サ責が教える!訪問介護計画書の作り方
訪問介護計画書の作成は義務ですが、書式が統一されていなかったり参考にできる事例も少なく、作るのが大変ですよね。しかし、作成は義務。ないと利用者の訪問介護の質は下がってしまうし、行政の実地指導の際も困ってしまいます。
訪問介護計画書作成ならこの方!
そんな難問を解決すべく、今日は、逗子市にある「さくら貝サービス事業所」にお勤めのサービス提供責任者で介護福祉士の平山智也さんにお越しいただきました。
平山さんは、若いながらアセスメントに力を入れ、「生活支援の細分化」(後述)を考案し、学会発表も成し遂げているすごい人。2020年に「サービス提供責任者のための訪問介護作成ガイドブック」を執筆(共著)されました。
最近「世界一カワイイ」娘が生まれて現在は超ハッピー。平山さんに介護される利用者はその柔らかな笑顔を見るだけで幸せになるのだとかならないのだとか…。
適切な訪問介護計画の作成にはまず「作成の手順を知ること」
――多くのサービス提供責任者の方が訪問介護計画の作成に悩まれていると思います。「どこがわからないのかもわからない」という方も聞きます。どうすればいいでしょう?
確かに、訪問介護計画はケアマネジャーが作るケアプラン(居宅(施設)サービス計画)と違って標準様式もないですし、 「訪問介護計画専門の講義」なども少ないため、作成するのに困難さを感じている人は多いと思います。
つまり、訪問介護計画は計画の作成方法が難しいというより、作成の「手順」がわからないところに難しさがあると思っています。
そのため、今回はその「作成の手順」をお伝えしていきたいと思います。手順は端的に言って次の通りですが、一つずつ解説していきますね。
また、ケアプランから転記するだけでよい部分や、氏名や生年月日など、わかる部分は今回は飛ばします。サ責の皆さんが一番悩まれる援助目標や留意事項などを中心に解説させていただきます。
原因分析をする
まず、原因分析をします。「分析」だなんて身構えてしまいますが、難しくありません。ケアマネジャーに依頼された介助行為について、利用者がそれをなぜできなくなったのか、その原因を考えていくことです。
(例)依頼の例
『ケアマネジャーからの依頼『調理の介助をしてほしい』
「調理ができない」にもいろいろあります。認知症で調理行為の手順がわからないからなのか、それとも立ち上がっての作業ができないからなのか。重いものが持てないからなのか・・・。
――今回の事例の場合、利き手である右手が使えないから、という原因でした。
ポイントは、「右手が使えないから」だけでなく、さらにその原因を突き詰めていくことです。例えば、右片麻痺か。じゃあなぜ右片麻痺なの?あ、脳梗塞なのね、と、「調理ができないのは脳梗塞があったから」とひとまとめにせずに、なるべく細かく分析することが大切。
そして、上記のように、図にして書き出してみると混乱しませんよ。
援助目標を確認する
原因がわかったら、援助目標を確認します。なぜなら、目指す目標が共有できていないと適切な支援ができないからです。例えば、もともと調理をしたことがなく、できるようになりたいという希望も持っていない人に「調理ができるようになる」とするのは不要な支援になってしまいます。
だから、この利用者はどうなりたいのかを確認し、援助目標をしっかりと定めます。
――「援助目標の設定」も難しそうなのですが。
確かに、「その利用者に合った適切な援助目標の設定」は難しいです。ただ、考え方は簡単で、まずはケアマネジャーが作ったケアプランを参考にするとよいです。
ケアプランの「第2表」の短期目標、これを訪問介護の援助目標とすることができます。
――え!そんな単純でいいんですか?
はい。実際は利用者に話を伺って本当にその目標でいいか確認を取る必要があります。その過程で「あれ、この人別に調理に支援は必要ないんじゃない?」ということもあります。その場合はいったんケアマネジャーに話を戻して再度アセスメントをしてもらうことも考えられます。
しかし、利用者の意向とケアマネジャーのアセスメントが食い違っていないのであればケアプランで設定された短期目標は、訪問介護の援助目標にすることができます。
私たち訪問介護は、その援助目標を利用者とともに達成することで、ケアプランの長期目標達成に貢献できるのです。
生活行為の細分化をする
次に、生活行為の細分化を行います。私たちは「調理」と一言にしてしまいますが、調理にもいろいろな工程があるはずです。今回はそれを細かく分けてみていくということです。
――うわ、確かに「調理」といっても、こんなにたくさんの工程があったのですね。
そうなんです。ただ、火を使わない料理もあるし、他の介助行為、例えば入浴などでは洗身の順番、やり方など生活行為は利用者それぞれに違います。だから、出したのはあくまでも「例示」です。絶対これ、と決めつけずに利用者に応じて考えたほうが良いです。
そして、この工程の中で、利用者はどれができないのか、実際に利用者にやってもらったり、先ほどの原因分析の結果から当てはめたります。
この利用者は、重いものは持てるし、調理手順もしっかりわかっています。先ほどの原因分析からもわかるとおり、できないのは利き手を使う必要のある食材を切る行為です。
これを把握しないで「調理介助をしよう」と調理行為の全部を肩代わりしてしまうと、利用者がそれまでできていた機能まで奪ってしまうことになります。
支援の内容を考える
利用者のできない行為がわかれば、あとはそれに対してどのような支援ができるのか考えます。
今回利き手が使えないとのことですが、利用者のできることを奪ってしまわないように、使える福祉用具がないかとか、他のサービスや利用者自身の取り組みで解決できないかを考える幅広い視点も必要です。
検討したうえで、難しい場合は訪問介護員ができない部分を代行するわけですが、この時も「どのような工夫をすれば解決できるのか」という視点は忘れないようにしましょう。
自立支援と重度化防止の観点は、サービス提供責任者が持っていてほしい視点です。
この利用者は、「自分で調理をしたい」という要望の強い方でした。そして使えないのは右手だけです。自助具を活用すればトレーニング次第で何とかなるかもしれません。
そのため、今回は援助目標を達成するための留意事項として「自助具を活用しながら、左手で調理に取り組めるように環境を整える」とします。
計画書に落とし込む
――ここまでで色々と解き明かしてきましたが、訪問介護計画にはどう書けばいいのでしょう?
