社会保障を考える(4)
■ダイナミズムに欠ける菅政権
このような政局のなか、定年(停年?)退職と相前後して老親の介護に追われたり、老後の不安を募らせているシニアは、こうした先行き不透明な社会保障とどのように付き合っていけばよいのでしょうか。
まず大切なことは、菅政権が「税と社会保障の一体改革」を掲げ、今後、社会保障の改革にどのように立ち向かおうとしているのか、見守っていくことでしょう。
現時点では、今後も毎年1兆円ずつ増えていく社会保障費の財源について、従来どおり、社会保険料と税金で賄うべきか、それとも消費税の引き上げによって新たな財源を投入すべきか、議論が二分されているようです。
しかし、その前に、1989(平成元)年、介護や福祉などの財源を理由に導入され、その後、3%から5%に引き上げられた消費税の使途をまず精査するとともに、一向に解消されていない益税の問題を追跡調査すべきでしょう。また、霞ヶ関埋蔵金の有効活用や国会議員の定数削減、議員報酬および診療報酬の見直し、医師や自営業者などの優遇税制や直間比率の是正、公益法人および公務員制度改革、天下りの禁止、既存の事業の洗い出しによる税源の捻出、さらには国と地方の役割分担も検討されて然るべきでしょう。
とりわけ、既存事業の洗い出しでは軍民両用の宇宙開発や土建型公共事業の一層の削減が必須ですが、民主党は政治献金の禁止から緩和に転じています。また、新幹線や高速道路の延長、八ツ場ダムの建設工事の凍結の解除も行っていますが、これは話が違うのではないでしょうか。
もちろん、その一方で、事業の洗い出しによって失業する人たちの生活を守るため、農林業を再生して食料自給率を改善したり、観光や介護、環境、次世代自動車、水ビジネスなどを成長戦略とすべく、関係企業に資金を助成したり、就労を促進したりして雇用を創出し、経済のグローバル化に対処していくことも忘れてはなりません。
幸か不幸か、わが国の企業の9割は中小企業です。その中小企業は近年の中国製品の輸入などで厳しい経営状況に置かれているなか、TPP(環太平洋戦略的経済提携協定)の締結によっては倒産するところが続出する懸念もあります。それだけに、上述した産業・就業構造の転換は中小企業の振興という点でも有意義ではないか、と思われます。
しかし、最近の菅政権にはそのようなダイナミズムが感じられません。そればかりか、来年度から相続税の基礎控除額を減額する一方、法人税を引き下げるかと思えば、年金や医療、介護などの充実のため、消費税の引き上げ案を来年度中にまとめる構えですが、今後、ますます深刻化する少子高齢および人口減少社会を考えれば、「社会的入院」や過剰診療の問題の解決は残っているものの、社会保障費がさらに増えるのはむしろ自然の成り行きです。
■求められている「新しい公共」
あるべき政治の姿は、このような社会保障に関わる支出には手をつけず、軍民両用の宇宙開発や土建型公共事業などによる無駄を根絶して財源を捻出することではないでしょうか。また、本格化する少子高齢および人口減少社会を見据え、子育て支援を充実したり、男女差別を解消したり、定年(停年?)制を撤廃したりして、女性やシニアも希望すればいつまでも働くことができるよう、国民の「働く権利」を保障し、税金や社会保険料の増収を図って財政を健全化させることが喫緊の政策課題ではないでしょうか。
それにしても、今、なぜ、消費税の引き上げなのでしょうか。それは、税金の引き上げでは多くの国民が何に使われるか、不明で反発が強いため、民主党が4月の統一選挙を戦えないからではないでしょうか。
また、社会保険料の引き上げだと厚生年金や健康保険などの保険料は労使折半のため、企業の負担が増えることを経済界が反対しているのに対し、消費税は広く国民から一律に徴収できるからです。ちなみに、付加価値税(消費税)が20%前後のヨーロッパでは生活必需品は非課税、または低率という複数税率を採用しているのに対し、企業や富裕層に対する税金は高く設定し、<所得の再分配>を通じて社会的公正を図っていることに注意したいものです。
そこで、就活もままならず、将来設計の見通しが立たないニート(無業者)やフリーターなどの若者に比べ、生活が比較的安定しているシニアは当面、老後の生活費や医療・介護費用、あるいは万一、勤務先の経営危機や倒産に伴うリストラ、解雇に備え、人生100年時代を見据えた生活設計を立てて防衛するとともに、政策や政局の成り行きを監視し、場合によっては何らかの行動を起こす必要があるのではないでしょうか。これこそ、民主党が提唱している「新しい公共」ではないかと思われます。
企業や富裕層に対する税金は高く設定されているヨーロッパ(オランダにて)
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川村匡由
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