第29回 ハードボイルドからソフトボイルドへ
「この辺はじゃんじゃん横チョがあったとこなんだよな。知ってるか?」と、父。
「知らない」と、私。
ユーロスペースという、渋谷の文化村近くの円山町の映画館の前の居酒屋に、少し時間があるので、私たちは入りました。
「本当はこれから貸切だけど、まだ、ボチボチしか来てないから特別にいいよ。食べてって」と、居酒屋のオヤジさん。
映画のポスターが壁中に貼ってあり、どうやら、映画好きの人達が集まる場所のようです。
本日は『骨まで愛して』(1966年、日活)の上映会。父の作品でデビューした、渡哲也さん主演、斉藤武市監督作品です。日活としては異作のプロモーションビデオのような映画。城卓矢さんが歌うヒット曲『骨まで愛して』をモチーフにして創られたものです。恋愛、アクション、ダンス、歌、サスペンスと盛り沢山の映画のヒロイン役は、浅丘ルリ子さん、松原智恵子さん。父の弟、郷鍈治さんも出演しています。
上映後、宍戸錠のトークショーがありました。
「この映画の撮影の時、何本も掛け持ちで、まったく寝ていなかったよ」と、錠。
「夜中、2時間ぐらい、自宅に家庭教師に来てもらい、タップダンスをマスターしたりしたなあ・・・」
そう、子供の頃、夜中、タップのカタコトという音で眠れなかった思い出が・・・そして、クラッシック・バレエをやっていた私は、父のタップの先生の振り付けを全部覚えてしまい、父に教えたような記憶があります。とにかく、スポーツ、芸術、料理等、役のために真剣に取り組み、挑戦する父なのです。親子の会話はありませんでしたが、共通の事柄、特に私の得意分野である踊りに関しては、親子の対話をしたように思います。
映画は時の記憶を思い起こしてくれます。父も私も日活映画を観ながら、昔を振り返りました。
帰り路、前の車が危険な割り込みをしてきました。
「昔だったら、バカヤロー、オモテニデロ!!って言うけどな」と、父。
「まあ、そういうのはやめておこう・・・」
仕事もプライベートもハードボイルド・ジョーだった父は、プライベートはソフトボイルド・ジョーにと、二つを使い分けられる父になってきました。
映画大賞2011特別部門「蘇る名画」受賞作『骨まで愛して』('66)上映+「エースのジョー」こと宍戸錠トークショー
4/28(木)オーディトリウム渋谷にて、ファンの方とのサイン会より
(サインしているジャケットは、鈴木清順監督、宍戸錠主演『殺しの烙印』(1967年、日活)の北米版DVD)
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