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当事者目線の支援の在り方を考える


 本年4月から、生活困窮者自立支援制度が全国でスタートしました。この新しい支援の仕組みは、これまで制度の狭間に陥りがちであった人々を対象とする画期的な制度です。その一方で、支援の現場からは「法の対象が見えない」「生活保護の受給者以外に困窮者がどこにいるのか」など不安の声も聞かれてきました。

 確かに法律では、制度の対象となる「生活困窮者」について、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と、さらっと定めているだけです。「経済的に困窮」する状態とは、年収でいえばどの程度なのか。「おそれのある」というのは、確率でいえば何%程度なのか。いったい「生活困窮者」とは、誰なのか。

 このような疑問が生じるのも無理からぬところです。

 しかし、実はこの「曖昧さ」こそが、この制度の大事なポイントです。一般に、厳格なルールが設けられる法制度では、公正性・公平性が担保される一方で、基準を少しでも逸脱すれば排除されてしまうというデメリットがあります。生活困窮者は、いわば、この短所のために狭間に陥ってきた人々の総称です。ですから、こうした人々の支援に、従来のような厳格な法制度は適しません。

 あえて明確な規定を置かない。これが、「生活困窮者自立支援法」が真価を発揮するための必須条件だと言っても過言ではありません。またこれは、国が「現場の力」を信じたということでもあります。支援の最前線に立つ方々には、法の趣旨を踏まえ、当事者に寄り添った支援を行っていくことが求められているのではないでしょうか。

 今回紹介する『相談支援員必携 事例でみる生活困窮者』は、法律ではあえて厳格に線引きをしていない、多様で複合的な課題を有する「生活困窮者」の典型エピソードを掲載するとともに、困りごとの背景や、根底にある社会的課題を読み解いていくものです。自立相談支援機関で支援に携わる方はもちろん、障害者施設、高齢者施設、法テラス、ホームレス支援機関、社会福祉協議会など、地域をつなぐ様々な関係機関の方々が、当事者目線の支援の在り方を考えるうえでお役立ていただければ幸いです。

 既存制度の対面相談の窓口には現れにくく、それでいて非常に多数にのぼると想定される「生活困窮」に直面している方々にとって、「生活困窮者自立支援制度」という新しい枠組みが有意義なものとなることを望んでやみません。

(中央法規出版 第1編集部 亀谷秀保)

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