社会保障を考える(3)
■一時は事業仕分けで注目されたが・・・
これを受けた鳩山民主党政権は、自公政権時代の霞ヶ関埋蔵金の有効活用はもとより、国会議員の定数削減や公務員制度改革による人件費の抑制、さらには八ツ場(やんば)ダムの建設工事の凍結など既存の事業の見直しも行い、消費税の引き上げをせず、新たな財源として2013(平成25)年度までに16.8兆円捻出し、国民生活に直結した政治の転換を目指すことになりました。
具体的には、子ども手当・出産一時金の支給をはじめ、公立高校の実質無料化や年金制度の改革、医療・介護の再生、農家への個別所得補償、暫定税率の廃止、高速道路の無料化、地域主権改革、雇用対策、後期高齢者医療制度および障害者自立支援法の廃止など、社会保障関係の政策を中心に「コンクリートから人へ」と大きく舵を切ることになりました。
なかでも注目されたのは、社民党および国民新党との連立政権により、これまで、ややもすれば官僚依存となっていた国政を「政治主導」に改め、今後の政策の開発や実行などについては可能な限り国民に開示し、可視化することでした。その象徴ともいえる取り組みが民間人も交えた事業仕分けで、これには多くの国民が注目しました。
しかし、16.8兆円の財源の捻出はきわめて厳しいほか、沖縄県・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の処理や普天間基地の国外・県外移設をめぐる迷走、さらには北方領土の返還交渉や北朝鮮拉致被害者の引き渡しの見通しの不明さなどが明らかになりました。
また、社会保障関係では、一律支給とする子ども手当は満額支給の見込みがないうえ、財源の全額を税金とした月額7万円の最低保障年金の創設、公的年金の一元化、後期高齢者医療制度および障害者自立支援法に変わる法改正の内容はいまだに不透明なため、国民の支持率はにわかに急降下する有様です。
■「消費税を引き上げない」といったマニフェスト(政権公約)
報道によれば、小沢元民主党代表を中心とした「政治とカネ」をめぐる問題がいまだにくすぶり続けています。これに対する党の対応の不十分さも一因かもしれませんが、根本的には、子ども手当はフランス、最低保障年金と共通番号制度はともにスウェーデンというように、それぞれの政策には同感できるものの、この国のグランドデザインを描かないまま、短期間に“いいとこ取り”しようとする政策に綻(ほころ)びが見え隠れするようですが、いかがでしょうか。
いうまでもなく筆者は政治には素人ですが、マニフェスト(政権公約)は国民に対する約束であるものの、わずか4年という任期中にすべて果たせるなどとは、自民党など野党関係者はともかく、少なくとも国民の誰も思っていないはずです。
要は、マニフェスト(政権公約)の検討や作成、およびその公表にあたっては、その具体的な政策と実行のため、あらかじめそれぞれの領域のブレーンの確保と持続的な連携が欠かせないでしょう。そして、これらのロードマップ(工程表)を国会や国民に開示し、場合によってはマニフェスト(政権公約)の見直しについて国民の理解と協力を求めてもいいのではないでしょうか。
また、自民党が長年にわたる自らの失政を棚に上げ、かさになって民主党を攻撃しているのは見るにしのびなく、国会で代案を示して堂々と論戦をすべきだとも思われます。「政策なくして政局あり」ではあまりにも時間のロスです。
このような折、菅内閣総理大臣は党内に十分諮らないまま、消費税の引き上げによってこの窮状を打開すべく、増税論者の与謝野氏を経済財務政策担当大臣に迎え、「税と社会保障の一体改革」を目指そうとしているわけです。これには、「挙党体制の掛け声はどこへいったのか」といった党内からの反発はもとより、国民の間からも「任期中の4年間は消費税を引き上げない」といったマニフェスト(政権公約)に違反するのではないか、と疑問視されているのも無理からぬ話ではないでしょうか。
消費税の引き上げの論議に戸惑う国民(横浜市の家具ショールームにて)
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