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弱さを愛せる社会へ 分断の時代を超える「令和の幸福論」

内容紹介

経済成長という“宝の島”の見えない社会で、私たちの“幸福のかたち”はどう変わるのか?

少年犯罪の厳罰化、いじめ、ひきこもり、自殺、津久井やまゆり園事件、障害者の身体拘束、ALS嘱託殺人、依存症、虐待する親たちの増加、正社員の解体――少子化対策の重要性や多様性の尊重が叫ばれるのとは裏腹に、若者を“有用性”の檻に閉じ込めていじめや自殺に追い込み、重度の障害者を明確な理由なく身体拘束することがいまも行われている社会。片や、大人の世界でも正社員の解体など雇用環境の悪化が進み、そのストレスを受けた親たちからの「見えない虐待」に子どもたちは苦しむ…。バブル経済崩壊以降の“劣化”する社会の現実とこれからの時代の“幸福のかたち”を、若者・家庭・障害者などの視点から社会の変化を見続け、東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」の主任講師を務めるジャーナリスト/重度知的障害者の父が深く、ゆっくりと考える。

編集者から読者へのメッセージ

著者は毎日新聞社会部の記者として長らく活躍し、ひきこもりをマスメディアでいち早く取り上げたり、障害者虐待事件のスクープや児童虐待防止法につながるキャンペーンを手掛けるなど、社会的にインパクトのある記事を発信してました。一方、重度の知的障害・自閉症の子の父として行ってきた、障害者の権利擁護や地域生活支援の推進など様々な取り組みでも知られています。私は編集担当として、前者については『殺さないで 児童虐待という犯罪』、後者については『もう施設にはかえらない1・2』や『あの夜、君が泣いたわけ』という本を手掛けてきました。今回の本は毎日新聞を退職した(現在も客員編集委員)著者のこれまでの取材経験をまとめ、タイトルにもある「弱さを愛せる社会へ」という、これからの社会に必要な価値観の変化を訴えるものとなっています。「ジャーナリストとしての集大成をつくろう」という形で始まった企画でしたが、サブタイトルでもある「令和の幸福論」を考えていくうちに、障害者の家族という立場からの経験も当然ながら大きな要素も占めるようになりました。それは、「弱者」の問題が、この国の社会問題として年を追うごとに重要性を増してきたからだ、ということができると思います。ジャーナリスト/障害者の家族という2つの立場が、有機的に絡み合う著者ならではの深い論考をぜひお読みいただければ幸いです。

主な目次

はじめに 2

第1章 あの風はどこへ… 1996年から考える
日本が下降した30年/バブルに沸く社会の裏で/特ダネ競争への違和 /息苦しい社会の「生活」を書く/1995年という転換点/薬害エイズと障害者虐待/メディアのなかの孤独/確かに吹いたやさしい風/地鳴りのような鳴咽/1996年の奇跡/あれから30年

第2章 未来がすりつぶされる
1少年事件と厳罰化
アベック殺人の戦慄/少年法の見直し/おとなしくなった子どもたち/普通の顔をした子ども/厳罰化を急ぐ日本政治の空虚さ/負のエネルギーが内側へ/大人の誤学習/市営住宅の部屋で
2内向するエネルギー
バブル後のいじめ事件/嘘は子どもをダメにする/「迷惑かけてスミマセン」/閉ざされたコミュニティーの倒錯/学校への帰属心という桎梏/自ら命を絶つ子どもたち/中高年が対策の中心だった/死への願望を書き込む若者たち/なぜ、子どもは自殺するのか/「生きたい」というメッセージ/ひきこもり/やり場のない怒りと絶望
3 自信をもてない若者たち
子どもの幸福度調査/「すぐに友達ができる」社会的スキルが低い/有用感をどう考えるか

第3章 大人たちの憂鬱
1父というリスク
恵まれた家庭の風景/父に傷つけられる子どもたち/統計に表れない虐待・DV/子どものまなざし
2 尾崎豊は何を壊したかったのか
「教祖」の実像/経済合理性を求めた時代/「1億総中流」の崩落/怒りをぶつける相手がいない不幸
3 解体される正社員
狙われる中高年社員/若手人材の獲得競争は激化/世代間の断層が深まる/70歳まで雇用確保/定年を機にひきこもる/日本の正社員は優秀か/アイデンティティーの危機/時代の変化に振り落とされる

第4章 楽園とスティグマ
1津久井やまゆり園事件の深層,
優生思想は誰にもある/政治や社会のせいなのか/やりがいはどこで変質したか/真の被害者は誰なのか/ 「障害者は人間として扱われていない」/問われる「生きる価値」/この子らを世の光に 2 人間にとって自由とは
身体を拘束する理由/切迫性・非代替性・一時性/やまゆり園と神奈川県/狭い居室に閉じ込められる/記者クラブの感度/身体拘束はなぜ問題か/暴れるから抑える/ある床屋さん/何が「やっかいな障害者」にしているのか/生まれてすぐ行動障害をする人はいない/静かすぎる施設/虐待を認める/化学的拘束の罠/雑居部屋が今も多い入所施設
3 ALS嘱託殺人
ネットで嘱託殺人を請け負う/見え隠れする「ゲーム感覚」/透析中止の意思はあったのか/慢性期医療時代の医療倫理/難病患者の孤独/難病患者と地域共生/欲望をどう制御するか

第5章 令和の幸福論
1生きるとは何かを失うこと
動かなくなる体/言葉がつなぐ希望/障害者のリアルに迫るゼミ/言葉を失う東大生/命がけのコミュニケーション/荒野を目指した東大生/「本物の社会とつながることができた」/LGBTの学生/自由とは何か
2 当事者という希望
私は、なにもの?/ストレスからの転落/|「ギャンブル依存症問題を考える会」代表理事田中紀子さんとの出会い/「このままでは死んでしまう」/「当事者」が照らす希望/公的システムと当事者
3ゆっくり歩くと風がやさしい
内面を深く見つめ耕す人たち/時代を反映する文学/居場所とは何か/役に立ちたい、助けたい

終章 宝の島はどこにある

おわりに

著者情報

野澤和弘(のざわ・かずひろ)
毎日新聞客員編集委員、植草学園大学副学長・教授
1983年、早稲田大学法学部卒業後、毎日新聞入社。長年、社会部記者として活躍。“ひきこもり”をメディアとしていち早く取り上げた「ガラスのくに」、児童虐待防止法成立のきっかけとなった「殺さないで」など、若者・家庭・障害者の視点から社会を捉えた調査報道で知られる。社会保障担当の論説委員を10年務めて退職し、現職。
障害福祉関連の政府検討会委員を歴任するほか、津久井やまゆり園事件には利用者支援検証委員会メンバーとして関わり、東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」の主任講師も務める。重度の知的障害・自閉症の子どもの父。