受験対策講座
保育士・筆記試験の合格率は20%前後で難関といえます。この狭き門を突破するためには、ポイントを押さえた効率のいい学習が不可欠です。このコーナーでは、近年の各科目の出題傾向や今後の対策について、その秘訣をガイドします。
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第37回 令和4年後期・保育士試験「教育原理」の内容や難易度は? 傾向と対策のポイント
藤井秀一(ふじい ひでかず)
近未来教育変革研究所・所長。元私立高校国語科教諭。国家資格キャリアコンサルタント。認定エグゼクティブ・コーチ。教員研修・PTA研修・学校改革支援などを手掛ける教育アドバイザー。国際ブリッジ学院・校長。
令和4年後期試験の「教育原理」について、内容を振り返ってみましょう。
問題解説を通して、「教育原理」の出題傾向と対策を整理します。
最後にはおすすめの学習法もご紹介します。
令和4年後期試験の問題解説
問1:学校教育法 第81条
第八章「特別支援教育」に含まれている条文の一つです。条文中の「幼稚園」、「困難」が穴埋めで問われました。 この条文の第2項では、特別支援学級の対象者にも触れていますので、押さえておきましょう。
一 知的障害者
二 肢体不自由者
三 身体虚弱者
四 弱視者
五 難聴者
六 その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの
問2:児童福祉法 第2条
第一章「総則」に含まれている条文の一つです。この法律は1947(昭和22)年、最初の特別国会で制定されたもので、戦災孤児等の社会的現実を踏まえ、すべての児童の権利保護を目的として立案されました。児童相談所や児童関連の福祉施設に関する設置・運営なども規定しています。
2004(平成16)年には、児童虐待に関連する重要な改正が施されました。本件については、下記資料をご参照ください。
厚生労働省『「児童福祉法の一部を改正する法律」の施行について』
問3:ルソー『エミール』
※著作権の関係で、問題文【著書の一部】は割愛します。ご了承ください。
ルソーは著書『エミール』で、自然の摂理を礼賛し、人の作為による教育への影響を懸念しています。人為が加わる前の生まれたばかりの人間を性善ととらえ、大人が無理に教化しなくても、子どもの中には自発的な学習力や成長力が宿っていると考えています。
問4:ティーチング・マシーンとプログラム学習
学習を「行動が変容すること」ととらえ、その効率的な実現を考察し、ティーチング・マシーンの開発を通してプログラム学習を提唱したのは、アメリカの心理学者スキナーです。
他の選択肢にはライン、ブルーナー、ピアジェ、ヴィゴツキーが並んでいました。いずれの人物も過去の保育士試験で出題されており、事績や著書名を確認しておくことをおすすめします。
問5:幼保連携型認定こども園教育・保育要領
「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」第1章「総則」第3「幼保連携型認定こども園として特に配慮すべき事項」の条文の正誤について問われました。
問題文A:設問条文の第2項目に記載されています。
問題文B 設問条文の第3項目の(2)に記載されています。
問題文C 設問条文の第3項目の(4)に記載されています。
いずれも幼保連携型認定こども園教育・保育要領の本文記載と相違点はありませんでした。
問6:幼稚園教育要領 第1章「総則」
「第3 教育課程の役割と編成等」の中の「1 教育課程の役割」から、「カリキュラム・マネジメント」が穴埋めで問われました。
文部科学省ではカリキュラム・マネジメントに関して、次の3点を重視しています。
2 幼児の姿や就学後の状況、家庭や地域の現状等に基づき、教育課程を改善し続けること
3 必要な人的・物的資源等を、家庭や地域の外部の資源も含めて効果的に組み合わせること
(文部科学省 幼児教育部会(第8回) 配付資料「資料1 幼児教育部会とりまとめ(案)」より)
問7:さまざまな教育実践のスタイル
世界で取り組まれているさまざまな教育実践のスタイルに関する設問でした。
問題文のAでは、森の幼稚園が問われました。
森の幼稚園は、1954年にデンマークの保護者集団によってその活動が定型化されたといわれています。1990年代からは大きな広がりを見せ、デンマークのほか、ドイツ等でもその数を増やしました。
問題文のBでは、ニュージーランドの教育カリキュラムであるテ・ファリキが問われました。
テ・ファリキとはマオリ(ニュージーランドの先住民族)語で「敷物」を意味します。1996年に始まったとされ、4つの原則であるエンパワメント・全体的な発達・家族と地域・関係づくり、また、5つの要素であるウェルビーイング・親密な所属感・貢献・コミュニケーション・探索を特徴としています。
問8:OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)
OECDが実施している国際的な学習到達度に関する調査「PISA」について問われました。
選択肢1~4は正しい内容ですが、選択肢5は誤った内容となっていました。選択肢5の文章自体に内容の矛盾があるため、「PISA」を知らなくても正答が可能な設問といえます。
設問内容に関する詳細は、以下の資料で確認してください。
国立教育政策研究所『OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント』
