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石橋先生の受験対策講座

石橋 亮一(いしばし りょういち)

忙しい日々の中で効率よく勉強するにはどうしたら?とお悩みのあなたに、ぴったりのガイド役となるのがこのコーナーです。介護の現場にも詳しい石橋亮一先生が受験勉強のポイントを講義します。

プロフィール石橋 亮一(いしばし りょういち)

介護福祉士/社会福祉士/介護支援専門員
社会福祉法人同胞互助会にて特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、株式会社ベネッセコーポレーションにてホームヘルプサービス、居宅介護支援事業等に従事。その後、地域や学校、介護サービス事業者・施設の研修講師・アドバイザー、介護認定審査会委員、東京都第三者評価員、介護サービス情報の公表制度調査員、特別養護老人ホームの施設長等に携わる。介護福祉士や社会福祉士、介護支援専門員などの受験対策講座も数多く行っている。『福祉現場のための感染症対策入門』(中央法規出版)も執筆。

第32回 介護の基本(5)~リスクマネジメント~

 今回は、「介護の基本」の最終回です。「介護の基本」では、リスクマネジメント(危機管理)にかかわる事柄が出題されます。リスクマネジメントは、事故発生を未然に防止することや、発生した事故を速やかに処理することにより、利用者の生命や生活、安全を守るとともに、組織(サービス提供事業者・施設)の損害を最小限に食い止めることを、目的としています。
 現場での取り組みを振り返りながら、次の事項を学ぶとともに、手元にあるテキストや過去問解説集でも習得していきましょう。第29回では、パーキンソン病の利用者のリスクマネジメントに関する事例問題が出題されました。


介護におけるリスクマネジメント

  • ハインリッヒの法則によると、1件の重大事故の背景には、29件の軽傷を伴う事故と、300件のヒヤリ・ハットした体験がある。事故防止(予防)のためには、職員間で「ヒヤリ・ハット」事例を共有するとともに、ヒヤリ・ハットした件数を減らすことが大切である。また、ヒヤリ・ハット事例の収集・分析が、事故を防ぐことにつながる。なお、ヒヤリ・ハット報告書と事故報告書とは、分けて記載する(第28回、33回に出題。第26回、29回では「コミュニケーション技術」で出題)。
  • ○介護保険法では、事故が発生したとき、速やかに市町村や家族に報告するとともに、事故の状況や事故に際してとった対応の記録が義務づけられている。また、賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならないとしている(第26回に出題)。
  • ○感染症対策として、「感染源の排除、感染経路の遮断、宿主(人間)の抵抗力の向上」からなる3原則が掲げられている。
  • ○感染症とは、人の体内に細菌やウイルスなどの微生物が侵入し、抵抗力を超えて、発熱、食欲不振などの全身の症状や、感染した内臓の症状が出た状態をいう。
  • インフルエンザは、インフルエンザウイルスの飛沫感染による感染症で、突然の高熱、節々の痛み(関節痛)、筋肉痛を伴うことが多い。年ごとに流行の型があり、流行を防止するために、予防接種を行う。
  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症は、多種類の抗生物質に抵抗力を示し、投薬による効果が得られない菌による感染症で、院内(施設内)感染の原因菌となっている。傷や尿、痰などに含まれており、接触感染することが多い。高齢者介護施設で、MRSAの保菌者が確認されたときの対応として、接触感染予防策を実施する(第32回に出題)。
  • ○感染性胃腸炎を起こすノロウイルスも、集団感染を引き起こすことが多く、夏より冬に多い。感染経路は主に経口感染で、感染者の嘔吐物・便の処理には、手袋、マスクを着用し、消毒には、塩素系消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムが有効である。ノロウイルスに感染した人のおう吐物のついた衣服の処理は、おう吐物を取り除いた後、次亜塩素酸ナトリウム溶液につける(第25回、26回に出題。第32回では「生活支援技術」で出題)。
  • ○感染症の予防には、うがい、流水と石けんによる手洗い、手袋やマスク、エプロンの着用などが基本となる。石けんは、固形よりも液体のほうが望ましい。効果を上げるために、消毒薬は指示された濃度を保つようにする。施設などでは、トイレなどのドアノブは消毒液を含ませた布で消毒を行い、利用者の健康状態を毎日観察するなど、細やかな配慮が求められる(第24回、28回に出題。第33回では「医療的ケア」で出題)。
  • ○上記の手指衛生や咳エチケットなどは、標準予防策(スタンダードプリコーション)に位置づけられる。標準予防策は、「あらゆる人の血液、すべての体液、唾液などの分泌物、排泄物、創傷のある皮膚、粘膜には感染性があると考えて取り扱う」という方針を基盤としている(第31回に「医療的ケア」で出題)。

