国民医療費が膨張したのはなぜか
■世界最長寿国の日本
先月は「生活三要素」の「衣食住」に関連して環境について取り上げたので、今月は近年、この衣食住に一部変わる「医職住」のなかでもシニアにとって一番気になる「医」、すなわち、医療について考えてみたいと思います。
それというのも、わが国は最近でこそ長引く不況に陥っているものの、戦後、世界各国から奇跡ともいわれるほど短期間に戦災復興を遂げ、かつGDP(国内総生産)は資本主義国のなかでアメリカに次いで第2位に躍り出て、東洋ではキラ星のごとく輝くように発展したからです。
現に、その恩恵を受け、WHO(世界保健機構)の2010年の「平均寿命ランキング・国別順位」によると、わが国の平均寿命は83歳で、このうち、男性は79歳、女性は86歳と、文字どおり、世界最長寿国になっています。ちなみに世界最短命国はアフガニスタンとジンバブエで、いずれも42歳となっており、わが国とは40歳近くもの差があります。
■進行する高齢化
このように名実とも世界最長寿国となったわが国ですが、シニアならずとも不安を抱くようになったのは加齢に伴う医療費の増加です。現に、わが国の国民医療費は毎年1兆円ずつ増えており、厚生労働省の調査によると、2008(平成19)年度現在、約34兆1360億円で、前年度と比べて同1兆0084億円、3.0%の増加となっています。しかも、このうちの3分の1は老人医療費で占められています。
その原因は高齢化の進展に伴う平均寿命の伸長をはじめ、医療技術の発達による高額な医療費の支出、あるいは一部の医療機関による過剰診療や架空診療、また、「老人サロン」と揶揄(やゆ)されるような不必要な受診や「社会的入院」、さらには製薬会社による官僚の天下りの受け入れや厚生族議員への政治献金、医療機関および薬局による“薬漬け”などが主なものといわれていますが、今後、高齢化はさらに進み、2055~2060(平成67~72)年には高齢化率が40%台とピークを迎えます。
高齢化率は2010(平成22)年現在、22.5%であるため、その2倍に相当するわけで、単純計算をすると国民医療費は将来、老人医療費を中心に70兆円にも上ると推計されています。
■無料化から有料化、そして、後期高齢者医療制度へ
周知のように、わが国の医療は、戦後まもなく公布、施行された憲法第25条第1項の国民の生存権の一つとして、1961(昭和36)年、国民健康保険法が改正・施行され、戦前からの健康保険など一部の制度と合わせ、「国民皆保険体制」を迎えました。その結果、会社員などの被用者および被扶養家族は健康保険など、自営業は国民健康保険というように、日本人であればだれでも何らかの公的医療保険が適用されることになりました。
また、高齢者については岩手県沢内村(現西和賀町)による先導的な取り組みを受け、1973(昭和48)年、医療費の無料化が国策として講じられましたが、高齢化の進展に伴う老人医療費の増大により、その2年後の1983(昭和58)年、老人保健法が施行されて有料化となりました。
もっとも、その医療費の一部を拠出していた従来の健康保険などが軒並みに医療保険財政を圧迫することになったため、2008(平成20)年、75歳以上の後期高齢者については別立ての独立した医療制度を創設し、医療保険財政の建て直しを図ることになりました。これが後期高齢者医療制度です。
高齢の患者たちのよりどころは医療機関(夕張市にて)
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