長年の実践と研究から導き出された「地域移行支援プログラム」の提言
2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」では、10年間でいわゆる「社会的入院者」約7万人の退院・地域移行を目指すとされましたが、残念ながら、目標達成には遠く及ばない状況にとどまっています。そして、年間約2万人を超える入院患者さんたちが精神科病棟の中で亡くなっているというのが、この国の現実です。
このようななか、本書は、長期入院患者の地域移行にかかる精神科病院と地域支援機関におけるさまざまな取組みを振り返りながら、長年の実践と研究から得られた効果的な支援要素と支援ツールを具体的に示すことで、社会的入院者の地域移行支援を体系的に展開できるようにすることを目的としています。
特に本書では、“使える”支援ツールとして、「病院・地域統合型包括的地域移行支援連携クリニカルパス」を紹介しています。
従来から、長期入院患者の地域移行が進まない理由として、病院と地域と行政の連携が大きな課題であり、また、精神科病院と地域事業所の間に意識の乖離があることが指摘されてきました。そこで、精神医療領域でも徐々に浸透しつつあるクリニカルパスを活用し、精神科病院と地域事業所・行政機関が共通の地域移行支援パスに基づいて支援を進めることを提起しています。
クリニカルパスは、入院から退院までに行われる検査や処置、看護やリハビリテーションなどの一連の流れを、時間軸に沿ってまとめた診療計画表を指すことが多いですが、ここでは「病院・地域統合型包括的地域移行支援連携」とあるように、長期入院患者の地域移行・地域定着をテーマとし、退院支援の始まりから地域定着に至るまでの、患者本人や病院・地域のそれぞれのスタッフが連携協働するために必要な要素の流れをまとめています。
本書ではパスを、地域移行支援の各段階(ステージ)に応じて6つに分け、それぞれのステージで各職種・各機関が取り組むべきことなどを、具体的に示しました。このパスを通して、各職種・各機関の取組み支援課題は可視化されて相互に明らかとなり、それぞれの段階における連携協働が組みやすくなり、より効果的な支援戦略を描くことが容易となり、支援を要する長期入院患者の地域移行・地域定着を確実なものとしていくことができます。
パスには、患者本人・家族や精神科病院のスタッフ(精神保健福祉士、担当看護師、医師、作業療法士など)、市町村、地域事業所などのそれぞれの役割が示されています。地域移行支援を主業務とする精神保健福祉士(PSW)はもちろん、医師や看護師にも役立ててもらうことができると考えています。
本書は著者の博士論文を下地にしていますが、地域移行・地域定着の有効な支援方法やパスの具体的な使い方など、現場の方々にもより活用してもらえるよう、長大な内容をまとめ直し、論文の堅苦しさを除いて読みやすくしました。また、昨今話題となっている「精神科病棟転換型居住系施設」についても取り上げ、著者の現在の見解も述べています。
地域移行支援にかかわる方々、精神障害者の支援にかかわる多くの方々、ぜひ手にとってみてください。
(中央法規出版 第1編集部 塚田太郎)