時空を越えた連携の実践
医療の場が病院から自宅にシフトし、病気や障害をもちながら自宅で暮らすことが当たり前になっている今日では、医療・保健・看護・福祉等の多職種の「連携」なしに利用者の地域生活を支援することは難しくなっています。
本書は、要介護高齢者や障害者などが自分らしさを失うことなく地域で暮らしていけるよう支援するための「連携の理論と実践例」を1冊にまとめた書籍です。2013年7月24日に逝去された野中猛先生(元日本福祉大学教授)の最後の著作となります。
本書には11本の論文が講義形式で収載されています。第1講から第5講では連携に必要な基本的知識をやさしく解説しています。第6講から第8講では「お友達集団」としての連携ではなく、「多職種チーム」として機能するための課題や効果を整理。第9講と第10講では連携を実現するための人材育成方法や阻害要因に焦点を当て、最終講の第11講では最近の論文をもとに「連携」に関する学術的な定義を整理しました。
さらに11講すべての講義に「実践事例」を併載しました。高齢者・障害者の個別支援事例だけでなく、地域での居場所づくりや組織変革の取り組みなど、「連携」を必要とするさまざまな場面に関する実践を収載しています。読者のみなさんの日々の仕事と重ね合わせながら読み進めていただけると思います。どの事例も各講義のテーマと響き合う内容になっています。
先に触れたように、本書は野中猛先生の遺著です。2012年の年末に末期のすい臓がんであることがわかった野中先生は、予定に入っていた研修をすべてキャンセルし、自宅で療養生活に入られました。その後も執筆活動は継続され、2013年5月に『ケア会議で学ぶ ケアマネジメントの本質』(上原久氏との共著、中央法規刊)を刊行されました。同書を担当していた私は、先生のご存命中に刊行することができ、心底ホッとしたのを覚えています。
その数週間後、先生から「こんな連載記事があるのだけど…」と送られてきたのが、本書の第1講から第10講までの原稿です(『リハビリナース』(メディカ出版)誌の連載記事)。先生の言外の想いをひしひしと感じた小社は、即座に単行本化を決めました。しかし、10本の連載記事だけでは1冊にまとめるにはボリュームが不足しています。
そこで、先生の講義形式の原稿に実践事例を併せて掲載してはどうかと一計を案じました。ちょうどその頃、先生が病気のためにキャンセルされた研修の講師をピンチヒッターとして担った方々11名が「野中塾」というグループを作る動きがありました。その方々に事例をご執筆いただいてはどうかとご提案したところ、先生はとても喜んでくださいました。野中塾のメンバーももちろん大賛成です。
野中先生は病状が進行するなかでも連載原稿に手を入れ続けました。私の手元に推敲を終えた最後の原稿が届いたのは、亡くなる3週間前のことでした。野中塾のメンバーも多忙ななか先生の魂のこもった原稿を読み込み、講義の内容に呼応する自らの実践を丁寧に紡いでくださいました。こうして、本書そのものが野中先生と野中塾のメンバーの「時空を越えた連携の実践」となったのです。
野中塾はその後「野中ケアマネジメント研究会」としてNPO法人化され、野中先生の夢であった「日本ケアマネジメント研修センター」の設立に向けた活動を開始しています。
(2013年4月28日、小社にて)
- ※2014年10月11日に小社にて「野中ケアマネジメント研究会 NPO法人設立記念講演会」が開かれます。ご興味のある方は野中ケアマネジメント研究会NPO法人設立準備会(株式会社フジケア内 FAX:093-562-1155)までお問い合わせください。
(中央法規出版 第1編集部 松下 寿)