第1回 不器用な父の決断
「家族会議をする」と、突然、父は言い出しました。
渋々集まった家族の前で、「オレは頬の異物とおさらばする!」
家族「・・・」全員反対!1人だけ涙を目いっぱいにためた私を除いては・・・。
2000年、ミレニアム。今から10年前、私は子宮頸がんになり、子宮全摘手術をしました。そして、そのお腹の中にはエースのジョー三世がいたのです。
父は病室にたった一度だけ現れ、「ネバー セイ ダイ」と書いた1枚のカードを私のベッドの上に置いて、トレンチコートを翻して去って行きました。
その後、長年、エースのジョー、殺し屋ジョーと共に共存してきた頬の異物(シリコン)の除去手術をしたのです。
術後は、「MRIの方がCTよりさあ、良くわかるんだよな」とか、「管だらけにされちまってさあ」と父、「そうそうMRIのカチカチって音がね」と私。
父娘は何だか変な共通点でキズナが表現できるようになりました。
この手術は同じ痛みをあじあおうという不器用な父の私への思い。そう、私は、勝手に解釈したのでした。
そして、遠い昔、嫌いだった父、俳優・宍戸錠を一生サポートしていこうと決意したのです。
闘病後、仕事に復帰した、ある日、エースのジョーの熱烈なファンである林海象監督から映画出演のオファーがきました。
日本×上海合作映画で、ほとんどが、真夏の上海ロケ。事前にロケ地の過酷さを説明された私は「無理です!」と先方にお答えしました。
エレベーターのない9階建ての廃墟同然のビルの屋上、しかもトイレもないのです・・・。
結局、沢山の不安材料を抱えながら日本を後にしました。
上海に着いたら「大丈夫だ!オレは活劇俳優だ!」と、私の心配をさて置き、顔合わせの会でビールを飲みながら、「『THE CODE』って、コンセントのついたコードだとおもっちゃうよね」
「はい、そのようにも捉えられます」
姿勢正しいプリンス、尾上菊之助さまは大きな由緒高い瞳で父を直視し、きちんと答えてくれます。
果たして、皆様に迷惑をかけずにロケは無事に終わるのでしょうか。
あの長い階段は登りきれるのでしょうか・・・。
そんなことより、尾上菊之助さまが、だじゃれのジョーに汚染されないことが一番心配です。
灼熱の上海の夜、フラフラと歩く父を私たちは支えながらホテルへの帰路を急ぎます。
白夜に照らされた菊之助さまの後を追いながら・・・。
次回は父と尾上菊之助さまとの不思議な関係??
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