高齢者所在不明問題を考える(3)~調査は75歳からでなく60歳から
■「第4権力」としてのメディアのあり方
ここまでお話ししますと、日本は役所も役所なら、国民も国民という構造的な問題もあるように思われますが、ここでもう一つ大事なことはメディアのあり方ではないでしょうか。なぜなら、メディアは、立法(国会)、行政(内閣)、司法(裁判所)に続く「第4権力」として大きな役割(影響?)を持っているからです。
しかも、その役割(影響?)は年々大きくなっています。社会評論家の大宅壮一は生前、テレビの普及に対し、国民の受け身的な姿勢は人間としての想像力や思考力を低下させるため、白痴化させるおそれがあるとして警告しました。「一億総白痴化論」がそれですが、それを現実のものとしたのが小泉首相当時の郵政民営化、また、その後の構造改革で、当のメディアをして「小泉劇場」といわしめたものでした。
そこでは、肝心のメディアだけでなく、そのようなメディアによってもたらされる情報に振り回される国民にも問題があるわけですが、メディアを通してでなければ情報を得られない国民がいることも確かです。そこに、メディアに対し、国民の「知る権利」を代弁し、“社会の木鐸(ぼくたく)”、あるいは“社会の公器”として期待されているゆえんです。
しかし、その一方で、このようなメディアの情報に振り回され、行動に左右されるという、人間としての想像力や思考力を意図的に育成せず、むしろ管理(統治)する教育政策に一因があることも指摘できるのではないでしょうか。
ともあれ、メディアの果たす役割(影響?)はそれだけ大きなものがあるわけですので、今回の高齢者所在不明問題について、ただ「お役所仕事」と指摘するだけでは、ことの真相の究明、ひいては「主権在民」という憲法の精神に立った、現行の法制度やそれにもとづく人事、行政機構を改めることなど、土台無理なのではないでしょうか。
■60歳以上の追跡調査と制度の改革を
そこで、今回の高齢者所在不明問題に話を戻せば、その追跡調査の対象について、なぜ、100歳以上、あるいは75歳以上の高齢者なのか、ということです。筆者にいわせれば、旧制度の老齢年金(老齢福祉年金は65歳)の支給開始となる60歳以上を対象にしないのか、ということです。なぜなら、60歳以上ともなれば親子同居から親子別居、虚弱、あるいは配偶者との死別、さらには離婚や再婚など家族形態の変化も十分あり得る話だからです。
このような年金の受給者に対し、2006(平成18)年9月までは、毎年の誕生月に「年金受給権者現況届(現況届)」が本人あて郵送され、本人、または同居、あるいは別居している家族にそのむね回答をするよう、依頼されていましたが、年金受給者の手続きの簡素化を図るため、翌10月から住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が導入されたのを機に廃止されました。この結果、その回答・提出が原則として不要になりました。
それをいいことに、また、生活苦(生活苦なら生活保護を申請することになる)、あるいは門前払い的な生活保護の窓口行政をきらって、さらには、詐欺であることを認識していながら、その後も受給していたことが今回の問題の発端でしたが、業務の合理化、効率化、言い換えれば国民本位のサービスよりも、行財政改革を優先した国策の失政も遠因にあるように思われます。
家族形態の変化が著しい日本だが……(埼玉にて)
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