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脳卒中後のうつ症状に効果的!


 本書は、タイトルのとおり、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリテーション専門職が、どのように臨床現場で認知行動療法を行ったらよいのか、その理論と方法を説明したものです。

 身体領域のリハビリテーションにおいてもっとも多くみられる疾患は、脳卒中による脳血管障害です。その中で、早期に治療を開始していれば後遺症がみられなくなっていますが、マヒや失語症などの身体障害が残ることもあります。それまで健常で自由に動くことができていた人が、自由に動けなくなるのです。その後の生活はどうなるか、仕事を続けることができるのか、家族に世話になってしまうのかなど、負の連鎖に取り込まれ、うつ症状に陥ることもあります。

 これを「脳卒中後うつ症状」といい、15~72%の患者に生じるという研究も報告されています。脳卒中になって、元に戻ることがないマヒなどの身体障害が残ってしまえば、心身共に落ち込みうつ症状に陥るのは不自然ではないでしょう。

 また、近年、このうつ症状の原因は、脳の損傷による器質的な変化によるものとも報告されていますが、このような患者や障害のある人には、まずは心理的なケアが必要す。しかし実際の治療の現場では、疾患の治療、障害の改善が優先されています。

 そこで、精神科のうつ病の治療に用いられている認知行動療法が活用できるのではないかと目を向けたのが、著者の大嶋先生です。脳卒中や高次脳機能障害のうつ症状に対して認知行動療法を行ってみたところ、大いなる心理的な改善がみられ、治療やリハビリテーションそのものが促進されるようになりました。

 その後仲間を集めて多数の症例を重ねることで、リハビリテーション現場における認知行動療法の知見をまとめることができました。

 認知行動療法とは、もともとは心理的なストレスを軽減する心理療法の1つです。その仕組みですが、人は他人に教えてもらったり本を読んだり体験するなど、ある自分なりの考え方をもって実際に行動をとったり判断します。その自分なりの考え方から導かれた結果を「認知」といいますが、その「認知」がゆがんだり、かたよったりしてしまって勉強や仕事、人間関係などの物事がうまく進まないことがあります。

 その「認知」に対して「あなたはこのような状況ですね。こう考えてみてはどうですか?」というように本人に考えさせて、思考的な認知を少し変化させることで物事をうまく進ませる=行動の変化を起こさせます。認知行動療法は、この思考的な「認知」の変化を起こさせる技術をいいます。

 しかし、認知行動療法の書籍を読んでいても、患者によって臨機応変に行う方法なので、一読しただけではなかなか細部までは理解できません。認知の変化を起こさせる技術は、センシティブでさまざまです。まずは大ざっぱにこのようなものかつかんでみることが理解への道になります。

 本書は理論と方法を中心にして解説しています。認知行動療法は、患者によって治療がうまく進まないリハビリテーション専門職にとっては、ブレイクスルーするためのよい方法になります。看護師やソーシャルワーカーをはじめ、リハビリテーションにかかわる専門職の誰もが読むことができる内容なので、まずは手にとってみてください。

(中央法規出版 第1編集部 星野哲郎)

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