社会保障を考える(2)
■経済政策で豊かになったものの
ところで、私たちは出生から就学、就業、結婚、子育てといったライフステージを歩み、やがて、定年(停年?)退職して老後を迎え、人生のフィナーレとなります。もっとも、この間、病気やけがなどに見舞われなければ結構なことですが、人生100年時代を迎え、労災や交通事故、リストラ、さらには要介護者にならないとも限りません。
そこで、このような長い人生を誰もが不安なく、かつ安心してまっとうできるよう、国民総意による社会的扶養を基本理念として掲げ、国民の税金と社会保険料を財源として、戦後65年わたって取り組まれてきたのが社会保障です。
しかし、戦後、長らく政権に当たった歴代の自民党単独、あるいは公明党との連立政権は、一昨年、民主党政権に交代するまで、<所得の再分配>という社会保障の機能を十分生かさず、国民生活を重視した社会保障などよりも経済政策を優先し、官公庁の建設や都市整備、あるいは鉄道や道路、橋梁、ダム、空港、港湾などの土建型公共事業を優先した政治に終始しました。その結果、国際社会から奇跡ともいわれるほど短期間に高度経済成長を遂げ、世界に冠たる経済大国となりました。
現に、当時、国民生活の安定の指標とされた「3C」、すなわち、カー、クーラー、カラーテレビはほとんどの家庭に普及し、住まいも「モダンリビング」といわれたように欧米化され、団地族といった言葉も生まれました。また、交通の便もよくなり、一億総レジャーと化し、「消費は美徳」とまでいわれるようになりました。
■生活危機で政権交代に
しかし、その一方で、交通事故死者の激増や会社・工場による大気汚染や水質汚濁、自動車の排気ガスなどの公害が発生し、国民の命と暮らしを蝕むようになりました。
また、有害食品や薬害、催眠商法など企業による“売らんかな”の「資本の論理」、あるいは消費生活に関わる問題も顕著になりました。さらに、沖縄などに駐留されたままの在日米軍に対する「思いやり予算」が巨額になる一方、米軍兵士による交通事故のあて逃げ、少女や一般住民に対する暴行、殺人、窃盗、強盗事件も相次ぎ、日本の政治の有り様やアイデンティティが問われるようになりました。
それだけではありません。これまでの土建型公共事業や「思いやり予算」などのため、国および地方の借金は膨れ上がるばかりで、2010(平成22)年度末現在、900兆円の大台に達し、未曾有の借金大国となりました。
ただし、これらの貸主の9割は金融機関や国民であるほか、国の資産は700兆円、また、国民の金融資産は1400兆円あるといわれているため、ギリシアのような国家の財政破綻はありえないといわれています。このほか、高度経済成長によって内部留保された企業のストックを吐き出させれば、このような窮状も回避できるのではないか、などともいわれています。
一方、土建型公共事業で潤ったゼネコン(総合建設会社)、あるいは「ジャパンマネー」と揶揄(やゆ)された金融機関に対する国民からの批判も渦巻いているようです。また、このような大企業から毎年、多額の政治献金を受けている自民党などの議員、あるいは大企業に天下りし、国民の利益のための行政よりも大企業の利益誘導や、“省益”に終始した高級官僚に対する国民の反発も根強いものがあります。
このような政官財の癒着(ゆちゃく)による政治に対し、国民は一昨年の衆議院総選挙で「ノー」を突きつけ、「国民の生活が第一」をマニフェスト(政権公約)に掲げた民主党に対し、政権交代をお願いしたのは周知のとおりです。
政権交代で政治の民主化を期待した国民(東京都調布市の深大寺にて)
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