社会保障を考える(1)
■税と社会保障をめぐる論議
社会保障と税金をめぐる論議が活発となっています。第二次菅内閣が「強い経済・強い財政・強い社会保障」というキャッチフレーズに続き、「税と社会保障の一体改革」を打ち出しているからです。
折しも、自公政権下の経済財政政策担当大臣時代、消費税の引き上げによって社会保障の改革を提唱していた元たちあがれ日本共同代表の与謝野氏を一本釣りし、新内閣のもとでの同大臣への就任を要請し、本人もこれを受け入れました。
その後、これまた、自公政権下、厚生労働大臣を務めた増税論者の柳沢氏を政府の集中検討会議の委員に迎えました。それだけに、この論議は第二次菅内閣の“国民に信を問う”という意味で、また、“異例の人事”という意味でも、今年4月に予定されている統一地方選挙を前に、成り行きが注目されています。
そこで、今月は、シニアにとっても気になる社会保障についてお話ししましょう。
社会保障という言葉が国際社会で初めて使われたのは、1935(昭和10)年、アメリカにおいて公布、制定された社会保障法です。もっとも、その実態は一部の勤労者を対象とした労働者保険および貧困者の救済に重点が置かれた選別的なもので、すべての国民のニーズに対応した普遍的な制度として確立されたのは第二次世界大戦後です。
戦後、ヨーロッパの各国でも、福祉国家を樹立するためには国民生活の安定および人権の保障を国家の責任によって果たしていくことが必要とされ、今日の社会保障制度の基盤が整備されました。
具体的には、イギリスのべバリッジ報告をはじめ、国連が1948(昭和23)年に開いた総会で採択した「世界人権宣言」、およびILO(国際労働機関)が1951(昭和26)年に採択した「社会保障の最低基準に関する条約(第102号条約)」によるところが大きいものでした。とりわけ、そのなかで国民の基本的人権について国家が保障し、すべての国民が社会保障を受ける権利を持つ旨を明言していることは注目に値します。
ともあれ、社会保障は国家の責任による、その国のすべての国民に対する生活保障のための制度というわけですが、その概念はそれぞれの国や地域の違い、また、時代の推移や研究者によって異なるため、国際的に統一されたものはありません。
こうしたなかで、ILOは社会保障の重点的な給付として医療給付をはじめ、疾病給付や失業給付、老齢給付、業務災害給付、家族給付、廃疾給付、遺族給付の8つを挙げました。
■わが国は最も幅広い概念を採用
しかし、わが国では、憲法第25条第1項の国民の生存権の保障および第2項の国の社会保障的義務の規定に基づき、1950(昭和25)年に当時の吉田内閣総理大臣の諮問機関、社会保障制度審議会が出した「社会保障制度に関する勧告(50年勧告)」を踏まえ、これらの給付に関わる社会保険、公的扶助(生活保護)、社会福祉、公衆衛生および医療、老人保健のほか、恩給や戦争犠牲者援護、住宅対策、雇用対策を加えた最広義の概念として社会保障をとらえています。
なかでも年金保険や医療保険、失業保険(現雇用保険)、労働者災害補償保険(労災保険)、の4つからなる社会保険と公的扶助(生活保護)をその中核として位置づけ、「国民皆年金」および「国民皆保険」体制を整えました。そして、2000(平成12)年に介護保険制度の創設、2008(平成20)年、従来の老人保健精度に代わる、後期高齢者医療制度を加えるなどした社会保障制度の整備・拡充に務めています。
世界でもまれな最広義の社会保障を採用している日本だが・・・(群馬県南牧村の集落にて)
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