これまでやってきたことは、訪問介護計画に落とし込むための前段階の準備でしたが、これがちゃんとできていると、実はほぼ訪問介護計画は完成していると言えます。
――どういうことでしょう?
計画書には目標、援助内容、留意事項などを書く必要があります。これらは今まで解き明かしてきたものの中に含まれます。場合によってはそのまま転記しても問題ないでしょう。
援助目標 | 自分で調理ができる |
留意事項 | 自助具を活用しながら、左手で調理に取り組めるよう環境を整える |
サービス 区分 | 身体介護 |
サービス 内容 | 自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助(調理) |
――お話を伺っていると、やり方は簡単だと思いました。でも、実践するのはちょっと難しいような気が
おっしゃる通りです。例えば料理をしない人に肉じゃがの作り方を教えたとして、その人は「肉じゃがの作り方」自体は理解できるでしょう。でもレシピはわかっても作れるようにはならないですね。実際においしい肉じゃがが作れるようになるには何度も何度も料理を作る――実践する必要があります。
訪問介護計画の作成も同じです。今回私がお話ししたのも、いわばその「レシピ」であって、それを自分のものにして適切な訪問介護計画を作成できるようになるには、実践において何度も鍛錬が必要になります。
そのためには、同僚に相談したり、サ責向けの研修に出席したりして、研鑽していくしかありません。
計画作成の方法を独学するならこの書籍
――コロナ禍で研修は軒並み無くなってしまいましたね。
そうなんです。サービスが形で残らない私たちの仕事の質は、それを向上させていくために研修会への参加がとても重要でした。自分たちのサービスの振り返りにもなりますし。だからそういったものが開催しづらくなって残念です。
そこで2020年9月に発行した『サービス提供責任者のための訪問介護作成ガイドブック』をご紹介します。
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サービス提供責任者のための訪問介護作成ガイドブック
編集:石田英一郎、坂本文典
著者:高辻恵示、佐々木香織、平山智也
本のサイズ:B5判、208頁
定価:2,200円(税別)- Amazonページはコチラ
- 中央法規e-booksはコチラ (複数冊ご注文いただく際には便利です!)
実はこのインタビューでお伝えしたことはこの本に載っていることのほんの一部なんです。ケアマネジャーが作成するケアプランの読み取り方や、情報収集の仕方、計画を実施した後の評価の仕方など、適切な、理にかなった訪問介護計画を作成するためのメソッドが詰まった本です。
私を鍛えてくれる先輩2人と、あれこれ悩みながら作りました!
なんと、参考にできる実践事例が10個も入っているんですよ。
――ケアマネジャーの事例集ならともかく、訪問介護計画の本で事例が10個も入っているのはなかなかないですよね。
そうですね。様式も違いますし、前例が少ない中でとても苦労しました。しかし、このサイトや本書で学んだことが絵に描いた餅で終わらないように、事例を通してどうしたら実践で応用ができるかを意識して作成しました。きっと皆様のお役に立てると思います。
本書の中にはサ責のお助けシートという先ほどの「生活行為の細分化」をしやすくするためのA3判1枚のシートがダウンロードできるようにもなっています。
訪問介護計画に特化した書籍は今のところほとんどないのが現状ですので、是非お手に取っていただきたいと思います。
平山さんからサ責の皆さんに一言
――最後にサービス提供責任者の皆さんに一言お願いします!
ケアにも出て、ヘルパーのマネジメントや指導を行い、ケアマネジャーや他職種と連絡を取り、地域を走り回る…。私たちサービス提供責任者は多忙です。
だからこそ、私は『面白い』と感じています。それは子どもの頃に憧れた『ヒーロー』に近いからかもしれません。
サービス提供責任者という仕事は、私の誇りです。だから、今日も大好きな逗子の町を笑顔で走り回っています。
この仕事に就き、この記事を読んでいただいているあなたは熱い心(Heart)をお持ちの方です。確かな技術(Hand)を磨き、冷静に判断・分析できるための知識(Head)を蓄える。この3つのH(Heart・Hand・Head)は私たち医療・福祉職にとって、とても大切なことです。
今回、お伝えしている手法は特別なことではありません。皆さんが頭の中で無意識に行っていることを目で見える形にしてみました。訪問介護計画を作成するための根拠として、3つのHを高めるきっかけとして、ぜひ活用してみてください。
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サービス提供責任者のための訪問介護作成ガイドブック
編集:石田英一郎、坂本文典
著者:高辻恵示、佐々木香織、平山智也
本のサイズ:B5判、208頁
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