行動障害のある人の困りごとや特性を理解して支援に活かす!
「強度行動障害」ということばを耳にしたことはありますか? このことばは、自傷、他害、噛みつきや頭突きなどといった重度の行動障害をもつ人を指す日本独自の用語です。この概念は1980年代の終わりに知的障害者へのよりよい処遇が模索される中で誕生したものですが、研究や支援実践のなかで行動障害と自閉症の特性との関連が指摘され、現在では行動障害になりやすい背景、支援のあり方の工夫や配慮などが明らかになってきています。
他人に「いやだ!」と伝えられない人が、もし「ちくちくする素材の服が嫌い」なのに、ちくちくする服を着せられたら? 「子どもの声が苦手」なのに、子どもであふれる公園に連れ出されたら? 自分の意思を上手に伝えることができない人たちは、別の形で表現するしかありません。そのように思いめぐらすと、その人にとっての困りごとをきちんと見きわめ、周りの環境からそれをいかに取り除いて穏やかに過ごしてもらうかが大切だとわかります。その人に合った適切な環境が整い、周りの人が適切なかかわりをもてれば、問題とされる行動が表にでることなく、穏やかで安定した生活が実現できるのです。
本書は「強度行動障害支援者養成研修 基礎研修・実践研修」カリキュラムに基づき構成したテキストです。行動障害のある人は(周りからみて)「困った」人ではなく、(本人が)「困っている」人であることを支援の基本に置き、支援に必要な知識や支援実践のポイントをまとめました。その領域の実践者であり研究の第一人者である著者がわかりやすく解説しています。また、20の支援事例を通じてさまざまな取り組みをご紹介するほか、7つのコラムには、家族の気持ち、支援者の気持ち、ICTの活用、事業所での取り組みなど、行動障害のある人に関連する情報を多数取り上げました。
総勢37名の執筆者が総力を結集してまとめた本書は、日々の実践の中で磨かれた支援に役立つポイントが満載です。表紙は、松本寛庸(ひろのぶ)さんの作品「サグラダファミリア」が飾ってくださいました。関係者のみなさまにぜひ手に取っていただきたい1冊です。
(中央法規出版 第2編集部 佐藤亜由子)