問9:教育基本法 第3条
教育基本法は日本国憲法の第26条における「教育を受ける権利、教育の義務」の精神に則り、教育の目的・方針・機会均等・義務教育など、我が国の教育の基盤となる基本方針を定めた法律です。
出題された第3条には「生涯学習の理念」という副題が付されています。生涯学習の基本的な考え方から、学齢や年齢にとらわれず、また、学びの場所を限定しないことが求められます。
条文の「その生涯」「あらゆる場所」が穴埋めで問われました。
問10:人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]
1948(昭和23)年に国連総会において採択された世界人権宣言以降、人権に関するさまざまな条約が採択されるなど、人権保障のための国際的努力が重ねられています。
日本でも、知的理解にとどめず人権感覚を広く啓発する必要があるとして、人権教育の指導方法等のあり方を中心に検討が進められてきました。出題された文部科学省「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」は、平成20年3月に公表されたものです。
設問においては正誤が問われ、選択肢2が誤りとなります。とりまとめの本文には、次の記載があります。
傾向と対策
子どもたちの人権・権利に重点
ここ数年の出題傾向を見てみると、子どもたちを取り巻く基本的人権や権利の保護を軸として、教育を受ける権利を天与のものと確認する設問が定着しつつあるように思います。
今後は、児童福祉法も「教育原理」の常連題材となりそうな印象があります。児童福祉法は本年6月に一部改正がされたばかりですので、しばらくの間は改正点に注意が必要かもしれません。
教育政策に関する設問は相変わらず健在で、中でも特別支援に関する出題は定番となっています。出題のあり方としては引き続き基本的知識を問うものが多く、落ち着いて読めば判断できる基礎的な内容の問題文で推移しています。
時事問題も要チェック
昨年まで数回は時事問題が多く見られたようですが、今回は本年前期と同じく控えめな印象です。教育政策は世相の変化や大きな事件・事故を踏まえて改善・改正されることもあります。幼児教育に関連しそうな社会的事案が見られたときには、注意して情報を確認しておきましょう。
重要事項別・近年の出題傾向
あらためて近年の出題傾向について、重要事項別に確認しておきましょう。
重要事項 | 出題傾向 |
---|---|
教育基本法と学校教育法 | 教育基本法と学校教育法はほぼ毎回出題されており、幼児関連のみならず、小学校に関する条文・記述も要注意であり、関連する条文を収集しておくことを強くお勧めします。幼小連携にも注意を払っておきましょう。 |
幼稚園教育要領 | 幼稚園教育要領では「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の5領域に関する記述と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の内容を把握しておきましょう。また、第1章「総則」は必ず出題されるものと考えておきましょう。 |
教育思想や理論 | 教育思想や理論では、人名と著作・理論との記憶が結びついていることが大切。個々の人物に関するキーワード(事績・著作・理論など)は確実に覚えてください。 ※例/フレーベル:恩物、キンダーガルテン、『人間の教育』 |
子どもの権利 | 子どもの権利に関連しては条約や宣言などの出題が今後も予想されます。特に「児童憲章」「児童権利宣言」「児童の権利に関する条約」などは本文に目を通しておくべきです。ユネスコ憲章も出題されており、子どもたちの根源的な人権・権利を理解しておく必要があります。 |
我が国の教育行政や教育制度 | 我が国の教育行政や教育制度について、中央教育審議会の答申が何度も作問に利用されています。文部科学省のウェブサイトで閲覧できますので、幼児関連・児童関連は目を通しておきましょう。 幼稚園教育要領・小学校学習指導要領との関連性を意識しながら読むと、理解の度合いが深まります。 |
教育を取り巻く諸問題と教育の機会均等 | 教育を取り巻く諸問題と教育の機会均等については特別支援教育に関する知識が不可欠です。「特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について(通知)」ほか、文部科学省の通知などをウェブサイトで確認しておきましょう。ほかにも、いじめ・体罰・生涯学習に関する出題も非常に多く、関連する資料の確認と法改正について確認しておきましょう。また、ESDやSDGsなど教育にかかわる全世界的な取り決めが重視されていますので、国際的な教育トレンドも押さえましょう。 |
おすすめの学習法
最後に、試験に向けたおすすめの学習法をご紹介します。
-
- ☆教材をやたらに買い込まず、学習の手を広げすぎないこと
- ☆1冊の教材を確実にこなしてから、次の教材に移ること
- ☆紛らわしい人名・著作・理論などは表を作って整理すると覚えやすい
- ☆頻出項目は紙に書き出し、机上や壁に掲示すると効果的
- ☆法改正は格好の試験材料となるので面倒がらずに確認を
- ☆一問一答問題集を繰り返し、知識の穴を埋めること
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