、実務経験ルートでは実務者研修において「医療的ケア」を対面で学び、養成校ルートに関しても各養成校で医療的ケア科目があるためです。両ルートとも演習では内容を丸ごと暗記しなければ合格できないため、多少の時間が経ってしまっていても試験中に問題を見れば思い出す人も多いのではないでしょうか。
 科目としては、医療的ケアの法的背景や清潔保持、感染予防、健康状態の把握からはじまり、喀痰吸引や経管栄養の実施手順が出題されます。この実施手順が前述したとおり、緊張しながらも手技の手順をくり返し対面で練習してきたことが、試験中に発揮されます。
 第37回の特徴は、1問目の「救急蘇生法」が久しぶりに出題されました。「喀痰吸引」から2問、「経管栄養」から2問と、こちらは例年どおりの出題傾向でした。過去の回では、「準備」「実施手順」「片付け」からの出題が多かったのですが、今回は「痰を喀出するしくみ」「消化器症状の説明」と、「からだのしくみ」科目のような出題が多かったことが印象的です。演習の丸ごと暗記があれば、難易度は例年並みといったところかと思います。

  • ◎「人間の尊厳と自立」(2問)+「介護の基本」(10問)で、1科目群
    「人間関係とコミュニケーション」(4問)+「コミュニケーション技術」(6問)で、1科目群

※ 各1科目群で1点以上の得点がないと総合得点が合格点に達していても不合格となる。