雇用を考える(2) 法律上の権利と義務
■「納税の義務」を例に考える
ところで、一般的に権利とは国民が国に対して主張できる法的な行為ですが、その権利の行使によって保障され、提供されるべき行政サービスが不十分であれば、権利は「絵に描いた餅」に終わってしまいます。
また、国民の当然の権利として行使することにおいて、当該の行為が一定の要件を満たし、かつ必要な行政サービスが提供されることになったとしても、その行政サービスを提供するために必要な財源が確保されていなければ、権利の保障を果たすことはできません。
そこで、その財源の確保のため、広く国民にその負担が義務として課せられています。そのなかでも最も重要なものは「納税の義務」です。
ここでもう一度、憲法に目をやりますと、その第30条に「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う」という規定があります。この「納税の義務」は、先述した第27条の「勤労の義務」、および第26条の「教育の義務」とともに「国民の3大義務」の一つといわれています。
ただし、「働く権利」がここでは「勤労の義務」、また、「教育を受ける権利」は「教育の義務」とそれぞれ定められていますが、納税については義務のみの規定となっていることに注意が必要です。
なお、第30条は義務を定めたものではなく、法律にもとづかなければ「納税の義務」を負わないという権利を定めたものにすぎない、といった意見もあるようです。
もっとも、私見ですが、「納税の義務」ばかりが強調されると「税金は徴収されるものだから、可能なら払いたくない」といった誤解を招くおそれもあります。その結果、納税の意欲をなくしかねないように思われますが、いかがでしょうか。
■「働く権利」と「納税の義務」
さて、本題の「働く権利」と「納税の義務」の関係ですが、実は、この「働く権利」は労働者の保護だけが目的とは言い切れません。なぜなら、行政が国民の多様なニーズに応え、さまざまな行政サービスを提供すべく、その財源の確保のため、国の国民に対して「働く権利」の保障とともに国民に対して「働く義務」を課し、かつその対価としての報酬(賃金)の一部を税金として納めるよう、「納税の義務」を課してもいるのです。
これを言い換えれば、「働く権利」が保障されているため、国はその反射的利益ともいえる「納税の義務」を国民に課しているわけです。
また、国が広く国民に対し、「働く権利」を保障するため、必要な行政サービスを提供するには財源の確保が必要であるため、単に憲法やそれに関連する特別法を制定したり、改正したりするだけでは不十分です。そこで、労働政策や経済政策も表裏一体的に講じていく必要があります。
とりわけ、経済政策にあっては経済界の理解と協力が強く望まれることになりますが、だからといって、経済界ばかりに気兼ねをしていてはよい政治はできません。なぜなら、経済界の発展もそこで労働者として雇用される国民があってはじめて遂げるからです。
したがって、政治と経済は“車の両輪”というわけですが、そのためには国内だけでなく、国際社会も見据え、グローバルな視点で適切、かつ迅速な対応が求められます。
税金は取られるものではなく、納めて財源にするもの(都下の税務署にて)
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