第14回 “こたつを出して、鍋パーティーでもしましょうか・・・”
実家は鉄筋コンクリート打ちっぱなしのモダンな家です。
そんな家に似つかわしくない[畳の部屋]と家族で呼んでいた部屋がありました。
小さい頃、その[畳の部屋]はもっぱら父のマージャン部屋で、日活の俳優さんたちがよく来て、「ジャラ、ジャラ ♪」と音を発てていました。
その[畳の部屋]は、冬になるとオレンジ色のテーブルのある掘りこたつに模様替えをします。そして、そのオレンジのこたつテーブルの上でみかんを食べたり、家族団欒の場所でした。
しかし、ほとんど不在の父が家に帰って着ますと、そのオレンジのテーブルはリビングに持ち出されて、フローリングの上に置かれ、白い粉を振り掛け、よく練られた粘土のような塊を父は「バーン」とそのテーブルに叩きつけ、ビニールを上に被せ、「おまえたち、おもいっきり踏め!」と。
私達、子供はオレンジのテーブルの上に乗り、足踏みを「イチニー、イチニー」とステップを踏むように・・・何だか楽しくなってきてステップリズムが軽やかになってきた頃、「よーし!」とテーブルの上から退散するよう命令があり、今度は父が大きな棒で、伸びきった塊を更に伸ばし、四角い大きな包丁で、細長くカットし、「みんな1本1本捩じれ!」と。
私達は手と手を合わせて、細長くカットされたものを捩じっていきます。
「休憩!」と父。
肉体労働で疲れきった私たちはソファーで寝そべり、休むことにしました。
うとうとしてきた頃、「できたぞー!!」と父に呼ばれ、キッチンへ駆け寄ると、白い湯気を立てた美味しそうなラーメンが出来上がっていました。
「美味しいだろう!!」と父。
「うん!」と子供たち。
「自分で作ると美味しいだろう!!」と父。
「うん、うん!!」と私達。
私の友人が実家に泊まりに来た時、朝からステーキを焼いてくれたり、誕生日には、バーべQパーティーをして、肉や野菜を焼いて、特製バーべQソースを作ったり・・・なかなか会えない父でしたが、家にいる時はダイナミックな料理を作ってくれました。
大きくなった私は父のマネージャーになり、今まで沢山美味しい料理を食べさせてくれたお礼にと、出版社の方に企画を持ち込み、交渉しました。出版社の方にも賛同していただき、一冊の本が出来上がりました。
『くいしん坊 宍戸錠 男の料理』
『くいしん坊 宍戸錠 男の料理』 (マガジンハウスムック自由時間)(1998年刊)
そんな料理好きの父が最近、「コンビ二のお弁当はサイコー!」と、料理をあまりしなくなりました。それもそうです。皆、独立して、食べてくれる人もいなくなったからでしょうか・・・
この間、コンビ二のお弁当ばかり食べる父と、愛犬の餌を買いに近所のホームセンターに行ったとき、家具売場にこたつがディスプレーしていた所で、父が立ち止まりました。
「鍋もいいなー」と静かにポツリと父。
年末は父を我が家に誘って、すっかり『くいしん坊 宍戸錠 男の料理』を熟知した夫に作らせ、宍戸錠事務所のメンバーも誘って、こたつを出して[鍋パーティー]でもしましょうか・・・
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