 感染した利用者の入浴は順番を最後にするといった、疥癬とその対策に関して、第27回で出題されました。また、利用者の安全を確保するために留意すべきこととして、利用者のけがや事故の原因の1つに、生活を制限されることから生じるストレスがあると、第26回で出題されました。
 第31回では、施設の介護における安全の確保に関して、職員に対して安全に関する研修を定期的に行うことが適切、と出題されました。また、介護老人福祉施設の感染対策に関して、おむつ交換は、使い捨て手袋を着用して行うことが基本である、と出題されました。第32回では、「平成30年版高齢社会白書」(内閣府)で示された65歳以上の者の家庭内事故の発生割合が最も高い場所(屋内)は居室である、と出題されました。
 介護の現場で起こり得るリスクは、利用者のみではなく、介護福祉職にもふりかかります。職員の安全という点から、次の事項も押さえましょう。


  • ○介護福祉職が健康を保ち勤務するためには、腰痛予防が重要となる。具体的な対策として、ボディメカニクスの活用や、中腰の姿勢を長時間とらないこと、必要に応じたベルトの着用、業務前の体操、福祉用具の活用などがある。
  • ○介護者が効率的かつ安全に介護を行うためのボディメカニクスの原則として、重心を低くする、下肢などの大きな筋群を使う、支持基底面を広くすることなどがある(第34回に「こころとからだのしくみ」で出題)。
  • ○腰痛予防の体操では、腹筋(屈筋)、背筋(伸筋)ともに強化するようにする。ただし、腰痛があるときには行わない。また、筋肉を伸ばした状態で静止する、静的ストレッチングが、安全で効果的である(第26回、29回に出題)。
  • ○精神的な疲労が増すと、利用者の状況を受けとめる余裕を失いがちになる。介護福祉職は、自分の感情に焦点をあてて自己理解に努め、適切に自己の感情を表現する機会をもつなど、自分に合った適切な対処法をもち、ストレスを発散する工夫をすることが必要である。あわせて、職場での心の健康づくりの体制など、環境の整備も大切となる(第28回に出題)。
  • 労働基準法は、労働条件の最低の基準を示す法律で、1日の労働時間は8時間を超えて労働させてはならないことなどを定めている。また、労働安全衛生法は、労働災害の防止に関する措置への労働者の協力などについて定めており、事業者に対しては、50人以上の職場における衛生委員会の設置やストレスチェックの実施など、職場の安全衛生体制づくりを義務づけている(第24回、28回に出題)。
  • ○育児・介護休業法では、通院の付き添いなど、要介護状態にある家族を1人介護する場合、1年度に5労働日を限度に、介護休暇を取得することができる(第25回、30回に出題)。

 上記のストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止が主な目的であることが、第30回で出題されました。第31回では、メンタルヘルス不調の一つである、燃え尽き症候群(バーンアウト)の特徴(無気力感、疲労感や無感動)について、出題されました。
 利用者の介護生活を支援し続けていくためには、まず、介護福祉職自身の心と体を健全に保つことが肝心ですね。


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