職員・利用者双方に安全・安楽な方法
本書執筆中に、著者である市川さんは事故で腰椎を複雑骨折して、入院を余儀なくされました。
幸い3か月弱で退院することはできましたが、入院中、本書で提案している技術を修得すれば、患者も痛くなく、介助者にも負担がないことをあらためて自ら痛感したそうです。
入院中、患者であるにもかかわらず、市川さんが身をもって担当ナースに移乗介助法をレクチャーしていると、師長自ら教えを請いに来たというエピソードがあります。
毎年開かれている国際福祉機器展(HCR)で、退院直後の市川さんが早速、リフトとスライディングシート・トランスファーボードの実演をしていました。見ていると、俗に言う「黒山の人だかり」で、熱心にメモを取っている方を何名も見かけたことに驚きました。この技術への関心は非常に高いと思った次第です。
移乗というと、「ベッド→車いす」がまず頭に浮かぶと思いますが、実は「車いす→ベッド」に移乗した後のベッド上の移動も重要です。皆さんは「ベッドに移ったからおしまい」としてはいないでしょうか。
転落防止や背上げのためには、上下左右とも適切な位置で臥床しなければなりません。その際、持ち上げたり引きずったりしていませんか。福祉用具、特にスライディングシートを利用すれば容易に移動することができます。
本書でも触れられているように、一つひとつの「滑らせる技術」はそれほど難しいものではありません。しかし、要介護者と介助者の状況によって、適切な介助法を決めていくには詳細なアセスメントが欠かせません。
「支援者の中に、このような技術が普及して欲しいが故に、本書では可能な限り細かに技術の内容をお伝えしたいと思います。少し細やかになり過ぎる嫌いはあるかもしれませんが、福祉用具を安全に、効果的に使用するためには必要な知識と技術です」と、本書の「はじめに」で市川さんは説明しています。
「介護の仕事をしている以上、腰痛はやむを得ない職業病だ」などと思い込んでいませんか。耐えられない腰痛のため、離職せざるを得ない介護職の方々も多いと聞いています。
本書で、「腰痛を起こさない介助の技術」を獲得してみませんか。
それは、利用者にとっても、安心・安楽な方法であるはずです。
(中央法規出版 第1編集部 川瀬隆信)