制度が変わっても問題の根本は変わらない。
知的障害のある人が地域で暮らすために何が必要なのかを考える。
障害者のグループホームは自治体の事業として始まり、1989(平成元)年に国の事業が始まりました。かつては、知的障害のある人は親元で生活して、親の亡き後は施設に入るのが一般的と思われたものですが、時代の流れを受けて、地域移行の場としてグループホームが期待されています。
しかし、事業スタートから26年以上を経た今でも、グループホームを利用する知的障害のある人の割合は多くありません。また、グループホームを退去・転居していく人たちも後を絶たず、その実態は明らかにされていませんでした。
著者は、国内外の先行研究調査、某県でのグループホーム職員のインタビュー調査(転居事例)、全国から抽出したグループホームとケアホーム(2014(平成26)年4月から、ケアホームはグループホームに一元化されました)への質問紙を用いた全国調査を通して、知的障害のある人がグループホームでの生活を続けられなくなった要因や背景を探ります。
本書は博士論文としてまとめたものに加筆修正したものですが、インタビューや質問紙の調査について、社会学的な量的・質的分析を行うだけでなく、事例の生育歴の聞き取りや心理学的な分析も行うなど、同じ素材に対して多様な分析を行っています。そのため、読者は問題となる事象の全体像も個別像も、立体的に把握することができるのが本書の特徴です。
現状では、本人の身体的な要因、個人的な要因、社会的な要因、家族的な要因のほかに、施設内の人間関係、職員の人数や教育、制度・外的な要因が挙げられています。また、知的障害のある人の障害特性に職員が対応できていないこと、職員も入居者の問題行動に対応できるような教育や支援を受けていないことなど、制度や体制の問題があることも指摘しています。精神疾患のある入居者や反社会的な行動(器物の破壊や性犯罪など)を繰り返す入居者の事例も紹介されており、現場の厳しい状況を突きつけられます。
本書を通して、グループホームの現実を多くの人に知っていただき、職員の置かれている状況の改善、親を含む社会全体の意識の変化につながることを期待しています。
(中央法規出版 第1編集部 荒川陽子)