雇用を考える(3) 現実の雇用環境と地域社会
■少子高齢化と人口減少
では、政治と経済は常に“車の両輪”のように好転しているのでしょうか。残念ながら、答えは「ノー」です。
経済が順調であれば雇用も安定するため、その対価である報酬(賃金)もそれなりに保障はされます。その結果、報酬(賃金)の一部に課せられる税金も定期的に税収として国に納められるため、政治もこれを財源とし、国民のニーズに応じた行政サービスが提供されることになります。
昭和30~40年代後半の高度経済成長時代がまさにその時期でしたが、その後は石油危機やバブル経済の崩壊、さらには「100年に1度の経済危機」(?)や経済のグローバル化に伴う円高・デフレ現象によって日本経済は長引く不況へと陥ってしまい、今日に至っています。
これを数字的にみると、国と地方の債務の残高は2010(平成22)年11月現在、900兆円と先進国のなかで断トツで未曾有の“借金大国”となっており、GDP(国内総生産)は中国に抜かれて世界第三位に陥落してしまいました。また、社会保障費は少子高齢化の進展や「社会的入院」、“検査漬け・薬漬け”などのため、毎年1兆円ずつ増え続けており、国の予算の全体の4分の1を占めるまでに肥大化しています。
しかも、この少子高齢化のなかでも、高齢化は今後、さらに深刻化し、2050~2060(平成62~72)年には高齢化率が現在よりも倍の40%の大台に乗るほか、人口そのものの減少も2005(平成17)年以後、さらに加速化するということです。このため、ただでさえ、疲弊している日本経済はますますその深刻度を増すのではないか、と憂慮されています。
■「自己責任」と「無縁社会」
そのなかで、とくに懸念されているのは私たちの雇用です。
具体的には、長い間、常識とされた終身雇用・年功序列制度が崩れ、「100年に1度の経済危機」(?)や経済のグローバル化が叫ばれるなか、「自己責任」が必要以上に強調され、サラリーマンは、いつ、なんどき、失業するかわからない状況になったことです。
もちろん、政権交代した民主党政権はこのような緊急事態に手をこまねいているわけではなく、たとえば昨年10月、雇用保険(失業給付)における無制限の加入期間の追加による失業手当の支給を始めました。
周知のように、雇用保険(失業給付)の保険料は毎月、報酬(賃金)から天引きという形で納めることになっていますが、このところの不況を背景に、一部の事業主が保険料をピンはねしていたため、当該の期間に関わる保険料が未払いとされ、従業員が解雇されても雇用保険(失業給付)を受けられなかった事案が相次ぎました。このため、従来、雇用保険(失業給付)を受けるには過去2年以内にしかさかのぼって加入できなかったことを重視し、昨年10月から期間が制限されず、さかのぼって加入できるように法改正されました。
また、雇用保険(失業給付)の加入に必要な雇用期間も昨年4月、6か月以上から31日以上に短縮されました。
思うに、日本は他の先進国と同様、戦後、経済の復興のため、ケインズ理論にもとづき、国をあげての公共投資によって雇用を創出して高度経済成長を遂げ、「大きな政府」を実現しようとしましたが、その矢先、世界的な石油危機に見舞われました。そこで、登場したのがフリードマンを代表とする新自由主義(新保守主義)による「小さな政府」への転換でした。
しかも、それはソ連(現ロシア)をはじめとする社会主義国の崩壊という歴史的な証左を受けてのものとあって、日本もアメリカやイギリスにならって臨調・行革路線へとシフトし、政治も経済も「右へならへ」の大合唱となりました。1990年代の社会保障構造改革としての年金改革、措置制度から契約制度への転換を意図する介護保険制度の創設などもその一環でした。
そこで、大企業は厚生年金基金の代行返上や解散、また、労働者派遣法の“改正”を受け、正規雇用者だけでなく、パートタイマーやアルバイターも労働契約によって自由に雇用できるようになりました。このため、多くの従業員を解雇や雇い止めをしたことに伴い、3人に1人が非正規雇用者となって仕事を失って離婚したり、ホームレス(路上生活者)になったり、3万人以上もの自殺者を招く要因となっているのです。
また、ホームレス(路上生活者)に声をかけて生活保護を申請、アパートに入居させて生活保護費をピンはねする“貧困ビジネス”もはびこっているほか、各地に大手スーパーが進出し、昔ながらの商店街はシャッター通りと化し、地域経済は疲弊するばかりです。その結果、住民の共同体意識も希薄化し、100歳以上高齢者の生死不明問題など、いわゆる「無縁社会」を生んでいるのです。
シャッター通りが目立つ各地の商店街(栃木県那須塩原市にて)
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