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実りの時期を豊かに生きるための人生哲学


 わが国では現在、国をあげて、中高齢世代の健康維持、介護予防が取り組まれている状況です。その中でも特に「知的に老化したくない」という願望は、脳トレブームや認知症予防への関心の高さをみても明らかです。本書は、日常のちょっとした生活習慣を変えることで、脳の老化を防ぎ、知的に豊かに老いるヒントを伝える1冊です。

 著者のダグラス・パウエル博士は、御年80歳ながら、現在もハーバード大学医学部において臨床心理士の指導をしたり、講義を勤めている、まさに健康長寿を体現している方です。先生の健康の秘訣は本書に詳しく書かれていますが、私が特に感銘を受けたのは、「できなくなったことを認め、代替することをためらわない」ということです。

 たとえば、博士は積極的に仕事をあきらめました。こう書くと残念なことのように聞こえますが、仕事を絞ることによって、本当にやりたい仕事を続けられているといいます。そして、自分があきらめた仕事は、教え子に引き継がせることで、若い世代の研究者との付き合いが途切れることなく続けられるそうです。

 本書の出版を記念して、パウエル博士はフルブライト奨学金を利用して来日し、筑波大学で講演されました(写真)。約1か月間滞在し、日本の研究者たちに会い、もちろん観光も楽しみました。このようにゆったりとしたスケジュールで来日できたのも、仕事をあきらめたからだといいます。


来日時の講演の様子

 博士は50代中頃からを「サードエイジ」と定義し、人生において「実り」の季節にあたるステージだといいます。効率よく物事を進めるだけではなく、自由になった時間を使って本当に自分のやりたかった仕事や趣味に打ち込んだり、人と深く交流することも豊かに老いるヒントなのです。そして、豊かに老いることこそが、脳の老化を防ぐ秘訣なのです。

 本書には、エビデンスに基づいた認知機能の維持と関係がある生活スタイルも紹介しています。たとえば、運動習慣をもつ、余暇活動を楽しむ、肥満をコントロールする、健康的な食生活をする、適度な飲酒を心がける、良好な友好関係を保つ、ストレスにうまく対処する……などです。こうした良い生活習慣を実践することも大切ですが、本書が真に伝えたいことは、実りの時期を豊かに生きるための博士の人生哲学なのです。

(中央法規出版 第1編集部 寺田真理子)

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